高齢者の脊柱変形と躯幹短縮による生活機能低下の実態の解明と予防法の開発

文献情報

文献番号
200500371A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の脊柱変形と躯幹短縮による生活機能低下の実態の解明と予防法の開発
課題番号
H16-痴呆・骨折-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
中村 利孝(産業医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 英世(東京都老人総合研究所)
  • 細井 孝之(国立長寿医療センター)
  • 藤原 佐枝子(放射線影響研究所)
  • 吉村 典子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 白木 正孝(成人病診療研究所)
  • 井上  聡(東京大学大学院医学系研究科)
  • 青柳  潔(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究【痴呆・骨折臨床研究(若手医師・協力者活用に要する研究を含む)】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
12,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は高齢者の脊柱変形と躯幹短縮による生活機能低下の実態を明らかにし、高齢者の生活の質を改善させることが目的である。
研究方法
5つの地域在住中高齢一般住民コホートで以下の研究を行った。
1)男女1941人を対象に、身長低下と骨関節疾患、QOL低下の関連を調べた。2)男女400人を対象に、脊椎椎体骨折の累積発生率を調査した。3)女性141名を対象に、新規脊椎椎体骨折・身長低下の発生率を縦断的に調査した。4)女性291名を対象に、脊椎変形や躯幹短縮が日常生活機能へ及ぼす影響を縦断調査した。5)女性486例を対象に、身長短縮に寄与する因子、身長短縮がQOLに与える影響を検討した。6)骨・軟骨代謝に関連する酵素、伝達物質の遺伝子群について、一塩基置換遺伝子多型(SNPs)を用いた解析を行い、変形性腰椎症ならびに骨量との関連について調べた。
結果と考察
1)身長低下に与える要因は、高年齢、椎体骨折で、2cm以上の身長低下は、健康関連QOLが低下し、4cm以上ではその程度が著しかった。2)40-70歳代の10年間の脊椎椎体骨折発生率は、男性5.6%、女性9.9%で、既存椎体骨折がある場合さらに高率となった。3)新規椎体骨折発生者率は60歳代から80歳代まで8.7%、17.5%、50.0%、身長低下は同8.5%、15.3%、50.0%と加齢により増加した。4)生活機能低下を招く要因は、低身長、身長低下、椎間板腔狭小化、および椎体変形であった。5)高齢女性の身長短縮は加齢により進行し、新規脊椎骨折の発生数と椎間板狭小化が関与した。加齢、身長短縮、脊椎骨折発生数および椎間板狭小化がQOL低下に影響した。6)TNSALP遺伝子多型性は後期高齢女性の骨量に影響を及ぼし、LRP5遺伝子多型は椎体骨棘形成と関連し、Wnt-βカテニンシグナル伝達因子のWNT10B、WISP1の遺伝子多型は骨量、椎体終板硬化に関連した。
結論
1)身長低下は骨密度低下、脊椎骨折、椎間板狭小化、および加齢とそれぞれ関連していた。
2)身長低下、椎体圧潰変形、椎間板狭小は、疼痛や精神状態を含めた健康関連QOL、歩行能力などの日常生活動作などを悪化させた。
3)TNSALP、LRP5、WNT10B、WISP1などの遺伝子多型は椎体終板硬化、椎体骨棘形成、骨量に影響を及ぼしていた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-04
更新日
-

文献情報

文献番号
200500371B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者の脊柱変形と躯幹短縮による生活機能低下の実態の解明と予防法の開発
課題番号
H16-痴呆・骨折-021
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
中村 利孝(産業医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 英世(東京都老人総合研究所)
  • 細井 孝之(国立長寿医療センター)
  • 藤原 佐枝子(放射線影響研究所)
  • 吉村 典子(東京大学大学院医学系研究科)
  • 白木 正孝(成人病診療研究所)
  • 井上  聡(東京大学大学院医学系研究科)
  • 青柳  潔(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究【痴呆・骨折臨床研究(若手医師・協力者活用に要する研究を含む)】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は高齢者の脊柱変形と躯幹短縮による生活機能低下の実態を明らかにし、高齢者の生活の質を改善させることである。
研究方法
平成17年度までに5つの地域在住中高齢住民コホート(A;広島県男女1941人、B;和歌山県男女400人、C;長崎県女性513名、D;秋田県女性219名、E;長野県女性1162名)で脊柱変形・躯幹短縮とQOLの関連について縦断的研究を行い、脊柱変形と遺伝的要因の関連について2つの横断研究(F, G)を行った。
結果と考察
脊椎椎体骨折)40-70歳代の10年間の椎体骨折発生率は、男性5.6%、女性9.9%で、既存椎体骨折があるとさらに高率となった(コホートB)。椎体骨折年間平均発生率は平均追跡期間6年で2.2%で、高齢になるほど増加した(同C)。
身長低下と関連因子)平均調査期間6.0年での身長低下者は12.1%、年間平均発生率2.0% で(同C)、身長低下には骨密度低下、加齢、椎体骨折発生、および椎間板狭小化が関連した(同A, B, E)。
身長低下・脊柱変形とQOL)椎体骨折発生数、椎間板狭小化、片脚起立時間が短いことは腰痛・背部痛の悪化と関連し、背中を伸ばす動作や歩行動作を制限し、QOLを低下させた(同C, D, E)。低身長、身長低下は、QOL・ADLの低下、および将来的な転倒発生リスクに関連した(同A, C, D, E)。特に、2cm以上の身長低下は、健康関連QOLが低下し、4cm以上ではその程度が著しかった。
脊柱変形・骨量と遺伝子多型)一塩基置換遺伝子多型(SNPs)解析の結果、GGCX、TNSALP、WNT10B遺伝子多型は骨量に、GGCX、WISP1の遺伝子多型は終板硬化に、LRP5遺伝子多型は椎体骨棘形成にそれぞれ関連した。(同F, G)
結論
1)脊椎椎体骨折は、椎間板狭小化、終板硬化および骨棘形成などの脊柱変性と密接に関連し、加齢に伴い直線的に頻度が高くなった。
2)身長低下は骨密度低下、脊椎骨折、椎間板狭小化、および加齢とそれぞれ関連していることが明らかになった。
3)身長低下、脊柱変形、および前傾姿勢はそれぞれ、健康関連QOL、歩行能力などの日常生活動作、転倒リスクなどを悪化させることが明らかとなった。
4)GGCX、TNSALP、LRP5、WNT10B、WISP1などの遺伝子多型は椎体終板硬化、椎体骨棘形成、骨量に影響していることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2006-04-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500371C

成果

専門的・学術的観点からの成果
(1)研究目的の成果
一塩基置換遺伝子多型(SNPs)解析の結果、GGCX、TNSALP、LRP5、WNT10B、WISP1などの遺伝子多型は椎体終板硬化、椎体骨棘形成、骨量に影響していることが明らかとなった。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
骨粗鬆症に関しては、いままでいくつかの遺伝子多型の影響が報告されているが、脊柱変形に関する遺伝的背景の報告は希有で、本研究の成果は、今後、国際学会発表、国際誌論文発表を行っていく。
臨床的観点からの成果
(1)研究目的の成果
縦断的コホート研究で、高齢者における身長低下・躯幹短縮と脊柱変形・骨量低下の実体および両者の関連、および、身長低下・躯幹短縮、脊柱変形が生活機能低下に及ぼす影響が明らかとなった。
(2)研究成果の学術的・国際的・社会的意義
高齢者における身長低下、躯幹短縮および脊柱変形が、生活機能低下に及ぼす影響について、本研究のように包括的に詳細に調査した研究報告は国内外でも少ない。本研究の成果は、今後、国際学会発表、国際誌論文発表で公表する予定である。
ガイドライン等の開発
2cm以上の身長低下、躯幹短縮は、脊柱変形や脊椎椎体骨折と密接に関連し、生活機能の低下につながり、特に4cm以上の身長低下ではその程度が著しくなることが明らかになった。地域住民検診による経時的身長測定の変化や姿勢変化をとらえることにより、従来の疾患検診に比べ経済的に安価で非侵襲的に、骨粗鬆症、変形性脊椎症などの疾患スクリーニングが行える可能性を示唆した。そのために、年齢や身長低下の度合いと有病率のカットオフ値の設定に関するさらなる今後の研究が期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果によって、加齢による脊柱の変形、躯幹の短縮の実態、ならびにこれらが生活機能の低下に及ぼす影響が明らかになった。特に2cm以上の身長低下は要注意で、4cm以上の身長低下は危険情報となりうるという具体的な情報を国民に提供でき、高齢者の生活機能の低下を早期発見する手がかりが可能となった。これらにより、脊柱変形や躯幹短縮の予防、早期発見が可能になれば医療費削減に貢献できるとともに、高齢者の労働能力、生産性の向上にも貢献できる可能性を提示した。
その他のインパクト
本研究の成果を活用することにより、加齢による背中の曲がり、躯幹の短縮身は“年齢のせいで仕方がない”という社会一般にある固定観念に対して、“背中の曲がりは防止できる可能性がある”という新たな観点を開き、さらには、身体のバランス機能を維持による転倒防止など、具体的な広く国民の保健・福祉の向上に貢献できることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
92件
その他論文(和文)
70件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
58件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Oka H,Yoshimura N. Kinoshita H, et al.
Decreased activities of daily living and associations with bone loss among aged residents in a rural Japanese community:The Miyama Study
J Bone Miner Metab(in press)  (2006)
原著論文2
Urano T,Shiraki M,Inoue S, et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in low-density lipoprotein receptor-related protein 5 gene with bone mineral density.
J Bone Miner Metab , 22 , 341-345  (2004)
原著論文3
Urano T,Takahashi S,Inoue S, et al.
14-3-3sigma is down-regulated in human prostate cancer.
Biochem Biophys Res Commun , 319 , 795-800  (2004)
原著論文4
Fujita M,Urano T,Inoue S, et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the secreted frizzled related protein 4 (sFRP4) gene with bone mineral density.
Geriatric Gerontol Int , 4 , 175-180  (2004)
原著論文5
Ikeda K,Ogawa S,Inoue S, et al.
Protein phosphatase 5 is a negative regulator of estrogen receptor-mediated transcription.
Mol Endocrinol , 18 , 1131-1143  (2004)
原著論文6
Ezura Y,Kajita M,Inoue S
Association of Multiple Nucleotide Variations in the Pituitary Glutaminyl Cyclase Gene (QPCT) With Low Radial BMD in Adult Women.
J Bone Miner Res , 19 , 1296-1301  (2004)
原著論文7
Sudo Y, Ezura Y,Inoue S, et al.
Association of a single-nucleotide polymorphism in the promoter region of leukemia inhibitory factor receptor gene with low bone mineral density in adult women.
Geriatri Gerontol Int , 4 , 245-249  (2004)
原著論文8
Horie-Inoue K, Bono H,Inoue S, et al.
Identification and functional analysis of consensus adnrgen response elements in human prostate cancer cells.
Biochem Biophys Res Commun , 325 , 1312-1317  (2004)
原著論文9
Ogushi T,Takahashi S,Inoue S, et al.
Estrogen receptor-binding fragment-associated antigen 9 is a tumor-promoting and prognostic factor for renal cell carcinoma.
Cancer Res , 65 , 3700-3706  (2005)
原著論文10
Sudo Y,Ezura Y,Inoue S, et al.
Association of single nucleotide polymorphisms in the promoter region of the pro-opiomelanocortin gene (POMC) with low bone mineral density in adult women.
J Hum Genet , 50 , 235-240  (2005)
原著論文11
Suzuki T,Urano T,Inoue S, et al.
Estrogen-responsive finger protein as a new potential biomarker for breast cancer.
Clin Cancer Res , 11 , 6148-6154  (2005)
原著論文12
Asaoka K,Ikeda K,Inoue S, et al.
A retrovirus restriction factor TRIM5alpha is transcriptionally regulated by interferons.
Biochem Biophys Res Commun , 338 , 1950-1956  (2005)
原著論文13
Horie-Inoue K,Takayama K,Inoue S, et al.
Identification of novel steroid target genes through the combination of bioinformatics and functional analysis of hormone response elements.
Biochem Biophys Res Commun , 339 , 99-106  (2006)
原著論文14
23. Urano T,Shiraki M,Inoue S, et al.
Association of a single nucleotide polymorphism in the steroid and xenobitic receptor (SXR) gene (IVS1-579A/G) with bone mineral density.
Geriatric Gerontol Int (in press)  (2006)
原著論文15
Ezura Y,Nakajima T,Inoue S, et al.
Association of a single-nucleotide variation (A1330V) in the low-density lipoprotein receptor-related protein 5 gene (LRP5) with bone mineral density in adult Japanese women.
Bone (in press)  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-