生命科学研究資源基盤としての培養細胞株の収集・保存・供給システムの整備に関する研究

文献情報

文献番号
200500148A
報告書区分
総括
研究課題名
生命科学研究資源基盤としての培養細胞株の収集・保存・供給システムの整備に関する研究
課題番号
H15-ゲノム-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 博(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 増井 徹(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部)
  • 小原 有弘(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部)
  • 許 南浩(岡山大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 原澤 亮(岩手大学 農学部 微生物・分子生物学)
  • 立花 章(京都大学 放射線生物研究センター)
  • 木村 成道(財団法人 東京都老人総合研究所 分子腫瘍・細胞学)
  • 田中 憲穂(財団法人 食薬安全センター秦野研究所 細胞毒性学)
  • 安本 茂(神奈川県立がんセンター 分子腫瘍学)
  • 執印 太郎(高知大学医学部 腎泌尿器制御学 抑制遺伝子)
  • 嶋田 裕(京都大学 腫瘍外科 腫瘍外科学)
  • 井口 東郎(国立病院九州がんセンター 臨床研究部)
  • 栁原 五吉(国立がんセンター研究所 実験動物管理室)
  • 永森 靜志(杏林大学 医学部 総合医療学)
  • 小林 真一(聖マリアンナ医科大学 薬理学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
88,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究は厚労省細胞バンク(1985年)の持続的発展と生命科学研究基盤の整備を目的。
① 年間40から50種の細胞を収集。
② 収集した細胞をクリーンで誤謬が無い細胞とする。
③ マイコプラズマ迅速検出法の導入による運営の効率化。
④ 培養から検出した新たな汚染の解明。
⑤ 細胞管理システムの改良。
⑥ ヒト細胞を取扱う研究倫理的問題の検討。
研究方法
① 細胞の樹立と資源化は分担研究報告参照。
② 無菌テストは微生物培養法、マイコプラズマ検出はPCR法と蛍光染色法の併用。マイコプラズマ除菌はMC210による。染色体分析はギムザ法FISH法。STR分析はPCR法。分析結果はデータベース化。
③ マイコプラズマ迅速検出にマイコアラートを試用。
④ 新たな汚染微粒子は成分分析。
⑤ 細胞管理システムの改良はDelphiを使用。
⑥ 倫理研究は文献調査と現場研究者へのインタビュー。ホームページで開示。
結果と考察
① 105種の寄託、52種を登録(3年間で130種、ヒト細胞60%)。間葉系幹細胞(体性幹細胞)の寄託が顕著に増加。2988アンプルをHS研究資源バンクから分譲。汎用的ヒト細胞と当バンクのみにある細胞の需要が多数。海外へは226アンプルを分譲(米国35%、ドイツ24%、英国11%)。
② マイコプラズマ検出9件(汚染率17.3%)、MC210で除菌。寄託細胞と所内からの依頼9件中5件で誤謬を発見して廃棄。染色体の不安定性も観察。
③ マイコアラート法は適していると判定。従来法との併用を決定。
④ Kasumi-6から分離した微粒子が自律増殖性する事、主成分がハイドロキシアパタイトとフェチュインである事を確認。
⑤ dBASEIIによる細胞管理システム(JDACS)を改良、MySQLに変更。
⑥ 人体由来試料は現代研究に必須だが、現在の倫理枠組みではバンク活動を支えるのが難しい。公的研究資源バンクを維持するための社会的合意形成のありかたについて検討した。
結論
生物系研究資源は不安定な材料で長期間正しく維持管理するには専門機関の存在が必須である。これは我国の生命科学研究の推進に不可欠で欧米先進国は積極的に取組んでいる。これが欠落すると、誤った細胞を利用した研究や汚染細胞を利用した研究が増加し研究費が無駄になる。我国では研究資源の維持管理を発展させる事に興味を持つ研究者集団が存在するので、厚労省による積極的支援の継続を期待する。

公開日・更新日

公開日
2006-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200500148B
報告書区分
総合
研究課題名
生命科学研究資源基盤としての培養細胞株の収集・保存・供給システムの整備に関する研究
課題番号
H15-ゲノム-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 博(独立行政法人 医薬基盤研究所 生物資源研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 増井 徹(医薬基盤研究所生物資源研究部)
  • 小原有弘(医薬基盤研究所生物資源研究部)
  • 許 南浩(岡山大学大学院医歯学総合研究科)
  • 原澤 亮(岩手大学農学部)
  • 立花 章(京都大学放射線生物研究センター)
  • 木村成道(東京都老人総合研究所)
  • 安本 茂(神奈川県立がんセンター)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センタ-秦野研究所 遺伝毒性部)
  • 執印太郎(高知大学医学部腎泌尿器制御学教室)
  • 嶋田 裕(京都大学腫瘍外科)
  • 井口東郎(国立病院四国がんセンター臨床研究部)
  • 栁原五吉(国立がんセンタ-研究所 実験動物管理室)
  • 永森靜志(杏林大学医学部,総合医療学)
  • 小林真一(聖マリアンナ医科大学 薬理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、科学技術基本法政策(科学技術基本法、総合科学技術会議第5号答申等参照)に挙げられている『生物資源研究基盤』と『情報基盤』の整備の一環として『培養細胞研究資源』基盤を整備することを目的とする。
研究方法
細胞培養法、組織化学的細胞研究法、分子生物学的細胞研究法、細胞情報データベース構築法、細胞情報提供LINUXサーバ構築法、研究倫理に関する社会科学的研究法など多方面の研究方法を使う。
結果と考察
平成15、16年は移転準備のため積極的収集は行わず、移転後に積極的な収集を再開し多数の寄託を受けた。3年間を通じて登録した細胞は113種で、通常年間50種を目標としているのでそれを下回った。登録にあたっては、汚染検査、クロスコンタミ検査等を実施し、データベースに登録してインターネットに公開した。マイコプラズマ汚染率は近年少なくなってきたがそれでも20%程度の汚染率であった。クロスコンタミネーションも今年度新たに2-3件検出した。細胞のクロスコンタミを調査するためのデータベース構築も進行し934種の培養細胞に関するSTR分析データが蓄積された。このデータをもとに新規寄託細胞のクロスコンタミネーションの有無を検査するシステムを確立した。また、細胞のクロスコンタミネーションの分析についてはインターネットを通じて利用者に提供している。また、我々は新たな汚染微生物として増殖が遅いカルシウムを主成分とした微粒子を発見したがその実体はまだ明確では無い。しかし、その存在は徐々に知られるようになりつつある。
結論
『研究基盤・情報基盤』の整備は短期間での改廃はふさわしくないが、投入した研究費の金額に見合った『形』を残す必要がある。我々はこれを『細胞バンク』として構築して国内外の生命科学研究活動を積極的に支援するシステムを20年かけて構築してきた。『培養細胞』は近代国家における生命科学研究に必須な研究材料だが、汚染されやすく、不安定な研究材料でもある。その不安定性を極力取り除き汚染を排除した良質な材料として迅速に提供するシステムを構築して維持することが我々の目指す『形』であり、多くの研究者の方々から評価を頂いている。今後とも細胞バンクを発展させて国内外の研究者の役に立つシステムを構築する予定である。培養細胞情報は細胞バンクホームページ(http://cellbank.nibio.go.jp/)を通じて提供している。

公開日・更新日

公開日
2006-04-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500148C

成果

専門的・学術的観点からの成果
培養細胞の利用に必須な研究。① 1999年から現在までに収集したヒト細胞のうち約35種類(8%)に誤りがあったことを確認して公表した。わが国では誤った細胞が多くの研究に使われており、それを正す事は学術的に重要である。② FISH法やCGH法を利用して染色体構造の安定性について検討した。③ これまで培養細胞への汚染とは認識されていなかった微粒子状の夾雑物に自律増殖能があることを確認し、これが培養にとって脅威となりうるかどうかの検討を開始した。④研究倫理に関する諸外国の状況調査と検討。
臨床的観点からの成果
細胞バンクは研究利用のための細胞の収集を目的にしており、現時点で臨床応用は考えていない。しかし、ES細胞を利用した再生医療に注目が集まる中、培養細胞を臨床応用に繋げるための基礎的な研究を実施する必要を理解し、主にヒト研究資源のあり方やそれを臨床応用する際に必要になる倫理的視点について海外の事例を調査しつつ、わが国の問題点について分析を進めている。また染色体構造を指標にした細胞の安定性に関する研究は将来臨床応用を考慮する際の重要なデータとなる。
ガイドライン等の開発
以前(1988年頃)日本薬局方にマイコプラズマ検出法を記載することになり、その際文案作成に携わった。また、(独)医薬品医療機器総合機構専門委員に委嘱され(2005年)て動物薬品等培養細胞を利用した製剤の審査に意見を求められた。
その他行政的観点からの成果
第二次世界大戦後米国の研究基盤システムに依存し、自立した研究基盤を持っていなかったわが国は、経済大国と言われるようになったにもかかわらず、マイコプラズマで汚染された細胞や誤った細胞が多用されていることが明らかになり基盤整備の必要性が叫ばれるようになった。厚生労働省はこうした情勢を見越して1985年の対がん10ヵ年総合戦略開始時にいち早く『細胞バンク・遺伝子バンク』を整備し、がん研究者を中心に汚染を排除した正しい細胞の利用を推進して多くの成果を上げてきた。
その他のインパクト
東京から大阪に移転し、独法化されたためにHS研究資源バンクとの関係についての検討などを行いながら研究資源バンク事業の見直しを含めて再構築を進めている。地の利を生かしてマイコプラズマ汚染の受託検査、細胞誤謬受託検査(STR-PCR分析)、保護預かりなどを開始し、企業関係の研究者や開発担当者から支持されている。

朝日新聞『文化、単眼複眼欄、科学と科学技術は違う』で増井が引用。2005年4月1日夕刊。
日経バイオビジネス『Trend霞ヶ関インサイド』で増井徹が引用。2005年4月号35頁。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
1件
翻訳
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ホームページによる細胞バンク情報提供 http://cellbank.nibio.go.jp/

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Harasawa,R. Mizusawa,H. et al.
Rapid detection and differentiation of the major mycoplasma contaminanants in cell cultures using real-time PCR with SYBR green I and melting curve analysis.
Microbaiol. Immunol. , 49 , 859-863  (2005)
原著論文2
水澤 博
厚生労働省研究資源バンクのなすべきこと
BioResource now!(On line Journal) , 1 (6) , 1-2  (2005)
原著論文3
水澤 博
JCRB細胞バンクと細胞バンク事業
バイオサイエンスとインダストリー , 63 (11) , 725-728  (2005)
原著論文4
Tanabe,H., Mizusawa,H. and et.al.
Inter- and intra-specific gene-density-correlated radial chromosome territory arrangements are conserved in old world monkeys
Cytogenet. Genome Res. , 108 , 255-261  (2005)
原著論文5
増井徹、高田容子
英国バイオバンクプロジェクト
実験医学 , 23 (4) , 522-529  (2005)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-