介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価に関する研究

文献情報

文献番号
200500002A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価に関する研究
課題番号
H15-政策-017
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川渕 孝一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 藤原 佳典(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
  • 渡辺 修一郎(桜美林大学大学院国際学研究科)
  • 寺岡 加代(東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究費
5,390,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究事業は、介護予防対策を全国で先駆けて実施してきた群馬県草津町および新潟県与板町をモデルとして、介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価を行うことを主な目的としている。本年度は、これまで作成してきたデータベースを活用して、地域包括的な介護予防推進システム全体についての評価を行うとともに、介護予防健診の評価および医療費・介護費が認知症の程度や自立度の維持に及ぼす影響を分析した。
研究方法
介護予防推進システム全体の評価では、地域在宅高齢者の老研式活動能力指標得点、70歳時健康余命、介護保険新規認定者(70歳以上に限定)の平均年齢の3指標の推移を比較した。介護予防健診の評価では、平成14年から17年まで実施されてきた介護予防健診(計4回実施)の受診回数別に、3年間の高次生活機能(老研式活動能力指標得点)および医療費・介護費用の推移を比較した。医療費・介護費が認知症の程度や自立度の維持の及ぼす影響は、認知症の程度、要介護度、自立度それぞれを被説明変数に、性、年齢、疾病、医療費、介護費を説明変数においた重回帰分析によった。
結果と考察
対照地域に比べると両モデル地域とも4年間で老研式活動能力指標得点(平均値、中央値)は上昇し、男性の70歳時健康余命は延長した(女性での延長は見られなかった)。介護保険新規認定者の平均年齢はシステム構築以前は82.6歳(与板町)、82.0歳(草津町)であったが、システム構築後4年間は83.6歳、82.9歳へとそれぞれ1歳上昇した。以上から介護予防推進システム全体の有効性が検証された。健診の受診回数別に医療・介護給付費を比較すると2、3年目の入院費を除くと受診回数による差はみられなかった。一方、毎年受診する群はベースラインおよびその3年後も高い生活機能を維持していた。健診受診は生活機能の維持に寄与していると言えるかもしれない。認知症の程度と医療費の間には負の相関が、介護費との間には正の相関が認められた。医療費を増加させて認知症の程度を改善させ、介護費用を削減できる可能性が示唆された。
結論
「介護予防推進システム」は、地域高齢者全体の生活機能の向上をもたらし、要支援・要介護の発生を先送りする可能性が高いこと、介護予防健診を毎年受診するものの生活機能は維持されやすいこと、一定の医療費や介護費は認知症の程度や自立度の低下を抑制する作用があること、などが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2006-04-18
更新日
-

文献情報

文献番号
200500002B
報告書区分
総合
研究課題名
介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価に関する研究
課題番号
H15-政策-017
研究年度
平成17(2005)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川渕 孝一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
  • 藤原 佳典(財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団 東京都老人総合研究所)
  • 渡辺 修一郎(桜美林大学大学院国際学研究科)
  • 寺岡 加代(東京医科歯科大学歯学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究
研究開始年度
平成15(2003)年度
研究終了予定年度
平成17(2005)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成18年4月より介護保険制度は予防を重視したシステムに転換され、新たに「新・予防給付」および「地域支援事業」が始まる。これら介護予防対策ははたして要支援、要介護高齢者の発生を抑制し介護保険や医療保険の安定的運営に寄与しうるのであろうか。本研究はこの疑問に答えるべく、全国に先駆けて介護予防を進めてきた二つの地域を事例として、介護予防対策の費用対効果に着目した経済的評価を行ったものである。
研究方法
平成12年度から新潟県与板町で、平成13年度から群馬県草津町で、行政と共同して地域包括的な「介護予防推進システム」を立ち上げ、これまで2回(与板町では平成12、14年、草津町では平成13、15年)在宅高齢者を対象とした健康調査を実施してきた。本研究事業において第3回目の健康調査(与板町平成16年、草津町平成17年)を実施するとともに、これら個人の健康情報に平成12年以降16年度までの医療・介護給付費や介護予防事業への参加状況をすべてリンケージしたデータセットを構築した。これを用いてハイリスク者のスクリーニングツールの開発、介護予防健診や介護予防事業の経済的評価、さらに「介護予防推進システム」の全体としての効果評価を行った。
結果と考察
新たに作成した「介護予防チェックリスト」は「要介護状態」の新規発生を予測する妥当性を有しており、介護予防事業の対象者をスクリーニングするツールとして有用であることが示された。「介護予防健診」の受診群は非受診群に比べると受診前後にわたり医療費や介護給付費が少なく、生活機能(老研式活動能力指標)の低下が抑制されていた。介護予防事業への参加群(n=149)はその後生活機能が維持され、医療費や介護給付の伸びは抑制され、費用(年230万円)対効果(3年間で1億円の医療・介護給付費の抑制)の極めて優れた保健事業であった。過去4年間対照地域に比べた両地域の在宅高齢者の生活機能(同上)は向上した。介護保険新規認定者の平均年齢は介護予防システム構築前に比べその後4年間で両地域とも1歳上昇した。
結論
「介護予防チェックリスト」を用いてハイリスク者を効率よくスクリーニングし効果的な介護予防事業に結びつけることができるならば、老人医療費や介護保険給付費の抑制につながることを実証した。各自治体においてハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチを組み込んだ「介護予防推進システム」を構築することにより、地域高齢者全体の生活機能が向上し、介護保険申請(要支援・要介護の発生)が先送りされる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2006-04-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200500002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、調査によって得た住民の健康情報と保険者が有する医療・介護給付費や保健事業への参加情報をリンケージしたデータベースを作成し、これをもとに介護予防健診、介護予防事業、介護予防推進システムについての費用対効果分析を行ったものである。分析においては、参加者、非参加者の特性の差異による影響(交絡要因)を調整し、事業自体の独立した効果を抽出した。こうしたデータベースおよび政策・事業評価の手法は新規性および独創性があり、今後の同種の研究のモデルとなろう。
臨床的観点からの成果
本研究での介護予防事業とは体力づくりと交流を主な目的とした「高齢者サロン」とでもいうべきもので、運営経費も一人当たり年1万円程度の低コスト事業であった。しかしこれに参加(2週間に1回程度)することでその後の医療・介護給付費が大きく抑制されることがわかった。その原因の解明は今後の課題であるが、少なくとも高齢者ニーズに対しては医療的アプローチのみでは限界があり、体力づくりや交流といった介護予防的手法も有効であることを示しており、意義は大きい
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
行政事業の費用対効果分析は効率的な行政運営の視点から必要な作業である。特に本研究は平成18年4月から介護保険制度下に新設される「新・予防給付」や「地域支援事業」を先取りし、全国に先駆けて介護予防推進システムを構築してきたモデル地域でそのシステム全体および個別事業の評価を行ったものである。したがって本研究の成果に対する行政の関心は高い(東京都西多摩保健所管内の市町村担当者研修会で二年次報告書が印刷・配布された他、自治体からの報告書送付のリクエストも多い)。
その他のインパクト
研究成果の一部について「厚生の指標」や「公衆衛生」から原稿依頼がありすでに掲載された。東京都老人総合研究所の公開講座、介護予防マネージメント研修などでは頻繁に引用されている。

発表件数

原著論文(和文)
24件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
50件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
吉田裕人, 藤原佳典, 熊谷修, 他
介護予防の経済的評価に向けたデータベース作成-高齢者の自立度別の医療・介護給付費-
厚生の指標 , 51 (5) , 1-7  (2004)
原著論文2
新開省二, 藤田幸司, 藤原佳典, 他
地域高齢者における”タイプ別”閉じこもりの出現頻度とその特徴
日本公衆衛生雑誌 , 52 (6) , 293-307  (2005)
原著論文3
新開省二, 藤田幸司, 藤原佳典, 他
地域高齢者におけるタイプ別閉じこもりの予後. 2年間の追跡研究
日本公衆衛生雑誌 , 52 (7) , 443-455  (2005)
原著論文4
新開省二, 藤田幸司, 藤原佳典, 他
地域在宅高齢者におけるタイプ別閉じこもりの予測因子. 2年間の追跡研究から
日本公衆衛生雑誌 , 52 (10) , 627-638  (2005)
原著論文5
藤原佳典, 天野秀紀, 吉田裕人, 他
在宅自立高齢者の介護保険認定に関連する身体・心理的要因. 3年4ヶ月間の追跡調査から
日本公衆衛生雑誌 , 53 (2) , 77-99  (2006)
原著論文6
吉田裕人, 藤原佳典, 天野秀紀, 他
介護予防事業の経済的側面からの評価-介護予防事業参加者と非参加者の医療・介護費用の推移-
日本公衆衛生雑誌(投稿中)  (2006)
原著論文7
渡辺直紀, 吉田裕人, 藤原佳典, 他
地域高齢者の要介護リスクのスクリーニングに関する研究-1.介護予防チェックリストの開発-
日本公衆衛生雑誌(投稿中)  (2006)
原著論文8
菅万理, 吉田裕人, 藤原佳典, 他
地域高齢者の介護予防健診非受診の要因分析
日本公衆衛生雑誌(投稿中)  (2006)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-