里親制度のあり方について

文献情報

文献番号
199700030A
報告書区分
総括
研究課題名
里親制度のあり方について
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
網野 武博(東京経済大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1996年12月、中央児童福祉審議会基本問題部会は、里親制度の運用の実態等を十分踏まえた上で、制度の在り方について検討を行うことが必要であると提言している。里親制度の運用の実態については、おおむね5年に1回全国的に実施される養護児童実態調査で概要は把握されているが、しかし本制度の運用の主柱となる児童相談所・都道府県・指定都市等が、里親制度についてどのような見解を持っているかについて十分な調査がなされていない。このため、本研究では里親制度の運用の状況を詳細に調査し、活用が不十分である背景・原因を探るとともに、活用にあたっての今後の方策や里親制度のあり方について検討を加える。
研究方法
調査は、全国のすべての児童相談所を対象に、『里親制度のあり方に関する行政調査』を実施した。調査内容は、「?里親制度の運用の実態、動向、評価」が11項目、「?里親への委託のしやすさ」が1項目、「?里親制度の今後のあり方」が9項目、及び自由記述の1項目、計22項目を作成した。調査の実施は、郵送法で行った。回答のあった児童相談所数は152、回収率は91.0%であった。
結果と考察
1 児童相談所における里親業務体制
児童相談所における里親業務専任者はきわめて少なく、その多くはケースワーク業務担当職者が兼務している。事項担当制という点でみると、養護問題担当と里親制度の運用とは密接に結びつくと考えられた。里親業務担当者は、その業務経験が3年未満と3年以上でほぼ二分された。しかし、経験年数による意識や見解の相違はみられず、児童相談所の業務全体との関連性の中で里親制度やその運用に関する見解がもたらされる性格を持つことが示唆された。
2 里親制度振興上の課題
里親に委託された児童が措置解除となる理由として、児童福祉本来の目的からすれば、家庭復帰や児童の自立が理由となる割合が高いはずであるが、その割合は低く、養子縁組がきわめて高い割合でみられることが、今回の結果からも明らかになった。委託効果が上がった場合は養子縁組へ、効果が上がらなかった場合は措置変更へ、という図式は、里親制度の中に一部養子縁組制度が混然として含まれている象徴であると考えられた。このような特徴を持つ我が国の里親制度が、これまで振興をみていない理由として、親族的・血縁的家族関係を重視する文化や子育て観を基盤としている傾向が重視されており、このことは今日においても根強いと思われた。
3 里親への「委託のしやすさ」
今回の行政調査では、里親制度の運用と深くかかわっている里親委託のしやすさ・しにくさについて、新しい知見を得た。委託のしやすさとして、保護者の養育状況や保護者との円滑な関係に加え、児童の年齢が低いこと、児童の状況にとくに難しい問題がない場合か、里親の希望として児童の条件にこだわらない場合が主としてあげられており、福祉的施策として推進する上での対応の難しさを示唆するものであった。日常的な里親への支援・指導・研修、委託後の支援・指導と密接なアフターケアとフォローアップによって、委託の促進や委託後の効果が期待される。
4 里親制度の今後の展望
里親制度の今後のあり方に関する調査結果をみると、里親委託の20歳までの延長については、圧倒的に賛成であったが、里親の名称変更、里親に関する最低基準の整備、里親の親権にかかわる権限付与、また専門里親の制度化に関しては、賛否相半ばする結果であった。里親制度の変更に積極的な意見は、そのことによって里親制度の拡充に期待を寄せるという意向が、また消極的な意見は、現状でも対応が可能であり、とくに変更を必要としないという意向が、それぞれ働いている結果がみられた。今後の改正にあたっては、さらなる慎重な論議が必要であると考えられた。
5 里親制度と養子縁組制度の関連性
今回の調査結果からも、我が国の里親制度と養子縁組制度の複雑な関連性が浮き彫りとなった。両者を制度上分けている児相・都道府県と、とくに分けていない児相・都道府県とは相半ばしており、結論としては、いずれかを重視する方向を今後考えることには問題や課題が多すぎるというところに至る。今後里親制度をより福祉的な観点から促進、改革を図る必要がある場合には、公的な組織・機関を中心にその活動や施策を強化すること、また総合的な児童福祉制度の改革にかかわる諸条件を整備することが重要となる。また今回の調査からは、養子縁組に関しては、NPOを主とする民間レベルでの施策の強化を視野に入れることが重要であることが明らかになった。
結論
里親制度の運営上重要な役割を担っている児童相談所を通じて、今後の里親制度のあり方を検討したところ、里親制度に関する意識や見解は、児童相談所の業務並びに児童福祉施策全体との関わりの中で表明されていた。調査結果から示される傾向、即ち里親への委託効果が上がった場合は養子縁組へ、効果が上がらなかった場合は措置変更へ、という図式は、里親制度の中に一部養子縁組制度が混然として含まれている象徴であると考えられ、今後のわが国の里親制度のあり方を検討する際に、養子縁組関連諸制度と一線を画して福祉的観点からその施策を強力に推進することの難しさを、あらためて感じさせる。特に、今後の積極的な里親制度や里親施策の強化については、里親の名称変更、里親に関する最低基準の整備、里親の親権にかかわる権限付与、また専門里親の制度化など、賛否相半ばする結果であった。里親制度の拡充に期待を寄せる見解と、現状でも対応が可能であり、とくに変更を必要としないという見解が並立しており、今後の改正にあたっては、さらなる慎重な論議が必要であると考えられた。

公開日・更新日

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