所得再分配の評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
199700028A
報告書区分
総括
研究課題名
所得再分配の評価手法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石川 経夫(東京大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生省の「所得再分配調査報告書」を経年的にたどると、我が国の家計間所得再分配の不平等度が1980年代を通じて当初所得においてもまた再分配後所得においても相当増大しており、その規模は同じく所得分配の不平等度の高まりが伝えられる英国、米国に比肩しうる。 2人以上の普通世帯を対象とした総務庁の「家計調査」、「全国消費実態調査」あるいは個人の雇用労働者を対象とした労働省の「賃金構造基本調査」では、同じ時期、不平等度は微増に止まっており、「所得再分配調査」における上記の結果との乖離は当該調査が単身者をも含む全家計の調査であること、また人口の急速な高齢化が反映されていることによるものと考えられる。ところが、これらの要因がどの程度寄与しているのか、事態の定量的な把握は未だなされていない。我が国の貧困は、高度成長による完全雇用経済の下で1970年代半ばには実質的に解消したとの評価が一般的であり、実際1980年代半ば以降、貧困の計測を行った研究は皆無に等しい。先進諸外国で再び貧困の増加が指摘され、社会問題化していることと対比するとき、我が国の状況が事実として諸外国と真に異なっているのかどうか、もしそうであるとすれば何故か、また社会保障政策の在り方がどの程度寄与しているのか、評価が問われている。本研究では、不平等度指数(ジニ係数等)の分解分析を始めとする各種統計手法を用いて「所得再分配調査」個票を詳細に分析し、上記の問題に答えることを目的とする。さらに先進諸外国の実態との比較、不平等度計測精度の評価を合わせて行う。本研究の成果は、単にその学術的価値に止まらず、今後の財政政策、社会保障政策、雇用政策の在り方全般をめぐる検討に際してきわめて有用な基礎的な情報を提供するものと考えられる。
研究方法
基礎データは1981年と1993年の2時点における厚生省「所得再分配調査」である。まず、この調査の特徴や活用に当たっての課題を明らかにして上で、1981年から1993年にかけての不平等度の拡大の要因を定量的に把握した。次に、世帯類型ごとの所得再分配の状況、年金、医療、生活保護、雇用保険など社会保障各制度ごとの所得再分配の状況について検討した。最後に、先進諸外国との比較や不平等度計測精度の検討を行い、政策的含意を考察した。
結果と考察
所得や富の分配はその社会の安定と成長にとって重要であり、経済学の基本的問題のひとつである。本研究では、「所得再分配調査」を用い、1980年代の所得再分配をめぐる状況の変化を中心に分析を行った。1980年代の所得の不平等度の高まりは、主に高齢化という人口構成の変化によりもたらされていることが明らかになった。但し、1980年代を通じて当初所得においても再分配後所得においても不平等度は増大しているが、当初所得から再分配後所得への不平等度(ジニ係数)改善度も、この間一貫して上昇しており、なかでも社会保障による効果が大きくなっていることも事実である。社会保障制度自体、社会経済の変化とともに、世代間の再分配を伴う年金給付費が社会保障給付費の約 5割、危険分散的機能をもつ医療給付費が同じく約 4割を占めるに至るなど、その役割が大きく変化してきており、こうした構造的変化により、所得再分配の構造も世代内の分配から世代間の分配へと変化してきていることが分かる。また、費用負担についても、税と社会保険料との間で所得再分配への貢献度が異なることに留意しなければならないことも明らかになっている。現在、社会保障が国民の生活の安定に大きく寄与していることは疑いを入れないが、低迷する経済や今後一層の高齢化が見込まれることなどから、負担の増大を危惧する声も大きくなっており、適正な給付と負担が大きな課題となっている。
結論
本研究における分析結果
から、所得再分配政策を考える上で、世代内及び世代間、世帯類型、就業構造等に関するきめ細かな配慮、社会保障政策と財政政策との整合性への配慮の必要性が示唆されている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)