薬価基準制度の今後のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
199700024A
報告書区分
総括
研究課題名
薬価基準制度の今後のあり方に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
田中 信朗((財)医療経済研究機構)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、我が国では、医療保険制度の抜本改革が議論されており、「薬価基準制度」の改革案として示されているのが、ドイツを始めとする諸外国にて実施されている「参照価格制度」を基本とした「給付基準額制度」(日本型参照価格制度)である。
しかし、我が国では既に薬価基準制度が実施されている。そこで、薬価基準制度の問題点を整理するとともに、ケーススタディとして文献調査を中心に、すでに参照価格制度を導入した国を対象に導入による課題、影響等を整理した。
研究方法
薬価基準制度とドイツで実施されている参照価格制度を比較するために文献サーベイを実施した。
その結果、Health Group Strategies Pty.Limited から出版された「オーストラリアにおける処方薬剤の薬効価格決定について:諸外国の類似改革の概観と1997/98年度政府予算案の影響予想」レポートから諸外国の参照価格制度に関する章を取り出し、再構成・要約した。
結果と考察
薬価差益により発生する問題は、薬価差の存在による過剰使用、薬価差の存在による処方のバイアス、薬価差を前提とした医療機関経営において発生する内部相互補助による非効率、薬価差の存在による医薬品の研究開発へのバイアス等を指摘できる。薬価差益の有用な機能として、競争促進による価格低下機能、競争促進による医薬品研究開発と普及の促進があげられる。しかし、有用な機能として示したように、現行薬価基準制度における薬価差は需要サイドの経済的インセンティブの源泉であり、市場競争を機能させる主たる要因でもある。
ドイツでは、1989年に参照価格が導入された。
(1)対象医薬品: 疾病金庫からの償還のうち、外来薬剤を対象とし、調剤薬局での医薬品の償還限度額を設定した制度である。
(2)薬剤のグルーピング: (レベル1)同一の有効成分を含有している医薬品をグルーピングしている。(レベル2)薬理学的・治療学的に類似し、特に化学的に類似の物質をグルーピングしている。(レベル3)治療学的に同等の効果を有する医薬品で、特に配合剤を対象とし、治療効果によってグルーピングしている。
(3)参照価格の決定及び改定: 参照価格の決定権は疾病金庫連合会にあり、一番繁用されているパッケージの実勢価格に基づいて決定する。
(4)医薬品の販売価格の設定: 従来から自由価格制度で、卸、薬局が公定マージンを上乗せし決定する。
(5)患者の自己負担: 包装別の定額負担で、この定額負担とは別に参照価格よりも高い医薬品は、その超えた部分は患者の自己負担となる。
(6)保険者(疾病金庫)からの償還: 疾病金庫からの償還額(上限は参照価格)は、患者販売価格に5%を減額して、患者定額自己負担額を差し引いた額が償還される。
Health Group Strategies Pty.Ltd から出版された「オーストラリアにおける処方薬剤の薬効価格決定について:諸外国の類似改革の概観と1997/98年度政府予算案の影響予想」レポートから諸外国の参照価格制度に関する章を取り出し、その要約について以下の通り翻訳した。
各国の参照価格制度は、対象品目の範囲、グルーピングの手法、参照価格の算定手法はそれぞれ大きく異なる。また、参照価格制度単独で機能している場合もあるが、多くの場合はより広範な他のシステムと併用して実施されている。諸外国の参照価格制度は、費用抑制の観点で導入されており、薬剤費への影響がその効果の指標となるが、参照価格制度単独では薬剤費への影響は、諸外国をみてもその効果は一時的かもしくは確実性のあるものではなかった。
参照価格制度の影響としては、薬剤価格の規制のような「供給側」のコントロールは、医師や患者に対する「需要側」の施策とを組み合わせた場合と比較すると、費用圧縮に対して効果的には機能しない。また、参照価格の導入により、実現する薬剤価格低下の節約部分が、(1)参照価格システムの管理費用、(2)保険予算の他部門の増加等によって大きく減少してしまう可能性がある。
参照価格制度下では、患者の支払い能力の限界が薬剤の種類を選択する決定的な要素になり、より効果が期待できる医薬品の投与が妨げられることになる。
医師は、時間的要素を考慮した場合に自己負担が最も少ない安価な薬を処方する決定をする可能性がある。
参照価格制度の導入国で、画期的新薬の償還価格が大幅に下落しているが、ドイツでは参照価格の対象でない薬剤の価格は上昇した。
参照価格制度では、薬剤価格が下落し、製薬企業は研究開発への投資を減らさなければならなくなる。
結論
日本型参照価格制度の検討にあたっては、諸外国における参照価格制度の問題点、他の医療システムとの相関、または我が国の医薬品産業の研究開発意欲を削がない運用等を踏まえて行う必要がある。

公開日・更新日

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