ヘルスプロモ-ションの手法とその評価方法の国際比較に関する研究

文献情報

文献番号
199700005A
報告書区分
総括
研究課題名
ヘルスプロモ-ションの手法とその評価方法の国際比較に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
太田 壽城(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田畑泉(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
いわゆる先進諸国におけるヘルスプロモ-ション施策の取り組みの現状と具体的な手法を整理・研究し、今後のわが国におけるヘルスプロモ-ションのモニタリング及び評価の方向を考察する。
研究方法
世界の先進諸国の健康増進に関する情報収集については、?WHOの紹介による各国のカウンタ-バ-ト、?インタ-ネット、?健康増進に関する国際雑誌、?研究者のネットワ-クの4種類のル-トを用いた。また、日本の健康情報については研究者のデ-タベ-スとネットワ-クを活用した。
それぞれの情報はA.先進諸国におけるヘルスプロモ-ションの具体的事例、B.ヨ-ロッパ諸国におけるヘルスプロモ-ションの比較、C.先進諸国におけるヘルスプロモ-ションの目標設定、D.ヘルスプロモ-ションの評価、E.モニタリングのためのデ-タ収集の大きなテ-マに区分整理した。
結果と考察
A.先進国のおけるヘルスプロモ-ションの具体的事例をアメリカ、カナダ、イギリス、オ-ストラリアについて情報収集した。
アメリカは Healthy People 2000 の挑戦と目標を完了している。目標は?アメリカ人の寿命を延ばす、?アメリカ人における健康に関する不平等をなくする、?すべてのアメリカ人が疾病予防のためのサ-ビスを受けられるようにするの3点である。優先分野は?健康増進、身体運動と体力、栄養、煙草、アルコ-ルおよび他の薬物、家族計画、精神上の健康と Mental Disorde 、暴力と虐待的行為、健康教育および地域に根ざしたプログラム、?健康 Protection 、予期せぬ傷害、労働安全と労働衛生、環境衛生、食品および薬物安全、歯科衛生、?疾病予防サ-ビス、母子保健、心臓疾患と脳卒中、ガン、糖尿病とDisabling Conditions、HIV感染、性病、感染症、Clinical Preventive Service、?調査とデ-タシステムからなる。年代別の目標は児童、青年および若成人、成人、高齢者にわたる。
カナダは21世紀のための健康増進の教訓として、?環境、社会-経済、政治的、文化的な要因、?州のリ-ダ-シップ、?政府の委託と分野間協力、?健康公共政策の開発、?独立の研究所や独立の「シンクタンク」、?健康に強い影響力をもつ環境、?子どもの発達、?コニュニティ、?行動科学、?ヘルスケアシステム、?健康増進のための資金、?健康増進方策の評価、?健康増進の国際化を挙げている。
英国は OUR HEALTHIER NATION を企画している。国民の健康に影響を与えるものとして食事、身体運動、性活動、喫煙、アルコ-ル、薬物を挙げている。また社会環境(貧困、失業、社会疎外、自然環境)も入る。場所としては healthy school (児童生徒を対象)、healthy workplace (勤労者を対象)、          health neighbourhoods(高齢者をタ-ゲット)の3つが挙げられる。西暦2000年までの名確な目標には? 65歳以下の心疾患および脳卒中による死亡率を3分の1以上低下させる。?通院および家族医師との問診も含む accident を少なくとも5分の1削減する。?65歳以下の国民のガンによる死亡率を5分の1以上削減する。自殺および undetermined injury の死亡率を少なくとも6分の1低下させる等がある。
オ-ストラリアはヘルス・フォ-・オ-ルの改善を行い、国家目標の改定と達成のためのシステムづくりを行うとしている。国家目標の改定では、新しい枠組みとして、予防可能な死、健全な生活習慣と危険因子、個人の健康維 持能、健全な環境、医療介護システムを挙げている。国家目標を達成するために、国家の優先健康目標の明確化、主要な問題の同定、健全な環境に対する特別な配慮、公衆衛生インフラの整備、医療従事者のトレ-ニングと養成、観察と説明を検討している。
B.ヨ-ロッパ諸国におけるヘルスプロモ-ションの比較を、スウェ-デン、オランダ、ドイツ、デンマ-クについて行った。?現在の政策の枠組み、?1995~1996年間の1年間の発展、?今後の健康増進計画のアウトラインについて各国の現状を比較した。
C.先進諸国におけるヘルスプロモ-ションの目標設定について
米国、WHOヨ-ロッパ、オ-ストラリア、ニュ-ジ-ランド、ウェ-ルズ、イギリスの情報を分析した。
いくつかの国と地域がその国内において、国内の健康 goals (到達目標)と targets (達成目標)とを開発する動きが出てきた。これは、健康投資で期待される事柄を確実に達成するためであり、健康政策開発への一つの指針として、そして、または、資源の配置を決定する助けとするためである。現在までに、唯一アメリカ合衆国だけが一定期間、公共政策を方向付けるために targets (達成目標)を用いているが、ここで示された効果には励まされるものがある。1990年代、 targets (達成目標)達成のためのより組織的な方法が採用されてきた。特にアメリカ合衆国、イギリス、オ-ストラリアでおこなわれたものが注目される。それぞれの国で、健康制度、計画、運営、国民の健康改善に貢献する政府のすべての部門に必要とされるものであることが、さらに強調されてきている。これらの国で、今後さらに前進するためには、このような方法の持つ長所と短所とを認識し、そのために注意深いモニタ-が必要とされる。
D.ヘルスプロモ-ションの評価
1995年 6月 WHOヨ-ロッパ事務局は以下の3つの政府の機関の協力のもとに健康増進の評価に関するワ-キンググル-プを組織した。組織は、?CDC,米国、?ヘルスカナダ、?Health Education Anthority,イギリスからなる。その結果、?健康増進に興味をもつ者は企画から評価までのすべての段階で参加すべきである、?健康増進の評価には十分な財源が使わなければならない、?健康増進はその成果と同様にプロセスも評価されるべきである、?無作為比較対象試験は多くの場合不適切であり、誤解を招きやすく、不必要に金がかかる、?健康増進の評価における専門的な意見や技術、知識は検討されつづけられるべきであるの結論になりそれらの実現化のための政策決定者による提案をまとめた。
オ-ストラリアWHO協力センタ-は、健康増進の評価として進展、課題と解決方法を報告した。その中で健康増進の成果発現モデル、健康増進評価の6段階発達モデル、健康目標の4グル-プ間の関係を示している。
E.モニタリングのためのデ-タ収集
CDCがまとめた“アメリカの主な死因、慢性疾患とその危険因子"を検討した。死亡率に関するすべてのデ-タはCDCの健康統計センタ-が国際疾病分類(ICD-9-CM)を用いて米国全州について死亡率を性・人種・国際疾病分類で示している。すべての死亡率は1970年の人口をもとに年齢調整されている。一方、全州を比較している行動危険因子と予防サ-ビスのサ-ベイランスと若年者の行動危険因子サ-ベイに関する質問項目とその分析結果も現られた。
身体活動と健康に関する世界の情報と提言を収集した。アメリカでは身体活動と健康に関する米国医務長官の報告、身体活動振興米国連合、ヘルシ-ピ-プル2000、ヘルシ-ピ-プル2010、米国老化研究所、米国スポ-ツ医学会等があり、カナダでは、ヘルスカナダ、フィットネスとアクティブリビング、健康で活動的な生活のための報告書があり、WHO高齢者のための身体活動指針やニュ-ジ-ランドのヒラリ-財団のものである。
最後に、現在示される日本の健康情報デ-タベ-スについてサ-ベイした。その関係は健康意識、生活状況・健康状態、健康・栄養、運動・体力、休養・その他、ライフスタイル全体、医療費、都市、その他の約50編にわたる。
先進諸国における健康増進施策のトレンドは目標設定でほぼ一致していた。しかし、目標を項目には各国で若干の差異が認められた。この結果は、各国のかかえる健康増進における問題点の差異が考えられた。
健康増進の評価についての具体的な手法やプロセスは未だ明らかになっていない。しかし、基本的な考え方については今回の2つのデ-タソ-スは一致していた。その中で厳密な介入研究に対する限界が指摘されたのは興味深い。
一方、健康増進の施策決定や評価においてモニタリングの重要性が強く示唆された。モニタリングはその情報収集の方法のみならず、情報発信の方法も極めて重要と考えられた。モニタリングについてはアメリカが先駆的な役割を示しているが、得られた情報の活用方法やその方向性についてはさらなる検討が必要と考えられた。 
結論
 いわゆる先進諸国におけるヘルスプロモ-ションの施策、具体的な手法、評価の方法、モニタリングの方法は、わが国におけるヘルスプロモ-ションのあり方を検討するために、極めて重要な示唆を与えた。

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