糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発

文献情報

文献番号
200500141A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病発症遺伝子WFS1の機能解明と新規治療法の開発
課題番号
H16-ゲノム-003
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岡 芳知(東北大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 秀樹(東北大学大学院医学系研究科)
  • 谷澤 幸生(山口大学大学院医学系研究科)
  • 浅野 知一郎(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
34,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
飽食・肥満・運動不足は膵β細胞にインスリン分泌の増加を強要する。このような膵β細胞負荷(小胞体ストレス)状況下において、膵β細胞の維持・生存機構が遺伝的に脆弱な者では膵β細胞が徐々に減少し、年余の後に糖尿病を発症するのではないか。これを検証し、我々が世界に先駆けてクローニングした糖尿病をきたすウオルフラム症候群原因遺伝子WFS1を切り口にして、糖尿病発症予備軍を効率よく拾い上げ、さらに、新しいコンセプトの糖尿病治療薬のシーズを得る。
研究方法
ウオルフラム症候群のモデルであるWFS1ノックアウトマウスを用いて、小胞体ストレス反応を解析し、WFS1の機能を解明する。さらに、高脂肪食負荷により肥満・糖尿病を発症させたマウスを肥満糖尿病のモデルとして、個々の臓器(肝、脂肪、筋)の代謝が個体の糖・脂質代謝に及ぼす影響を検討する。また、WFS1と小胞体ストレス反応に関連する遺伝子群に焦点をあて、それらの遺伝子変異・多型を検索し、患者遺伝子解析により糖尿病発症ならびにインスリン分泌能との関連を明らかにする。
結果と考察
WFS1欠損マウスは膵β細胞の進行性減少により糖尿病を発症するが、この膵島では、PERKリン酸化の亢進、XBP1蛋白発現の亢進、ATF6の誘導によるシャペロン蛋白の発現増加が認められ、小胞体ストレス反応(UPR)の3つの経路が活性化していた。さらに、WFS1は小胞体カルシウムの恒常性維持に重要であることを明らかにした。この膵β細胞に負荷をかけるとアポトーシスが促進されることも明らかにした。興味あることに、このモデルとした軽度肥満のWFS1欠損agoutiマウスでは、インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンにより膵β細胞が保持され糖尿病の発症が予防された。また、膵β細胞への負荷を軽減させる対策のひとつとしての過食の制御があるが、内臓脂肪から脳へ向かう食欲調節シグナルの存在を世界で初めて明らかにした。さらに、患者遺伝子解析の候補となる小胞体ストレス反応遺伝子のSNPを同定し、患者遺伝子解析を進めた。
結論
WFS1の機能解明は膵β細胞維持という新たなコンセプトの創薬につながる点できわめて重要である。また、食欲を統御する脂肪組織発の神経シグナルは世界初の発見であり、膵β細胞を守る観点からも肥満糖尿病治療に新たな方向性をもたらすものである。

公開日・更新日

公開日
2006-04-25
更新日
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