中皮腫と職業性石綿ばく露に関する研究

文献情報

文献番号
200500129A
報告書区分
総括
研究課題名
中皮腫と職業性石綿ばく露に関する研究
課題番号
H17-特別-002
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岸本 卓巳(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院)
研究分担者(所属機関)
  • 玄馬 顕一(独立行政法人労働者健康福祉機構岡山労災病院)
  • 城戸 優光(産業医科大学医学部)
  • 三上 春夫(千葉県がんセンター研究局)
  • 青江 啓介(独立行政法人国立病院機構山陽病院)
  • 成田 亘啓(奈良厚生会病院)
  • 大西 一男(独立行政法人労働者健康福祉機構神戸労災病院)
  • 高田 實(独立行政法人国立病院機構近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター)
  • 加藤 勝也(岡山大学医学部・歯学部附属病院)
  • 井内 康輝(広島大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の中皮腫症例と職業性石綿ばく露との関係を明らかにする。
研究方法
平成15年に死亡した中皮腫878症例を対象として、遺族の同意を得た後死亡診断書作成病院に依頼して、各症例のカルテ、レントゲン等画像、病理組織標本を得た。そして、年齢、性別、職業歴等石綿ばく露の有無、中皮腫診断方法と病理組織学的な確定診断、胸部画像上の石綿関連疾患の有無、肺内石綿小体数を算出した。また治療方法と生存期間についても検討した。
結果と考察
878例中、遺族の同意が得られ、カルテ等により臨床的に検討可能であった235例を対象に解析したところ、中皮腫の確定診断が確認できた症例は182例(77.4%)であり、発生部位は胸膜158例、腹膜23例、心膜1例であった。26例(11.1%)は病理学的な確定診断が行われておらず、剖検結果やカルテ・画像等から総合的に中皮腫疑いと判断し、27例(11.5%)は肺癌など中皮腫以外の疾患と判断した。
中皮腫と確定診断された182例について、173例はカルテ、遺族からのアンケート調査で職業歴の有無が調査でき、128例(74.0%)で石綿ばく露の職業歴を有しており、うち建設作業が26例と最多であった。6例では非職業性石綿ばく露が疑われた。医療機関から画像が提供された158例のうち石綿肺が認められたのは9例(5.7%)であり、69例(43.7%)では胸膜プラークが認められた。肺内の石綿小体数が計測された16例中10例(62.5%)で5,000本/乾燥肺重量肺1g以上の石綿小体が検出された。治療としては外科的切除が26例、化学療法が64例、対症療法のみが63例であった。生存期間では外科的切除が11.4ヶ月と最もよく、化学療法では8.8ヶ月、対症療法のみでは4.8ヶ月であった。
中皮腫の確定診断には病理組織学的な診断が必要である。また、中皮腫と石綿ばく露との関係を検討する上では、職業歴について学校卒業時から経年的に聴取するなど、問診において十分な職業歴を聴取することが重要であると思われた。治療法としては早期診断を行い外科的胸膜肺全摘出術を行うことで長期予後が得られる可能性が示唆された。
平成15年に中皮腫で死亡した症例の全国横断的疫学調査を実施した。検討可能であった症例数は235例であったが、本邦における中皮腫症例の実態の一端を明らかにすることができたと考える。
結論
平成15年に亡くなった中皮腫症例の74.0%は職業性石綿ばく露が示唆された。予後改善のためには早期診断と外科的治療が有用であると思われた。

公開日・更新日

公開日
2006-05-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500129C

成果

専門的・学術的観点からの成果
平成15年の中皮腫死亡者878例中胸部画像を検討しえた中皮腫158例のうち、石綿ばく露所見としての石綿肺が9例(5.7%)、胸膜プラーク69例(43.7%)であった。肺内石綿小体数が5,000本/1g肺乾燥重量以上の職業ばく露が示唆された症例は施行しえた16例中10例(62.5%)であった。職業性石綿ばく露が認められた症例はカルテ等を検討し得た173例中128例(74.0%)であった。中皮腫症例と石綿ばく露の関連を調査するためには、胸部画像や肺内石綿数より職業歴聴取が重要である。
臨床的観点からの成果
中皮腫に対して全国レベルでの診断・治療および石綿ばく露との関連で調査した研究は今までにはなかった。診断方法として胸腔鏡下生検他の組織診断は182例中144例(79.6%)行われていた。また治療方法として、外科切除例(胸膜肺全摘出術)は26例で生存期間は11.4ヶ月と最もよく、化学療法では8.8ヶ月、対症療法では4.8ヶ月であった。確定診断を行うためには胸腔鏡下等の生検による組織診断が有用であり、治療としては胸膜肺全摘出術が予後を改善する。
ガイドライン等の開発
胸膜中皮腫では胸水合併例が多いが、細胞診などが陰性で診断が確定せず、経過観察中中皮腫であると診断された場合には早期診断には至らない場合が多い。胸部CT上、中皮腫早期診断のためには胸膜の微妙な不整肥厚を見逃さないことが重要である。石綿ばく露歴がある症例が胸水貯留を来たした場合にはこの所見を重要視して胸腔鏡を行い、生検を行うことが中皮腫早期診断上重要であり、外科切除による予後改善の要因となる。
その他行政的観点からの成果
職業性石綿ばく露が示唆された症例は173例中128例(74.0%)であり、頻度別では建設業26例、造船所内作業16例、鉄鋼製品製造12例、電気工事12例であった。すなわち、日本の中皮腫症例においても職業性石綿ばく露により7割以上の症例が発症していることが判明した。また、石綿ばく露期間の中央値は30年で潜伏期間は43年であったため、過去の職業歴を詳細に聴取し1年以上の職業歴を有する場合にはすみやかに労災補償を受ける手続きをとることが必要である。
その他のインパクト
平成15年に死亡した悪性中皮腫の878例のうち、職業歴調査可能(遺族へのアンケート調査により職業歴が判明した症例を含む)であった173例中128例(74%)に職業性石綿ばく露が認められたことがマスコミに報じられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
第95回日本病理学会、第79回日本産業衛生学会
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-