顎関節症の診断及び治療指針の策定並びに病診連携に係る歯科診療システムの整備に関する研究

文献情報

文献番号
199700023A
報告書区分
総括
研究課題名
顎関節症の診断及び治療指針の策定並びに病診連携に係る歯科診療システムの整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
藍 稔(東京医科歯科大学歯学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
顎関節治療のニーズが社会的に高まっていることから,診療報酬上の評価を早急に確立すべきであるとの要請が強くなりつつある。一方,一般歯科診療所に
おける顎関節症の治療にともなう医療過誤が急増している。こうした状況下で,顎関節症の診断,治療についての指針をすみやかに策定する必要があると同時に,診療
報酬上の評価をする上で歯科病院,一般診療所の診療上の機能や位置づけなど病診連携のあり方を明確にして,顎関節症の治療に関するシステムの整備をはかるこ
とが急務である。
本研究は,顎関節症の診断,治療に対する指針の策定並びに本疾患の診療システムの整備をはかることを目的として計画されたものである。
研究方法
以下の方法に依って行った。
1.顎関節症の診断,治療について最近の考え方,方法等を確認するため,1980年以降の国内外の関係する文献を検索した。
2.一般歯科診療所における顎関節症に関する診療の実状を把握するため,当講座に在籍した歯科医師を対象にアンケート調査を実施した。
3.顎関節症の診断,治療の指針の基本的な考え方,具体的方法を検討した。
4.顎関節症治療の病診連携システムを検討するため,この分野で先進的な米国,ヨーロッパの主要大学について調査を行った。
結果と考察
1.顎関節症の診断,治療について最近の国内外の文献的検索を行った結果,ことに外国に於いては痛みに重点が置かれる傾向にあること,咬合因子に対
する捉え方に違いがあること,スプリント治療が多く行われているものの評価が分かれていることなどが明らかとなった。
2.一般歯科診療所における本疾患への対応については限られた対象ではあるが,大体1年間に1~3人の顎関節症患者が来院しているところが多く,またかなり多く
の歯科医師が自分で何とか治療したいとの希望をもっているが,適切な指導がされていない状況が窺われていた。
3.顎関節症の診断,治療の指針の基本的な考え方としては,診断では関係する多数の因子の中から,当該症例について原因として作用しているものを特定しなけれ
ばならないが,それには発症過程を逆に辿りながら,個々の因子を逐次検討するのが妥当である。治療については患者の不安を除去することが第一であり,原因因子
が確定できたときには原因療法を,確定できない場合には可逆的な対症療法が適当であるとした。
4.顎関節症の診断,治療について米国,オランダ,デンマーク,スウェーデンの大学病院と一般診療機関との関係について調査した結果,大学病院の診療科は顎関節
症を含む顔面頭部の痛みを扱っているが,その特徴は身体面を担当する理学療法士と心理面を担当する臨床心理士が関与している点であった。患者は一般の臨床医,
歯科医および他の診療科からの紹介が主で,患者が独自に来院するのは米国では少数あるが,ヨーロッパの大学ではごく例外的であった。スウェーデン,オランダでは
ホームドクター制が徹底していることと顎関節症の専門医がいることで役割分担が明確であった。
以上の結果から次のように総括される。
先ず,顎関節症の診断,治療について適切な指針が提示される必要があり,それに基づいた一般歯科医師に対する指導が不可欠であろう。わが国ではここに挙げた諸
国とは医療体制が異なり,大学病院も一般歯科診療所も同様な一次医療機関として機能しているのが実状である。オランダや北欧などのような大学病院に顎関節症の
専門診療科が整備され,ホームドクター制が完備していれば相互の役割分担が明確になり,患者の適切な処置が可能である。いずれも未整備の状況下では,一般歯科
医師が,積極的に本疾患の治療を行うか否かにかかわらず,その基本的知識と治療法を習得することでレベルの向上を図るべきであろう。一方,大学病院においては顎
関節治療の専門的な診療科の設置が望まれるが,本疾患を扱っている診療科相互の連絡の下で,一般歯科診療所との治療の連携を保つよう努めるべきである。
結論
1.顎関節症の診断,治療について適切な指針が提示され,一般歯科医師に対してそれに基づいた指導が必要である。
2.大学病院では,本疾患を扱っている診療科を明示し,一般診療所との治療上の連携を図るのが妥当である。

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