麻薬の代替品として乱用が懸念される脱法ドラッグに関する研究

文献情報

文献番号
200500126A
報告書区分
総括
研究課題名
麻薬の代替品として乱用が懸念される脱法ドラッグに関する研究
課題番号
H17-特別-034
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
花尻(木倉) 瑠理(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 鹿庭 なほ子(国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成17(2005)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、急速に市場に流通するようになり、その健康被害や社会的弊害が懸念されている違法ドラッグ成分メチロンに焦点をあて、分析標準品の大量製造、薬物の物性に関する科学的データの提示、犯罪鑑識の際の被疑者生体試料中薬物の分析法の確立を目的とした検討を行った。また、多種多様な製品形態、種類が存在する違法ドラッグ製品について、簡便なスクリーニング法を検討した。
研究方法
メチレンジオキシベンゼンを出発物質としてメチロンを製造すると共に、各種機器分析による識別法を検討した。メチロン投与ラットにおいて、ガスクロマトグラフィー・質量分析による尿中代謝物の検索を行った。また、毛髪中薬物分析を行い、薬物の血中から毛髪への移行性を検討した。さらに、ヒトの代謝酵素を用いたin vitro実験を行い、メチロンを代謝する酵素を同定すると共に、高速液体クロマトグラフィー・飛行時間型質量分析により代謝物を同定した。一方、違法ドラッグのスクリーニング法として、新規イオン化法と精密質量分析を組み合わせた分析法(DARTTM-TOFMS)を検討した。
結果と考察
メチロンを大量製造し、各種定性試験結果を示した。動物実験では、メチロン投与ラット尿中から未変化体、N-脱メチル体、メチレンジオキシ部分の開裂体等が検出されることを示した。さらに、メチロンは血中から毛髪への移行性が高く、使用歴推定のための毛髪分析に適した薬物であることを示した。ヒトの代謝酵素を用いた実験では、CYP2D6が介在して、N-脱メチル体及びメチレンジオキシ部分の開裂と脱メチルの両者が起きた代謝物が生成することを示した。一方、DARTTM-TOFMSによる分析は、製品形態に関係なく前処理不要で精密質量分析が可能であり、違法ドラッグ製品のスクリーニング法として有用であった。また、本法では分析ができなかった亜硝酸エステル系化合物については、ヘッドスペースGC-MSによる確認分析法が有用であった。
結論
現在までに科学的な研究がほとんど報告されておらず、標準化合物も入手困難なため、分析法や有害性等の検討が行われていなかった違法ドラッグ成分メチロンについて、将来的に法規制化されるために必要な鑑識用標準品及び基礎的データを提示した。また、多数の構造類似化合物が存在する違法ドラッグ成分について、簡便な確認分析法を提示した。本研究結果は、国の乱用薬物対策の基礎資料となるものである。

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
200500126C

成果

専門的・学術的観点からの成果
近年、急速に市場に流通するようになり、その健康被害や社会的弊害が懸念されている違法ドラッグ成分メチロンについて、本化合物の将来的な法規制化を視野に入れ、分析用標準品の大量製造、薬物の物性に関する科学的データの提示、犯罪鑑識の際の薬物及び被疑者生体試料中薬物の分析法を確立した。また、メチロンを含む多種多様な違法ドラッグ成分について、簡便な識別法を提示した。
臨床的観点からの成果
薬物が麻薬に指定された場合は使用も厳しく規制されるため、麻薬指定に先立ち、被疑者の生体試料を用いた鑑定を想定し、薬物のヒトにおける代謝情報及び生体試料中薬物の分析法を把握しておく必要がある。今回、ラットにおける動物実験及びヒト代謝酵素系を用いた実験によりメチロンの生体内挙動を検討し、被疑者の生体試料を用いた鑑定(薬物使用証明)を行う際の基礎的データを提供した。
ガイドライン等の開発
本研究において、違法ドラッグ成分メチロンについて大量製造を行い、各種試験法による識別法を示した。このことにより、メチロンが法規制化された際に、速やかに全国の検査機関に薬物情報と共に鑑識用標準品を供給することが可能となった。また、メチロンの生体内挙動を示し、薬物使用者の生体試料鑑定のための基礎資料を提供した。さらに、多種多様な違法ドラッグ成分の流通実態調査を行う上で有用な簡易定性分析法を提示した。
その他行政的観点からの成果
違法ドラッグによる健康被害防止には、まず実態調査を行うとともに、早急に有害作用について検討し、必要であれば麻薬に指定して厳しく規制していくことが不可欠である。本研究結果は、違法ドラッグ成分メチロンが将来的に麻薬指定等法規制化されるために必要な鑑識用標準品及び基礎的データを厚生労働省医薬食品局監視指導麻薬対策課に提供するものであり、国の乱用薬物対策に貢献するものである。
その他のインパクト
違法ドラッグは、比較的容易に入手が可能であることから主に青少年の間で蔓延しており、健康被害も多数報告されている。そのため、特に青少年の教育関連分野を中心に、一般国民の関心も高い。また、国際的にも違法ドラッグの流通は深刻な問題となっている。本研究成果の一部について、日本薬学会が主催する市民講演会や韓国の医薬食品局(KFDA)において講演を行う等、国内外を通して違法ドラッグに関する啓発活動等を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
4件
鑑識用標準品の整備、麻薬指定のための基礎資料提供、薬事法改正のための基礎資料提供、厚生労働省が行っている無承認無許可医薬品(違法ドラッグ)買い上げ調査に係わる分析法の開発
その他成果(普及・啓発活動)
3件
日本薬学会広報委員会主催の市民講演会、全国衛生化学技術協議会自由集会での話題提供、韓国医薬食品局(KFDA)における講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-17
更新日
2023-06-09