腸粘膜M細胞を標的としたドラッグデリバリー・システムの開発

文献情報

文献番号
200500214A
報告書区分
総括
研究課題名
腸粘膜M細胞を標的としたドラッグデリバリー・システムの開発
課題番号
H17-ナノ-005
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
千葉 勉(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 清野 宏(東京大学 医学研究所)
  • 竹田 潔(九州大学 生体防御医学研究所)
  • 田畑 泰彦(京都大学 再生医科学研究所)
  • 若月 芳雄(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 萌芽的先端医療技術推進研究【ナノメディシン分野】
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成19(2007)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では臓器移植症例が増加しているが、それに伴いGraft versus host disease (GVHD)症例も増加してきている。一方近年炎症性腸疾患(IBD)の増加も著しい。これらの疾患の治療薬であるステロイドや免疫抑制剤は全身に投与すると様々な副作用が生じることが知られている。従って腸粘膜へ特異的に薬物を集積するドラッグデリバリーシステム(DDS)を確立することが必要である。
 腸粘膜M細胞は細菌など抗原を消化することなく腸粘膜に取り込んで、粘膜リンパ装置の抗原提示細胞に送り込む細胞である。私達はM細胞がある大きさの粒子を特異的に取り込むことに着目し、ポリ乳酸マイクロスフェア(PL-MS)に薬剤を包埋することによって、腸粘膜に薬物を特異的に集積させるDDSの開発をおこなった。
研究方法
(1)PL-MSの作製法を工夫して、大腸粘膜に効率的に吸収される剤型の開発を試みた。(2)種々の大きさのPL-MSをマウスに投与し、腸粘膜へのPL-MSの取込み程度、部位を検討した。(3)腸炎ラットにデキサメサゾン-PL-MSを投与し効果を検討した。(4)ヒトにデキサメサゾン-PL-MSを投与し、治療効果を検討した。(5)M細胞の基礎的検討をおこなった。
結果と考察
(1)様々な検討から、最も安定し、かつ薬剤含有量の多いPL-MSの作製が可能となった。このPL-MSは大腸コロノパッチに特異的に取り込まれ、かつ大腸粘膜にもある程度取り込まれた。(2)DSS腸炎ラットにデキサメサゾンPL-MSを経腸的に投与したところ炎症抑制効果を示した。(3)以上の結果に基づいてヒトへの投与をおこなった。患者は26歳男性、2003年潰瘍性大腸炎発症、ステロイドに抵抗性で大腸穿孔を来した。患者が大腸全摘を拒否したためレミケード、免疫抑制剤で治療するも抵抗性であった。そこでステロイド注腸をおこない症状は改善したが、長期使用による副作用のため中止した。十分なインフォームドコンセントを得た後、デキサメサゾンPL-MSの経腸投与を2006年2月から開始した。その結果4週間投与にてCAIスコアは8から3へと改善した。(4)M細胞が大腸コロノパッチ上のみならず、大腸粘膜にも存在することを明らかにした。
結論
デキサメサゾン含有PL-MSは、ヒトのGVHD, IBD患者の有効な治療薬となりうる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-