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文献情報

文献番号 200301205A
報告書区分 総括
研究課題 食品由来のリステリア菌の健康被害に関する研究(総括研究報告書)
課題番号  
研究年度 平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関) 五十君靜信(国立医薬品食品衛生研究所) 
研究分担者(所属機関) 牧野壮一(帯広畜産大学), 本藤良(日本獣医畜産大学), 仲真晶子(東京都健康安全研究センター),寺尾通徳(新潟大学) 
研究区分 厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 食品医薬品等リスク分析研究(食品安全確保研究事業)
開始年度 平成13(2001)年度
終了予定年度 平成15(2003)年度
研究費 21,200,000円
研究者交替、所属機関変更  

研究報告書(概要版)

概要版 研究目的:
リステリア菌Listeria monocytogenesは動物や土壌等の環境中に広く常在している。その結果、乳肉製品を中心に食品から高頻度に分離されてきた。一方、これまで、わが国におけるリステリア症の発生状況は充分に掌握されておらず、漠然と発生が少ないと考えられてきた。感染源や感染経路については不明で、食品を介した感染症であるといった認識は希薄であった。一方、2001年に食品を介したリステリアによる感染が強く疑われる集団事例が発生し、わが国においても食品を介したリステリア症が発生している可能性を示唆した。そこで、本研究班では、わが国におけるリステリア症の実体を掌握するために、まず、アクティブサーベーランスを行い、国内でどの程度の患者が発生しているかを明らかにし、リステリアに関する情報収集を行ったうえで、本症が食品を介した感染症であるかの検証を試みた。そして、今後リステリア症にどのように対処して行くべきであるかの方向性を示すために、本症の診断に関する問題点、本菌の検査検出法に関する問題点を示し、その解決法を探り、リステリアの検査検出法の標準化を試みることを目的とした。
研究方法:
日本で発生しているリステリア症の実態をアクティブサーベーランスにより検討してきた。本年度は、これまでに収集した臨床分離菌株、環境分離株および食品由来株に詳細な疫学および遺伝学的な検討を加え、食品媒介感染症としての国内のリステリア症についてその制御法をふまえた研究を行った。初年度から、主任研究者が中心となり、地方衛生研究所、拠点となる病院および国立感染症研究所の感染症情報センターとの連携をとりながら、リステリア症の疑いがある症例の発生情報の提供をお願いしてきたが、複数の医療機関で研究に理解をいただき、研究への協力並びに臨床材料の提供を受けた。引き続き臨床的な情報収集を行い、食品との関連が疑われる症例については重点的に検討を加えた。リステリア症の診断法の検討では、健康成人のボランティアから血液の提供を受け、研究班で開発したELISA法およびPCR法を試み、リステリア症患者血清との比較において、検査法を評価し、更なる改良を行った。リステリア症が疑われるが、生菌の検出されない事例についてもこれらの方法を適用し、評価した。食品を介したリステリア症の集団発生を想定し、迅速診断の可能性(ELISA法とPCR法による感染の確認と原因食品の特定方法のプロトコール作成)を検討した。一方、国内における食品のリステリア汚染状況に関しては、昨年度までの研究により多くの市販食品種における汚染実態がほぼ掌握されたが、本年度は特に重要と思われるready-to-eat食品について、汚染菌数に定量的な検討を加えた。リステリアの疫学マーカー、分離法の検討とその標準化に関しては、これまで、PFGEの手法の標準化、リポタイピング、簡易迅速キットの評価、簡便な血清型別法について検討を行って来たが、本年度は引き続き検討を行うと共にこれらの方法を系統的にまとめ、標準的な方法の確立を試みた。これらの手法を用いて、2001年3月に北海道で発生したナチュラルチーズによる集団食中毒事例から分離されたリステリア菌株につき疫学的検討を加えた。リステリアの疫学マーカーの検索では、各種由来の異なる菌株の遺伝解析および生化学性状を比較するための疫学マーカーや、10の病原因子の遺伝子の分布について検討した。ヒト以外の由来のリステリア菌株が実際にヒトに病原性を保有するのかについて明らかにするために、 リステリア菌の病原性を判定する試験法について検討した。
結果と考察:
これまで研究班で検討してきたリステリアの細菌学的検出法、疫学的検討方法は、系統的にまとめ、今後用いる標準的な方法として整理した。検討を行ってきたリステリア症の診断法も実用レベルに達し、今後もし食品を原因としてリステリア症が疑われる集団事例が起こったとしてもすぐ対応可能な検査体制が整ったといえる。そこで、2001年3月に北海道で発生したナチュラルチーズによる集団食中毒事例の資料を検討することにより、この事例による問題点を明らかにすると共に、今後実際に類似する事例が発生した場合、どの様に対処するべきかのプロトコール作りを試みた。北海道で発生したナチュラルチーズによる集団食中毒事例について研究班で検討したところ、リステリアがチーズという食品を介して患者に摂取されたという事実は確認された。しかし、この事例では他の食中毒細菌および同様な症状を起こすと思われる他の感染症に関する検査が行われていなかったこと、症状がリステリアが感染を起こした事によるものであるかを特定できなかったことなどの理由からリステリア症の確定には至らなかった。血清は採取されておらず、この検討も不可能であった。一方、この事例で報告された臨床症状は、海外で発生した集団事例の臨床症状と比べ、個々の臨床症状の割合も含め、ほぼ一致しており、想定されたリステリアの摂取菌数から考えても、観察された症状がリステリア感染の初期症状と考えることは自然である。今後同様な事例が発生した場合は、患者血液の採取が望まれる。そして研究班の開発した臨床的な診断法を適用すれば、リステリア症であるか否かに関する判断は確信を持ってなされると思われる。研究班では、リステリア症の診断法として、リステリアの菌体成分特異的な抗体価を測定するELISA法と、血液から直接リステリア菌遺伝子を検出するPCR法を開発した。これらの方法を用いることにより、一般のリステリア症の診断においてしばしば発生する抗生物質治療が行われているため菌の分離が困難であるような本菌による重篤な脳髄膜炎や敗血症の診断も確実となる。さらに、集団発生事例で報告されている発熱などのいわゆる風邪の初期に類似する症状や急性胃腸炎といったリステリア感染初期の診断にも期待される。国内における市販食品のリステリア汚染状況は、ほぼ明かに出来た。この結果から肉製品での汚染率が高いことが確認された。牛、豚、鶏肉ともほぼ同様にリステリアの汚染が見られるが、ブロック肉に比べ、カットされた肉や挽肉など手を加えられた肉での汚染率が高かったことは、食肉の処理過程において汚染が広がっていることになる。市販生肉は、いずれの動物種の食肉も汚染頻度は高いが、汚染菌数は低く、通常は加熱後喫食する事を考えると、感染のリスクはそれほど高くないと思われる。一方、汚染頻度は低いものの、生食用食品の一部でリステリアの汚染が報告されていたため、研究班は市販の生食用食品を購入し、実際に汚染実態調査を行った。鮮魚類と生食用鮮魚類合計35品目394検体についての汚染実態調査の結果では、一部の生食用食品でL.monocytogenesが分離された。おおむね菌数は低かったが、1検体はグラムあたり10の2乗を越える菌数を示した。非加熱喫食食品にこのような汚染が見られたことは、注目に値する。リステリアの検査法としては、PFGEによる疫学マーカーの解析方法、iap遺伝子領域内の多型領域のゲノムを解析する手法、菌株の血清型判別を、カルチャープレートおよびマイクロプレートの併用で改良し、迅速、簡便および抗血清の微量化への利点をもつ改良法を開発した。由来の異なる菌株に対して10種の病原因子の保持状況を検討したところ、ある特定の血清型で大変興味深い結果が得られた。血清型1/2cでは、環境からの分離頻度が60%を越えているのに、食品からの分離頻度は30%で、臨床からは2%とまず分離されてこない。これは、おそらく病原性がほとんどない群と思われる。一方、血清型4bは、環境から5%、食品から15%、そして臨床由来株では65%分離されてくる。おそ らく病原性の強い群である。さらに興味深いことに、血清型4bでは、食品分離株と臨床分離株において10種の病原因子の保持状況に有意差が認められた。すなわち、環境や食品由来株の4bは、均一な集団ではなく、その一部が有意に病原因子を持っていることになる。食品を汚染するほんの一部の4bが臨床と関わる集団であると考えられる。今後、動物等を用いた病原性の検討によりこの結果が確認されるならば、リステリアの制御は、菌種で行うよりも一部の病原性のある集団を対象とするべきであるということになるのかもしれない。
結論:
アクティブサーベーランスにより、わが国の単年度あたりのリステリア症の発生件数は83件、100万人あたりの発生頻度は、0.65と推定された。文献調査と研究班の汚染実態調査により、国内で市販されているほとんどの食品について、リステリア菌の汚染状況の概要を知ることが出来た。肉製品を中心に高い汚染率が確認されたが、その汚染菌数は低かった。汚染率は低いが、生食用食品(ready-to-eat)の一部にやや高い菌数の汚染が見られたことは注目される。リステリア症の診断法、検査法、病原性に関して検討を行い、標準的な方法や具体的な試験法の検討を行った。
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