保育の実態に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
199700034A
報告書区分
総括
研究課題名
保育の実態に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
前田 正子(株式会社・ライフデザイン研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1980年代から少子化が問題になりだして久しい。その後、少子化の原因を巡っては、様々な議論がなされてきた。エンゼルプランなど子育て支援の政策が打ち出されてはいるが、出生率は下がり続けている。子どもを産む産まないはあくまでも個人の選択であるが、「産みたい人が産める社会づくり」のためには、まずは保育の整備が欠かせないとも言われている。しかし、施設保育は別として、施設外保育の実態把握は殆どなされていないのが実状である。だが、今後の保育政策の立案のためには、施設保育だけでなく、施設外保育の利用状況やその長短の分析が欠かせない。そこで、この研究では保育の全体像を描くために、既存統計や資料、供給者・利用者へのヒアリングを行って、施設外保育の状況を分析する。
本研究では、より良い保育政策の立案に資する保育の基礎情報の提供を目的とする。
研究方法
保育に関する既存データー(統計・利用者調査・供給者調査)を収集・整理・分析することにより、施設外保育の種類・分類を明らかにし、それぞれの供給者と利用者の規模を推計した。また供給者利用者両方へのヒアリングを通して、既存データーや調査では不明な点を明らかにすることにより、それぞれの施設外保育の規模、特質、保育手段としての長短、問題点と課題、必要な政策的対応や今後の方向性について明らかにした。
結果と考察
本研究では、とくにその実態把握がなされていない、保育ニーズの推計及び、施設外保育についての調査を行った。今回の調査研究で判明したのは以下のような点である。
?、保育を必要とする就学前児童は約250万人程度存在すると考えられるが、特に低年齢時に保育所定員が不足している。そのため、低年齢児では、親族の保育が大きな割合を占めている。だが、今後は親族に施設保育の代替を期待するのは非現実的だと思われるため、低年零児保育の大幅な拡大が望まれる。
?、三世代世帯の方が母親の就業率が高いものの、子どものいる世帯では核家族が多数を占めるため、実際に働く母親の7割が、核家族世帯である。 そのため、親族が担ってきた柔軟な保育を社会的に供給できるような制度作りが求められる。 ?、家庭的保育、ベビーシッター、民間保育ママ、ファミリーサポートセンターなど施設外保育の手段はいろいろあるが、それによって保育されている子どもの数は少なく、親族以外の施設外保育は主要な保育手段とはなっていない。 施設外保育を採算に乗る民間ベースの営利事業として展開する場合は、保育料が高額となり、一般の親が気軽に利用できるような料金とはならない。一方、一般の親が支払えるような低額の保育料の場合は、ボランティア的な保育者でなければ実施不可能であり、保育を受けたいとする希望者に対して、保育の供給に従事する保育者が足りない事態となっている。 ?、施設外保育の利用者の3割程度は専業主婦が占めており、働く母親だけでなく、専業主婦も緊急的な保育ニーズを抱えており、専業主婦も「保育に欠けている」状態である事が推察される。そのため、子育て最中の専業主婦に対しても、何らかの社会的な育児支援が必要である事が伺われる。
?、学童保育については、法制化されたもののいまだに運営形態や行政の責任関係、保育内容、保育者の基準などのバラツキが大きく、一層の学校との連携や今後の整備基準作りなどが望まれる。
?、事業所内保育園の約9割は民間企業の施設であり、「医療」「販売」の業種が多くなっている。料金的には非常に安いが、20人未満の小規模施設は全体の約7割を占めており、保育の質についてはバラツキがおいものと推察される。
?、少子化で経営難に直面する幼稚園では、働く母親の子どもをターゲットにしたお預かり保育が急速に広がりつつある。また、実際に幼保合築で運営されている事例も全国では100近くある。保育園が不足している一方で、少子化で閉園される幼稚園もあり、就学前児童の保育と教育の場の再設計が求められる。
結論
施設外保育には特に低年齢児の保育において、施設保育には無い良さがあると言われているが、日本では施設保育が保育の中心を占めており、施設保育を中心とした保育整備が現実的であると思われる。親族による保育も限界に来ていると思われるため、一層の柔軟な施設保育の充実が求められる。
さらに保育が必要なのは就学前児童だけでなく、「つのつく年まで」と言われる「9つ」、つまり小学校低学年までと思われる。地域環境が悪化しているなかでは、働く母親を持つ小学生の放課後の安全をどう確保するかも、ますます緊急的な過大となっており、学童保育の早期の充実が求められる。
さらに、施設外保育の利用者の3割程度は専業主婦が占めており、働く母親だけでなく専業主婦も緊急的な保育ニーズを抱えており、何らかの社会的な育児支援が必要である事が伺われる。
また、少子化で入園児童数の減少に悩む幼稚園が、夕方までのお預かり保育に乗り出し、就労する母親を持つ子どもを預かる志向を強めるなど、実態として保育園と幼稚園の垣根が低くなりつつある。専業主婦層にも社会的な育児支援策が必要な事も踏まえ、就学前児童の保育と教育を巡る制度の再設計が必要である。

公開日・更新日

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