高齢転倒経験者における介護予防対策の費用対効果に関する研究

文献情報

文献番号
200500018A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢転倒経験者における介護予防対策の費用対効果に関する研究
課題番号
H16-政策-008
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 連三(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 丁次(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 鶴見 隆正(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 清水 順市(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 長澤 弘(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 浅利 勝照(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
3,465,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大腿骨頸部骨折の総治療費と介護予防対策としての転倒予防教室、筋力向上トレーニング事業などの費用を調査し、介護予防施策の費用対効果を調査する。高齢者転倒危険因子となりうる低栄養の実態と低栄養に起因する体力低下・嚥下機能の低下から生じる嚥下障害・誤嚥性肺炎を防止する嚥下障害食・嚥下障害訓練の実態とその治療費を調査する。
研究方法
大腿骨頸部骨折の総入院治療費を144名について調査した。高齢者介護予防に関して1224施設を対象に全国的なアンケート調査を行った。介護予防施策への参加者1人当りの費用、事業の有効性について調査した。介護予防市町村モデルの一つとして横須賀市の高齢者体力づくり教室の成果について調査した。嚥下障害アンケートをし、全国大学病院耳鼻科89施設に行った。嚥下障害治療の取り組みとその内容、嚥下障害食について調査した。嚥下機能スクリーニング検査について調査した。
結果と考察
大腿骨頸部骨折の入院総医療費は平均192万円と昨年の182万円より高額となっていた。内側骨折に対する人工骨頭置換術が最も高額で平均227万円(16年度214万円)となった。これに対し、ハンソンピンでは131万円(16年度109万円)と最も低い価となった。しかし術後、骨頭壊死や偽関節のため再手術を要し、むしろ高額となる恐れもある。一方転倒予防教室や筋力向上トレーニングを含む介護予防事業では高額なマシーンを用いての訓練を行っても1人当り平均5万1千円程度と安価であった。横須賀市の事業結果では体力は有意に改善が認められた。全国で行われている取り組みでも筋力向上、歩行、バランスの改善の報告がみられる。効果については60%が有効であると答えている。しかし転倒率や骨折率の改善についての検証は不十分でさらなる研究検討が必要であると考えるが、大腿骨頸部骨折の総治療費と比較して転倒予防教室を含む介護予防の訓練は費用対効果の点で優れている。高齢者の嚥下障害は誤嚥性肺炎などを招きやすく、食事を制限するため低栄養となる。低栄養状態は高齢者転倒の重要な危険因子の一つであり、低栄養は体力減弱を招き嚥下機能低下を生じる悪循環を呈する。嚥下障害の治療及び嚥下食へのアプローチは十分な体制が整えられていない現状であり、早急な対応が必要である。
結論
大腿骨頸部骨折の平均入院治療費は192万円と高額であった。一方転倒予防教室を含む介護予防事業での平均費用は5万1千円と低額で前者と比較して費用対効果に優れている。嚥下障害治療・訓練の治療体制は充分でなく、今後充実に向けた努力が必要である。嚥下障害治療費増大を防止するための予防的嚥下障害訓練の開発を要する。

公開日・更新日

公開日
2006-04-14
更新日
-

文献情報

文献番号
200500018B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢転倒経験者における介護予防対策の費用対効果に関する研究
課題番号
H16-政策-008
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 連三(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 丁次(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 鶴見 隆正(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 清水 順市(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 長澤 弘(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
  • 浅利 勝照(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大腿骨頸部骨折の総入院治療費と介護予防事業の1人当りの費用を比較し介護予防対策の費用対効果を調査する。高齢者の低栄養が転倒危険因子であることを実証し、低栄養の原因・結果でもある高齢者の嚥下障害の治療、嚥下食を調査する。
研究方法
大腿骨頸部骨折の総入院治療費を3病院376名について調査した。高齢者介護予防は1495施設に全国的なアンケート調査を行った。介護予防対策の実態を調査し参加者1人当りの費用と事業の有効性について調査した。介護予防事業の横須賀市高齢者体力づくり教室参加者87人の調査をした。大腿骨頸部骨折72名と転倒未経験の高齢者326名の血中アルブミン値を比較し転倒骨折高齢者の低栄養状態を調査した。胃潰瘍から低栄養、嚥下障害、誤嚥性肺炎、転倒骨折に至った1高齢者を調査した。全国大学病院耳鼻咽喉科89施設に嚥下障害アンケートを行い嚥下障害治療の取り組み、内容、嚥下食について調査した。
結果と考察
大腿骨頸部骨折の総入院治療費は平均186万円と高額であったが介護予防施策の参加者1人当りの費用は平均5万1千円程度で安価であり費用対効果の面で優れていた。介護予防施策は横須賀市高齢者体力づくり教室など、筋力、バランス、体力向上に効果があるが転倒率、骨折率の減少の実証に乏しい。大腿骨頸部骨折患者の血清アルブミン値は平均3.8g/dlと転倒未経験の高齢者の4.4g/dlと比較し低栄養状態であった。低栄養化し転倒を繰返し骨粗鬆症により骨折する頻度が高くなる。低栄養化は嚥下障害から誤嚥性肺炎を生じ治療費が増加する。高齢者嚥下障害の治療は全国的に30%程度が取組んでいる。嚥下食作成には約450円のコスト増があり、保険請求可が望まれる。
結論
大腿骨頸部骨折の総入院治療費は平均186万円であった。転倒予防教室を含む介護予防対策費は平均5万1千円と低額で費用対効果に優れている。頸部骨折患者の血清アルブミン値は転倒を生じやすい4.0g/dl以下が77%であり、転倒未経験の高齢者は3%と少なかった。転倒予防のための栄養指導、高齢者が容易に食せる蛋白質食材の開発が必要である。本邦の嚥下障害治療・訓練の体制は充分でなく、今後充実推進が必要である。嚥下食の保険適応、嚥下障害治療費の増大防止の予防的嚥下障害訓練の開発を要する。

公開日・更新日

公開日
2006-04-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1.大腿骨頸部骨折の総入院治療費は平均186万円で、平均在院日数は42日であった。2.転倒予防教室や筋力向上トレーニングなどの介護予防施策の1人当りの費用は平均5万1千円で安価で費用対効果に優れていた。3.人工骨頭置換術は平均248万円、在院日数平均47日、ハンソンピンは117万円と33日で後者が費用対効果上優れていた。4.大腿骨頸部骨折患者の血清アルブミン値は平均3.8g/dlと転倒経験のない高齢者の4.4g/dlと比較し低栄養であった。5.高齢者嚥下障害治療の全国的取り組みは30%であった。
臨床的観点からの成果
1.大腿骨頸部骨折の入院費と入院日数の点で内側骨折の非転位型ではハンソンピン、転位型には人工骨頭が適応となる。ハンソンピンはC.CHSより有利である。外側骨折にはγ-ネイル等の髄内固定術がCHSより優れている。2.転倒予防教室や筋力向上トレーニングは安価で、筋力・バランス・体力向上に優れているが、転倒率・骨折率減少効果の実証が必要である。3.大腿骨頸部骨折患者の血清アルブミン値は正常以下で、転倒予防にアルブミンの検診と栄養改善指導が必要である。
ガイドライン等の開発
1.大腿骨頸部内側骨折の非転位型にはハンソンピン、転位型には人工骨頭置換術が第一選択である。外側骨折には髄内固定術が第一選択である。2.高齢者の転倒予防に転倒予防教室や筋力向上トレーニング、血清アルブミンの定期検診が推奨される。血清アルブミン値4.0g/dl以下には栄養補給対策が必要で非侵襲性嚥下障害スクリーニングテストが適応となりうる。嚥下障害保有高齢者には嚥下訓練、嚥下食が推奨される。
その他行政的観点からの成果
1.高齢者の健康寿命延長に転倒予防教室や筋力向上トレーニングの積極的普及が市町村単位及び介護保険の予防給付上推進されるべきである。高齢者に血清アルブミンの検診推進が必要で4.0g/dl以下には嚥下食を含めた栄養補給法の確立の推進が必要である。嚥下障害発見のための非侵襲性スクリーニングテストの確立、嚥下訓練法や嚥下障害治療法の確立と指導法の確立が必要である。
その他のインパクト
平成18年11月5日(土)、神奈川県立保健福祉大学の大学祭の一環として公開講座「いきいきと生きるための介護予防」と題して1.誰でもできる転倒予防教室(岡本連三)2.転倒を予防する新しい歩行器(鶴見隆正)3.栄養をつけて元気に生きるノウハウ(中村丁次)4.横須賀市における高齢者体力づくり教室(芝原修司)の講演会を開催した。参加者100名で地域貢献をした。同日転倒予防体操としての太極拳披露会を開催し、高齢者転倒予防への関心を広め、太極拳の手軽な易参加性の理解の醸成に役立てた。

発表件数

原著論文(和文)
4件
1.高齢者の嚥下における下顎部筋活動と呼吸周期2.高齢者の転倒予防教室及び筋力向上トレーニング事業の費用対効果(投稿中)3、4.大腿骨頸部骨折の治療法と費用対効果、血清アルブミン値(投稿予定)
原著論文(英文等)
2件
1.Cost-benefit analysis of fall prevention etc.(投稿予定)2.Consumption behavior and its influence etc.
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
4件
2件既発表、2件発表予定
学会発表(国際学会等)
2件
1.2006 Annual Meeting of AAOS(Chicago) 2.3rd Joint International Congress on Disability etc.(Manila)
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
Safety Walker(鶴見隆正)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
1.介護予防公開講座2.転倒予防体操としての太極拳の披露と大学内太極拳クラブの設立と地域貢献

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
清水順市,杉山みち子,五味郁子et al.
高齢者の嚥下における下顎部筋活動と呼吸周期
神奈川県立保健福祉大学誌 , 2 (1) , 13-19  (2005)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-