年金数理の観点から見た厚生年金の民営化案の問題点等に関する研究

文献情報

文献番号
199700027A
報告書区分
総括
研究課題名
年金数理の観点から見た厚生年金の民営化案の問題点等に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
石川 英雄(富士総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在、厚生年金は基礎年金拠出金と独自給付に対応する保険料を徴収して財政運営を行っているが、現行の給付水準を将来にわたり維持することとした場合、将来の保険料率は34.3%に増大することが見込まれており、このような高負担を回避する観点から厚生年金を一部民営化してはどうかという意見が各方面から出されている。仮に民営化を行うとした場合、その部分の財政方式は積立方式によらざるを得ず、かつ過去の積立不足分の償却が必要となる。どのような民営化を行うかによって償却すべき債務は変化することから、民営化案の検討に当たっては、厚生年金の過去債務を1階・2階分、老齢・障害・遺族分、物価スライド・再評価部分及びそれ以外の部分等に分解するなど年金数理の観点から見た分析を行う必要がある。仮に民営化を行うとした場合の債務償却の方法や、厚生年金財政への影響分析も必要である。本研究は、そのような分析を通して民営化の具体案の問題点等について検討を行うものであり、厚生年金民営化に係る今後の検討に資することを目的とする。
研究方法
まず、昨今の厚生年金民営化に関する主な案や意見を検証し、それぞれの特徴及び問題点についての考察を行った。次に、民営化後の年金制度が強制加入か否かという適用形態の違いによる、民営化後の制度の在り方や問題点等の考察を行った。また、民営化後の制度の採るべき財政方式についての考察を行った。併せて、積立方式で行う場合に生じる過去期間に係る未積立債務の償却方法及びその問題点の考察を行うとともに、実際に現在の厚生年金における年金債務及び未積立債務の評価を行った。さらに、付随するその他の課題等についての考察を行った。以上から、民営化のための問題点等について取りまとめた。
結果と考察
1.厚生年金民営化に関する主な案及び意見
拠出と給付の関係を明確なものとし世代間の公平を確保すべき、また、人口構成の変動の影響を受けにくくし少子高齢化の局面においても本人や事業主の将来の負担の増大を避けるようにすべき、との観点から、昨今、厚生年金の2階部分を民営化すべきとの声が高まっている。
2.適用形態の違いによる民営化後の年金制度の在り方及び問題点
一言で民営化といっても、世銀の提案でも触れられているように、強制加入と任意加入の考え方がある。
強制加入の場合、現行の給付水準を維持するならば、現行制度に比べ総トータルで負担は軽減されず、その意味では民営化が現行制度の問題の根本的な解決策にはならないことから、給付水準の引下げは必至となろう。この場合、それを上回る給付については、個人の意志により個人年金等により対応することとなる。
また、任意加入の場合は、国としての強制を行わないということであり、まず職域、地域等に制度の設立・水準等が委ねられ、さらにこれらの制度に適用されない場合や制度の水準を上回る部分については、個人の意志により個人年金等により対応することとなる。この場合、現役時に当面の資金需要を優先させること等により年金制度に充分な拠出を行わず、結果として、定年後充分な生活が営めない者が少なからず出現するものと想定されるが、これを社会的に許容するのかという問題がある。
3.民営化後の年金制度の財政方式及び問題点
フランスの年金制度のように賦課方式で財政運営を行う考え方もありうるが、民営化である以上、積立方式で財政運営を行う方が自然であると考えられる。
民営化された制度の運営主体が積立方式で財政運営を行う場合、まず、現行の制度が含有する賦課的な要素がすべて積立的なものとなることから、生活水準に見合った年金額のスライドが可能かという問題が生じる。さらに、確定給付型の制度においては後発債務が生じた場合に負担が増大するが、民営の制度ではそのリスクを緩和する必要があるため確定拠出型年金の導入も避けられない。このため老後の所得保障が充分に行われなくなる場合が生じ得るといった問題もある。
民営化後の期間に支払われる保険料は全てその期間に係る将来の年金給付のために積み立てられることとなることから、過去期間に係る未積立債務は別途償却する必要が生じる。現に、厚生年金の未積立債務は、平成11年度末で490兆円、うち2階部分は350兆円となる見込みである。これを保険料や税で賄うこととすると、いわゆる二重負担の問題が生じることとなる。350兆円を保険料により30年間で償却するとすれば、保険料率は11%に相当し、将来の被保険者等が自らの年金のために拠出する保険料に上乗して負担することとなる。また、国債により償却する方法も考えられるが、結局は負担を後代に課すことになり、国民の納得が得られるかどうかが問題となる。
4.その他の付随する課題等
民営化に際しては、税優遇の考え方を整理し、必要な税体系を整備する必要がある。
また、企業脱落や事務費負担、さらに受給権保護のための法規制の整備及び規制遵守をチェックする体制・費用等の問題も無視できない。
結論
公的年金の役割を今後どのように位置づけるかにもよるが、国民のニーズの多様化や後代の負担の軽減の必要性を考慮すれば、現在の公的年金の給付水準の引き下げは避けられない状況にあり、これを補完する企業年金、個人年金の役割は増大していくものと思われる。しかし、現在の厚生年金を一気に民営化することには多くの問題があり、現実的ではない。年金制度における公私の役割分担の在り方について、今後更なる議論が行われることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)