感染症媒介ネズミの遺伝学的検査法による分類の行政的応用に関する研究

文献情報

文献番号
199700002A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症媒介ネズミの遺伝学的検査法による分類の行政的応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
米川 博通((財)東京都臨床医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生行政科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ラッサ熱、ハンタウイルス肺症候群(HPS)等の新興感染症並びに1994年のインドにおけるペスト流行等の再興感染症が世界各地で発生、世界的に注目されている。一方、近年の国際化の進展と船舶・航空機の輸送手段の発達により、人の移動と貨物の国際物流が増加し、かつ広域化し、地球規模でのボーダレス化が進んでいることから、疾病の国際的伝播の防止を図るため、世界保健規則(IHR)の改正が行われることとなっている。このような状況の中、感染症媒介ネズミは、船舶・航空機の交通機関によって移動するとともに感染症の侵入蔓延に深い係わりを持っている。そこで、ペスト、ラッサ熱、HPS等の病原体を保有媒介するネズミの侵入と感染症の蔓延を予防する対策として、世界における主なネズミの分類同定を外部形態による他、染色体、生化学的標識遺伝子及びミトコンドリアDNA(mtDNA)等の遺伝学的検査法により外来種を決定するための調査研究を行い、ネズミによって運び込まれる感染症の侵入経路をネズミの由来から探る遺伝子検査法を新たに検疫行政に導入のための方策を構築し、感染症侵入防止対策に活用する。
研究方法
?主なネズミの外部形態、染色体核型、生化学的標識遺伝子のなかでヘモグロビンβ鎖(Hbb)及びmtDNAによる遺伝学的特性を文献により調査した。?1967年から1996年までの30年間、全国の港湾区域等(船舶・航空機を含む)で捕獲されたネズミを検疫所業務年報及び聞き取りにより調査した。?港湾区域等(船舶を含む)のネズミを捕獲して?と同じ項目を調査した。?ラッサ熱、HPS、腎症候性出血熱(HFRS)、リンパ球性脈絡髄膜炎(LCM)等を媒介するネズミの生体写真、分布地図及び遺伝学的地域特性に基づく分布地図(遺伝地図)を作成した。
結果と考察
?世界の主なネズミの遺伝学的特性。クマとハツカは染色体核型、生化学的標識遺伝子(Hbb)及びmtDNAによる遺伝学的特性によって亜種にまで分類が可能であった。他のネズミは亜種にまで分類ができなかった。?1967年から1996年までの30年間、港湾区域で捕獲されたネズミは、ドブが最も多く、次いでハツカ、クマの3種類で99%を占め、最近ではハツカが占める率が増えてきた。船舶のネズミは、クマが最も多く、次いでハツカ、ドブの順で3種類が主体であった。最近では駆除船舶数の減少とともに捕獲数が減少した。雑貨貨物からコンテナ専用船舶への輸送形態の変化から最近では船舶内でハツカが捕獲されなくなった。一方、1984年1月水島港ではアメリカ、カナダにおいてHPSの原因ウイルスが発見されたPeromyscusが1頭捕獲された。その後、同港周辺の調査を行ったがPeromyscusは捕獲されていない。なお同港には北米から穀類及び鉱石等が輸入されており、貨物とともにネズミの侵入定着が考えられる。?港湾区域のクマは、染色体数が2n=42、Cバンドの欠失を認めることからアジア型であって、日本産クマとヨウシュクマの交雑又はヨウシュクマの存在を認めなかった。ドブは核型等による地域特異性が認められなかった。横浜港の大黒埠頭で捕獲されたハツカは、mtDNAによる系統樹から見てロシア、台湾由来Mus musculus castaneus及び南仏、スペイン・ポルトガル或いはラテンアメリカ由来M.m.domesticusの侵入定着が確認された。大黒埠頭はここ10数年前に沖を埋め立て共用開始された新しい埠頭であって、使用される船舶の仕出港から調べるとネズミの由来と一致した。外国航路の船舶内のクマは染色体数が2n=42のアジア型であって、Cバンドから各々自国から侵入したネズミであった、1981年から1997年の間、成田空港では、航空機の中又は貨物・手荷物から15頭のネズミを捕獲した。以上のことから、ハツカ、クマは遺伝学的特性により由来を推測することが可能で
ある。今後も感染症媒介ネズミが諸外国から侵入定着する可能性が高い。検疫所において、ネズミの分類同定に外部形態の他、遺伝学的検査法を導入することにより検査が科学的となり、ラッサ熱、HPS等の病原体を媒介する可能性の高いネズミであった場合、目的に応じた感染症に対し早急に検査に付し、感染症侵入防止に活用することが可能となる。
結論
クマとハツカは遺伝学的特性によって亜種にまで分類が可能であったが、他のネズミは亜種にまで分類ができなかった。港湾区域で捕獲されたネズミは、ドブからハツカ
に置き換わりつつある。水島港ではアメリカ、カナダにおいてHPSの原因ウイルスが発見されたPeromyscusが捕獲され、今後も船舶等によって各種のネズミが我が国に侵入する可能性が大きい。港湾区域のクマは、アジア型であって、ヨウシュクマの存在を認めなかった。横浜港のハツカは、mtDNAによる系統樹から見て外来種のM.m.castaneus及びM.m.do-
mesticusの侵入定着が確認された。外国航路の船舶内のクマは、各々自国から侵入したネズミであった。以上のことから港湾区域等には外来種のネズミが侵入定着し、今後も更に侵入する可能性は高い。ラッサ熱、HPS等の病原体を媒介するネズミの遺伝地図を作成することによって、ネズミの分類同定に外部形態の他、遺伝学的検査法を導入することにより検査が科学的となり、目的に応じた感染症の病原体に対し早急に検査に付し、感染症侵入防止に活用することが可能となる。

公開日・更新日

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