文献情報
文献番号
199700017A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテクノロジー技術が医薬品開発、医薬品産業及び保健衛生に及ぼす効果及びその測定方法の研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(東京大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 広井良典(千葉大学法経学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医療費高騰は各国の最大の問題の一つである。バイオテクノロジーは医療分野で目ざましく利用されるようになったが、その経済効果については、評価は決まっていない。本研究は、バイオテクノロジーの医療費開発・医療品産業及び保健衛生に及ぼす効果を、特に、経済的な面から解析することを目的とする。新技術は、非常に安価な医療を提供する可能性を持つと同時に、技術開発費などの理由から高額医療の原因ともなり得る。このような面から客観的なバイオテクノロジーの費用対効果の評価が必要となる。本研究は、以上の問題点を総合的に解析することを目標とする。
研究方法
主任研究者(吉倉)はOECD科学技術政策委員会バイオテクノロジー部会の副議長であるので、主にOECDの活動とそれに関わる調査研究を担当し、分担研究者(広井)は、そもそも医療経済社会保障を専門とするので、バイオテクノロジーに関連した医療経済政策全般の解析を担当した。
結果と考察
バイオテクノロジーとは、突き詰めて考えると遺伝情報を利用したテクノロジーであると言う事になる。遺伝情報は、ATGC4つの文字からなる文字列である。生物には、この文字列情報をプロセスし、最終産物まで作る機能がある訳であるから、この情報を生体に導入するだけで期待した効果を揚げる事が出来る。
以上のようにバイオテクノロジーを理解すると、文字列情報を、既にその合成法が分かっているDNA或いはRNAの形で生体に導入するのであるから、この技術は、コストと原理の単純さ、の面で医療に画期的な局面をもたらす可能性がある、という事になる。しかし、これは原理的なところである。現実には越えるべきハードルは高く数多い。更に、技術的な問題が総て解決されたとしても次のような問題がある。
それは、バイオテクノロジーが情報をベースとした技術である事から起こる問題である。病気は種々の原因で起こる。その原因が正確に分からないものも少なくない。バイオテクノロジーを利用し医療を行うには、しかし、病気の正確な原因を知らなくてはならない。そして、その原因が、どの遺伝子のどの様な機能の異常によるものかを知る必要がある。
感染症であれば、病原体の病原性遺伝子の同定とそれと相互作用する宿主の遺伝子を同定し、相互作用を十分解明する必要がある。がんであれば、がん細胞が生体内で広がり増殖を続ける、その現象に関与する遺伝子を見つけ、その遺伝子機能をどう変えれば、細胞が増殖と播種を止めるのか、を知らなければならない。この事は、医薬品開発の戦略を従来のものとは完全に違うものにする必要があると言う事である。
従来の医薬品開発は、どちらかと言えば、経験的な手法によるものであった。例えば、結核の治療薬の開発にしても、結核菌の病原性の機構は知らないで行われて来ている。しかし、バイオテクノロジーを利用するとなると、結核菌による発病に関わる遺伝子を明確にしない限り不可能である。従って、バイオテクノロジーを利用した医薬品開発には、開発費の大部分がいわゆる基礎研究に費やされる事となる。更に、臨床試験迄含めると、莫大な開発研究費を使う事となる。しかし、一旦、開発されれば、基本的にはATGCの文字列という情報に帰着する訳であるから、原料費、工費は非常に安くなる筈である。実際、本研究費の一部を使用し、B型肝炎ウイルスワクチンにつき、血清を使用した方法と組み替え酵母を使用した方法を比較した結果、前者の材料費は後者よりも遥かに少なく、代わりにパテントに支払われる費用が大きくなる事が分かっている(文献1参照)。そして、組み替え技術による製品は、世界のどこにでも、あたかもゼロックスでコピーをするように作られ得る可能性が出てくる。
バイオテクノロジーはこのような意味で、知的所有権と技術移転に関する重要な問題をはらんでいる。開発が基礎研究を主体とする為、従来は研究資材や成果の自由なやり取りを原則としてきた科学研究のあり方自体危うくなりつつある。米国で、バイオインフォーマティックスに関し、例えばカルチャーコレクションやデータベースに総て制限を設け、知的所有権をもって国の戦略とする法案が考慮されているのもこのような背景がある為と考えられる。
このような事態を見ると、原料費や工費の利鞘で医薬品の収益を揚げると言う従来の方法を続けていては、完全に世界に立ち後れる可能性がある。この事態にどう対処するかは、方向として二つあるであろう。一つは、日本と同じ様な後進国と組み国際的なフレームワークを作って知的所有権を戦略とする国々に対処する方法である。もう一つは、我が国の広い意味での医療費の中で技術開発に関わる配分を増やし、先進国として国の戦略を作る事である。この二つの方向は必ずしも矛盾しない。いずれにせよ、全体的な国としての医療品開発の戦略を明確にする事は非常に重要と思われる。
医薬品開発は、しかし、医療費全体のコンテインメントを考慮しなければならない。この点の解析は次年度以降の研究対象としたい。
以上のようにバイオテクノロジーを理解すると、文字列情報を、既にその合成法が分かっているDNA或いはRNAの形で生体に導入するのであるから、この技術は、コストと原理の単純さ、の面で医療に画期的な局面をもたらす可能性がある、という事になる。しかし、これは原理的なところである。現実には越えるべきハードルは高く数多い。更に、技術的な問題が総て解決されたとしても次のような問題がある。
それは、バイオテクノロジーが情報をベースとした技術である事から起こる問題である。病気は種々の原因で起こる。その原因が正確に分からないものも少なくない。バイオテクノロジーを利用し医療を行うには、しかし、病気の正確な原因を知らなくてはならない。そして、その原因が、どの遺伝子のどの様な機能の異常によるものかを知る必要がある。
感染症であれば、病原体の病原性遺伝子の同定とそれと相互作用する宿主の遺伝子を同定し、相互作用を十分解明する必要がある。がんであれば、がん細胞が生体内で広がり増殖を続ける、その現象に関与する遺伝子を見つけ、その遺伝子機能をどう変えれば、細胞が増殖と播種を止めるのか、を知らなければならない。この事は、医薬品開発の戦略を従来のものとは完全に違うものにする必要があると言う事である。
従来の医薬品開発は、どちらかと言えば、経験的な手法によるものであった。例えば、結核の治療薬の開発にしても、結核菌の病原性の機構は知らないで行われて来ている。しかし、バイオテクノロジーを利用するとなると、結核菌による発病に関わる遺伝子を明確にしない限り不可能である。従って、バイオテクノロジーを利用した医薬品開発には、開発費の大部分がいわゆる基礎研究に費やされる事となる。更に、臨床試験迄含めると、莫大な開発研究費を使う事となる。しかし、一旦、開発されれば、基本的にはATGCの文字列という情報に帰着する訳であるから、原料費、工費は非常に安くなる筈である。実際、本研究費の一部を使用し、B型肝炎ウイルスワクチンにつき、血清を使用した方法と組み替え酵母を使用した方法を比較した結果、前者の材料費は後者よりも遥かに少なく、代わりにパテントに支払われる費用が大きくなる事が分かっている(文献1参照)。そして、組み替え技術による製品は、世界のどこにでも、あたかもゼロックスでコピーをするように作られ得る可能性が出てくる。
バイオテクノロジーはこのような意味で、知的所有権と技術移転に関する重要な問題をはらんでいる。開発が基礎研究を主体とする為、従来は研究資材や成果の自由なやり取りを原則としてきた科学研究のあり方自体危うくなりつつある。米国で、バイオインフォーマティックスに関し、例えばカルチャーコレクションやデータベースに総て制限を設け、知的所有権をもって国の戦略とする法案が考慮されているのもこのような背景がある為と考えられる。
このような事態を見ると、原料費や工費の利鞘で医薬品の収益を揚げると言う従来の方法を続けていては、完全に世界に立ち後れる可能性がある。この事態にどう対処するかは、方向として二つあるであろう。一つは、日本と同じ様な後進国と組み国際的なフレームワークを作って知的所有権を戦略とする国々に対処する方法である。もう一つは、我が国の広い意味での医療費の中で技術開発に関わる配分を増やし、先進国として国の戦略を作る事である。この二つの方向は必ずしも矛盾しない。いずれにせよ、全体的な国としての医療品開発の戦略を明確にする事は非常に重要と思われる。
医薬品開発は、しかし、医療費全体のコンテインメントを考慮しなければならない。この点の解析は次年度以降の研究対象としたい。
結論
バイオテクノロジーは情報ベースの技術である事から、従来考えられなかったような医療技術のブレークスルーをもたらす可能性がある。この為、医薬品開発戦略そのものの再考が迫られる現状となっている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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