文献情報
文献番号
199700013A
報告書区分
総括
研究課題名
患者への医療情報提供のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
町野 朔(上智大学法学部)
研究分担者(所属機関)
- 高?和江(日本医科大学医療管理学教室)
- 川渕孝一(日本福祉大学経済学部経営開発学科)
- 山本輝之(帝京大学法学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医療は、医師をはじめとする医療従事者が患者の状況、立場を十分尊重しながら、患者との信頼関係に基づき提供されることが基本である。このような観点から、諸外国、とりわけ欧米諸国においては、患者の権利の法制化が進んでいる。近時、わが国においても、患者の健康意識が高まり、患者の医療に対する要望の多様化・高度化、医療内容の専門家・複雑化を受けて、患者の権利を法的に擁護するため、「患者の権利法」を制定すべきであるという議論が生じている。そこで、本研究は、「患者の権利法」制定の必要性と、患者の権利が侵害された場合の救済手段について考察することを目的とした。
研究方法
医学研究者1名、経済学研究者1名、法学研究者2名により構成された研究会において、討議し、また、厚生省の担当者に研究会に来ていただき、本問題に対する現在までの経緯、行政の対応、立法する場合の問題点などについてお話を伺った。さらに、文献、資料の検討によって考察を加えた。
結果と考察
本来、医療の現場においては、患者が主体であり、中心的存在であるべきである。このような観点から、諸外国、とりわけ欧米諸国においては、1970年代から、適正な医療を受ける権利、診療情報を得る権利などを中心とする、患者の諸権利の法制化が進んでいる。これに対し、これまで我が国においては、医療の主体はむしろ医療機関および医師であり、医療行為や投薬の内容の決定は、すべて彼らの判断に委ねられてきた。そのため、患者の権利が十分に保障されているとはいえない状況が存在した。しかし、近時我が国においても、高齢化社会を迎えて慢性病が多くなり、病気療養を必要とする者が多くなったこと、また、医療技術が進んで診断法、治療法が多様化、複雑化したことに伴い、患者のクオリティ・オブ・ライフの確保・向上を目指すという観点から、医療現場において、インフォームド・コンセントを中心とする患者の権利を早急に普及・定着させる必要性が生じている。また、従来、我が国においては、国民の健康を保障するのは、もっぱら行政機関(厚生省)の役割であるという、いわゆる「行政任せ」の風潮が強く、そのことが、近年発覚した薬害エイズ事件の原因の一つであることが指摘されている(薬害等再発防止システムに関する研究会「薬害等再発防止システムに関する研究(中間報告)」(1997年4月)18頁以下参照)。そこで、このような閉塞状況を打破するためには、患者が自己の診療や医療政策に主体的に参加していく制度を確立し、患者中心の医療に転換するためには、1)医療における患者の地位を法制度上明確に位置付けるとともに、2)患者に保障されるべき権利を法的に確認し、3)その範囲を明確にする、いわゆる「患者の権利法」を制定することが必要であるように思われる。もっとも、法制化の是非についての議論を前提に、患者の権利法を制定する場合、どのような権利を、どのような形式で、どこまで規定すべきかは困難な問題であり、今後更なる検討が必要である。
次に、患者の権利法を制定した場合、その患者の権利が、医療機関により侵害された場合には、どのような救済手段が採られるべきかが問題となる。。このような場合、原則としては、民事訴訟、刑事訴訟という、裁判による事後的な救済が図られるべきことになる。しかし、周知のように、このような裁判による解決では、一般に最終的に判決が確定するまで長期間を要するし、また、医療過誤の訴訟においては、立証責任が原告=患者側に負わされているため、彼の権利を救済することは実際上非常に困難であるということが指摘されている。そこで、1)医療および患者とは独立の、中立な第三者機関としての患者の権利擁護委員会のような組織を設けて、そこで裁判以前に患者側の訴えと医療関係者側の主張とを聞いて、患者の権利を迅速かつ適切に救済するという制度を法定することも一つの案として考えられる。また、2)医療被害者を容易に、また迅速かつ十分に救済するための特別な訴訟手続を立法するということも考えられる。たとえば、公職選挙法253条の2 に規定されている百日裁判のように裁判期間を区切り、また立証責任を医療機関側に転換するという特別な手続が考えられる。さらに、立証責任を転換することが難しいとするならば、せめて、患者側の立証をサポートする医療関係者の制度を設けるいうことも考えてもよいように思われる。もっとも、これらの具体的な構成、手続、権能などをいかなるものにするかは、今後さらに検討していくことが必要であるように思われる。
次に、患者の権利法を制定した場合、その患者の権利が、医療機関により侵害された場合には、どのような救済手段が採られるべきかが問題となる。。このような場合、原則としては、民事訴訟、刑事訴訟という、裁判による事後的な救済が図られるべきことになる。しかし、周知のように、このような裁判による解決では、一般に最終的に判決が確定するまで長期間を要するし、また、医療過誤の訴訟においては、立証責任が原告=患者側に負わされているため、彼の権利を救済することは実際上非常に困難であるということが指摘されている。そこで、1)医療および患者とは独立の、中立な第三者機関としての患者の権利擁護委員会のような組織を設けて、そこで裁判以前に患者側の訴えと医療関係者側の主張とを聞いて、患者の権利を迅速かつ適切に救済するという制度を法定することも一つの案として考えられる。また、2)医療被害者を容易に、また迅速かつ十分に救済するための特別な訴訟手続を立法するということも考えられる。たとえば、公職選挙法253条の2 に規定されている百日裁判のように裁判期間を区切り、また立証責任を医療機関側に転換するという特別な手続が考えられる。さらに、立証責任を転換することが難しいとするならば、せめて、患者側の立証をサポートする医療関係者の制度を設けるいうことも考えてもよいように思われる。もっとも、これらの具体的な構成、手続、権能などをいかなるものにするかは、今後さらに検討していくことが必要であるように思われる。
結論
以上考察したように、患者の権利を保障し、それを積極的に実現していくためには、患者の権利について、法制化することが必要であるように思われる。もっとも、法制化の是非も含めて、どのような権利を、どのような形式で、どこまで規定すべきかは困難な問題であり、この点については今後更なる検討が必要である。また、患者の権利が侵害された場合の具体的な救済手段についても、今後更に検討していくことが必要である。
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