霊長類を用いた脳梗塞モデルの遺伝子治療研究

文献情報

文献番号
200500138A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類を用いた脳梗塞モデルの遺伝子治療研究
課題番号
H16-遺伝子-006
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
吉川 泰弘(国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 寺尾 恵治(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
  • 久恒 辰博(国立大学法人東京大学 大学院新領域創成科学研究科)
  • 井上 誠(デイナベック ベクター開発室)
  • 谷 憲三朗(国立大学法人九州大学 生体防御医学研究所)
  • 小野 文子(社団法人 予防衛生協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究【ヒトゲノム遺伝子治療研究】
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
38,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2030年には65歳以上の高齢者が人口の30%以上を占める超高齢化社会を迎える。こうした状況は先進国中、日本が最初でモデル国は存在しない。従って弊害をどう克服するかは独自に解決する必要がある。特に血管性痴呆は患者数の多さ、QO L低下、社会的負担の増大から深刻な疾患である。本研究班はヒトに近縁な霊長類を用い3つの脳虚血(微小血管、中大脳動脈、全脳虚血)モデルを作成し、有効な遺伝子治療法を開発する。
研究方法
齧歯類を使用した脳梗塞モデルで薬剤の探索や、遺伝子治療・再生医療研究が進められている。しかし、齧歯類と霊長類では梗塞巣に対する反応が全く異なる。そこで①本研究班では再現性を持って3種類の脳虚血モデルを霊長類で完成するための条件決定。②モデルの基礎的、臨床的評価方法開発、③治療遺伝子のiv vivo, ex vivoデリバリーによる有効性、安全性評価の方法を検討した。ベクターは独自に開発し神経保護因子を搭載したセンダイウイルスを用いた。
結果と考察
サル類を用いたモデルの完成を目指した。齧歯類のデータは全く霊長類に適応できず総数20頭のサルを用い、3つの脳虚血モデルを完成した。①齧歯類と異なり梗塞後のダメージに対する感受性が極端に高く死亡してしまうため、再疎通条件を限定することが必要(中大脳動脈)②伏流が多いため頚動脈閉塞では完全に脳血流をとめられず、海馬神経細胞死は誘導されなかった。閉塞後の血圧を下げる脱血操作が必要(全脳虚血)③ラクナ梗塞モデルでは特に白質の反応が齧歯類に比べ極めて強い。モデル完成に予想以上の時間を要したが、ヒトへの外挿のため避けられない時間であった。上記モデルの完成の他、抹消血を用いたex vivo遺伝子導入、マイクロスフェアを用いたヒトのラクナ梗塞モデルの完成、蛋白解析による新規治療用遺伝子探索、新しい脳障害測定のための高次認知測定法開発を進めた。
結論
齧歯類と霊長類では梗塞巣に対する反応が全く異なることが明らかになった。ヒトへの応用を考えるとサル類で時間がかかっても完全なモデル作成が急務である。2年間で齧歯類から霊長類にモデルを移行させ、3つの脳虚血モデルを再現性よく誘発する条件を決定することが出来、モデルを用いて形態的・機能的障害の評価を行ったことは大きな成果であり、今後、国際的にも霊長類脳梗塞モデルを用いて研究を推進する際の貴重な情報を提供した。ただ、研究の進展に時間がかかり、完成されたサル類モデルを使ってウイルスベクターの有効・安全性を評価し、臨床応用まで行くための機会が失われたことは極めて残念である。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-