脳神経疾患に随伴する過活動膀胱の新規治療薬の開発に関する研究:既存薬品に新たに発見された作用を基にして

文献情報

文献番号
200500306A
報告書区分
総括
研究課題名
脳神経疾患に随伴する過活動膀胱の新規治療薬の開発に関する研究:既存薬品に新たに発見された作用を基にして
課題番号
H16-長寿-010
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
高濱 和夫(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 白崎 哲哉(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
  • 副田 二三夫(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
  • 大川原 正(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、既存の中枢性鎮咳薬でGIRKチャネル阻害作用が強いクロペラスチン(CP)が、脳梗塞モデル動物の排尿障害を鎮咳有効量で改善することを見出した。本年度は、1)CPの脳梗塞後の排尿障害治療薬としての有用性と排尿障害改善作用メカニズムの解析、2)中脳水道中心灰白質(PAG)のニューロン活動と排尿機能との関連性の検討、3)昨年度作製した昼夜連続排尿量測定システムによる各種マウスの排尿機能の評価を行った。
研究方法
1)ラットおよびマウスの左中大脳動脈を塞栓し脳梗塞モデルを作製した。これらの動物を用いて排尿反射を記録し薬物の作用を調べた。2)RT-PCR法により脳内のmRNAレベルを調べた。3)ラットの排尿反射記録と同時に、微小ガラス電極からPAGの単一神経活動を記録し、さらに電極に貼り合わせたバレルから薬物を微量投与した。4)昼夜連続排尿量測定システムにより尿重量を経時的に計測した。5)ラットの背側縫線核ニューロンを急性単離しパッチクランプ法により膜電流を記録した。6)光学活性体であるCPの分割を試みた。
結果と考察
1)CPの脳梗塞後の排尿障害改善効果は選択的セロトニン取込み阻害薬(SSRI)に比べて優れていること、脳梗塞後の排尿障害に対する5-HTの枯渇薬や5-HT1A受容体作動薬の検討から、CPの排尿障害改善作用に少なくとも一部5-HT1A受容体が関与する可能性が示唆された。2)加齢マウスの脳内GIRKチャネルのmRNAレベルは有意に増加した。3)PAGに6種類の排尿反射関連ニューロンが存在すること、それらのニューロンの詳細な分布および薬物感受性をはじめて明らかにした。4)マウスの排尿回数は暗期(活動期)に多いが、1回排尿量に明暗サイクルはないことがわかった。5)CPはGIRKチャネルの細胞内ドメインに作用し、PIP2との相互作用の阻害によりGIRKチャネルの開時間を短縮することが示唆された。6)CPのD体とL体をそれぞれ500-700mg得た。
結論
CPの排尿障害治療薬としての有用性がより強く示唆され、その作用メカニズムにGIRKチャネル抑制作用が関わる可能性を示唆する知見を蓄積できた。また、新規排尿障害治療薬開発のための新たな手法の確立など、今後の研究展開において有用な基礎知見および成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-12
更新日
-

文献情報

文献番号
200500306B
報告書区分
総合
研究課題名
脳神経疾患に随伴する過活動膀胱の新規治療薬の開発に関する研究:既存薬品に新たに発見された作用を基にして
課題番号
H16-長寿-010
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
高濱 和夫(熊本大学大学院 医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 白崎 哲哉(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
  • 副田 二三夫(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
  • 大川原 正(熊本大学大学院 医学薬学研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究 【長寿科学総合研究分野】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、既存の中枢性鎮咳薬でGIRKチャネル阻害作用が強いクロペラスチン(CP)が、脳梗塞モデル動物における排尿障害を鎮咳有効量で改善することを見出した。そこで本研究では、このCPの排尿障害治療薬としての有用性と排尿障害改善作用の作用メカニズムの解明を通して新規排尿障害治療薬を開発することを目指し研究を実施した。
研究方法
1)ラットおよびマウスに左中大脳動脈塞栓による脳梗塞を作製した。これらの動物を用いて排尿反射を記録し、薬物の作用を調べた。2)脳におけるGIRKチャネルおよび5-HT1A受容体のmRNA発現をRT-PCR法により調べた。3)麻酔下にラットの排尿反射を記録するのと同時に、PAGに微小ガラス電極を刺入後、単一神経活動を記録し、さらに電極に貼り合わせたバレルから薬物を電気泳動的に微量投与した。4)微量電子天秤上に代謝ケージを設置し、経時的に尿重量を自動的に計測した。5)ラットの背側縫線核ニューロンを急性単離し、パッチクランプ法により膜電流を記録した。6)ラセミ体であるCPの光学活性体の分割を試みた。
結果と考察
1)各種抗うつ薬や関連薬物の脳梗塞後排尿障害に対する作用の検討から、CPの排尿障害改善効果は、検討したこれらの薬物の中で最も優れていることがわかった。また、CPの排尿困難の改善作用には、5-HT神経と5-HT1A受容体の活性化が関与する可能性が示唆された。2)脳梗塞24時間後のPAGにおいて、GIRK2mRNAレベルは有意に増加した。3)PAGに6種類の排尿反射関連ニューロンが存在することがわかった。4)無麻酔・無拘束で排尿活動を昼夜連続で記録するシステムを開発した。その結果、マウスの排尿回数は暗期(活動期)に多いが、1回排尿量に明暗サイクルはないことがわかった。5)CPは、5-HT1A受容体のみならずGABAB受容体と共役するGIRKチャネルも抑制することがわかった。6)CPのD体とL体の分離に成功し、それぞれ500-700mg得た。
結論
CPの脳梗塞後の排尿障害治療薬としての有用性がより強く示唆され、その作用メカニズムにGIRKチャネル抑制作用が関わる可能性を示唆する知見を蓄積できた。今後GIRKチャネルKOマウスなどを用いた研究の遂行に必要な新しい実験技術や排尿活動の昼夜連続記録法を考案・開発することができた。

公開日・更新日

公開日
2006-04-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500306C

成果

専門的・学術的観点からの成果
脳梗塞後の過活動膀胱や排尿困難に対して著明な改善作用をもつ初めての物質であるクロペラスチン(市販の鎮咳薬)の作用がGタンパク質共役型内向き整流性Kイオンチャネル活性化電流の阻害によることをさらに支持する成績を得た。このメカニズムをさらに確実にするために、脳梗塞下で無麻酔下で膀胱機能が測定できるモデルマウスの開発、フリームービングのマウスおよびラットの昼夜連続排尿活動の新規記録法の発案・開発、エステロジェン受容体KOマウスでの排尿機能の測定など、本研究の進展に必要な方法・技術を開発・確立した。
臨床的観点からの成果
本研究の成果をもとに、クロペラスチンが、鎮咳薬としての薬用量で、脳梗塞患者の排尿障害に対して有効か否かの臨床研究を、熊本大学医学部の神経内科、脳神経外科および泌尿器科の医師を含めた総勢10名からなる臨床研究が先進医療研究(代表者、内野誠教授、神経内科)としてスタートする予定である。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
新規排尿障害治療薬の開発に貢献できる。上記、臨床研究とは独立して、本研究成果を基に、新規化合物の排尿障害治療薬の開発に向けて、排尿障害治療薬の開発を方針の一つとしている製薬企業との共同研究を本年4月より開始した。
その他のインパクト
主任研究者(高濱和夫)が第13回排尿機能学会のシンポジウム「排尿障害の薬物治療薬開発に望まれること」のシンポジストとして講演した。また、分担研究者(副田二三夫)が筆頭著者である論文が、第14回排尿機能学会において、平成19年度 排尿機能学会賞を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
本論文は、平成19年度 排尿機能学会賞を受賞した。
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
F. Soeda et al.
Expression of Fos-like protein in the micturition center caused by bladder irritation and effect of dextromethorphan on it.
日本排尿機能学会誌 , 17 (2) , 237-240  (2006)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-