肝炎ウイルス等の標準的治療困難例に対する治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200301121A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルス等の標準的治療困難例に対する治療法の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関)
八橋 弘(国立病院長崎医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 石橋大海(国立病院長崎医療センター)
  • 古賀満明(国立嬉野病院)
  • 袖山健(国立療養所中信松本病院)
  • 林茂樹(国立病院東京災害医療センター)
  • 酒井浩徳(国立病院九州医療センター)
  • 加藤道夫(国立病院大阪医療センター)
  • 原田英治(国立療養所東京病院)
  • 竹崎英一(国立病院呉医療センター)
  • 肱岡泰三(国立大阪南病院)
  • 室豊吉(国立大分病院)
  • 渡部幸夫(国立相模原病院)
  • 小松達司(国立病院横浜医療センター)
  • 正木尚彦(国立国際医療センター)
  • 足立浩司(国立金沢病院)
  • 増本陽秀(国立小倉病院)
  • 中尾一彦(長崎大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全総合研究経費 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成14(2002)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
40,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、C型慢性肝炎、B型慢性肝炎に対する各種治療法の実態、問題点を明らかにした上で、標準的治療困難例を明確に定義し、難治例、治療困難例に対する新たな治療法を開発することを目指す。3年間の研究期間内にEvidence-based Medicine(EBM)に基づいて、ウイルス肝炎の治療法を確立させ体系化することを目標とする。
また本研究班の構成施設である国立病院・療養所肝疾患ネットワーク参加施設では過去23年間以上にわたって本邦の急性肝炎の発生状況、疫学調査を継続しておこなってきた。引き続き、本研究班でも急性肝炎の発生状況を調査し、最近問題となっているE型急性肝炎、欧米型B型肝炎の状況を明らかにする為に検討をおこなう。
研究方法
C型慢性肝炎IFN治療とB型慢性肝炎ラミブジン治療がおこなわれた患者の症例登録をおこない、治療効果、副作用、治療の問題点を明らかにする(症例登録)。短期間に症例の解析をおこなう必要があることから、政策医療として既に組織が編成され活動をおこなっている全国22施設からなる国立病院・療養所肝疾患ネットワーク参加施設をフィールドとして多施設共同研究をおこなう(多施設共同研究)。得られた情報は、データ収集型、仮設検証型に加えて知識生成型解析システム:データマイニングを駆使して統計解析をおこなう(IT化と新たな情報処理システム)。また、国立病院・療養所内でネットワーク研究システムを構築するために、肝疾患死亡調査および自己免疫性肝炎、急性肝炎に関する調査も平行して行うとともに、新たな治療法の開発という観点からIFNシステムに関する基礎研究を開始する。
倫理面に関する配慮では、本研究は、主に日常診療で得られた患者情報をもとにデータの収集解析をおこなうが、個人情報の扱いに関しては、患者のプライバシーを厳守し、患者に不利益が生じないように細心の注意をはらう。また診療情報自動集積システムを利用した肝疾患ネットワーク(L-net)を用いての情報の集積、解析では、個々の患者に説明をおこない、書面でインフォームドコンセントを取得した上でおこなう。また、C型慢性肝炎IFN治療、B型慢性肝炎ラミブジン治療、急性肝炎疫学調査に関する臨床研究は、診療情報をもとに分析をおこなうが、この3研究課題に関しては、倫理委員会での審査承認後に解析を開始した。
結果と考察
1.C型慢性肝炎のIFN治療成績
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間に22の施設において1195例のC型慢性肝炎症例にIFN治療が導入された。IFN単独治療では、HCV genotype 1b高ウイルス群以外の対象では48-71%の著効率を示すも、HCV genotype 1b高ウイルス群では7%の著効率であり、本対象群はIFN単独治療法では治癒させることが困難な難治例である。本対象群に対するIFNとリバビリン併用療法では20%の著効率を示し、IFN単独治療法よりも有意に高い治療効果(P<0.001)を示したが、リバビリン併用療法を用いても約80%近くの対象者でウイルス駆除できず、本対象者には、今後新たな治療法を開発する必要がある。治療効果予測因子に関しては、高感度HCV Core抗原を用いてのウイルス量測定は測定レンジが広く、高ウイルス群症例の治療効果予測に有用であることが示唆された。リバビリン併用療法中のリバビリン血中濃度と治療効果との関連は見出せなかった。リバビリン併用療法では、副作用の為、リバビリンの服用量の減量、中止を余儀なくされる場合が多いも、中止群では著効率が低いも完遂群と減量群では著効率に差がないことから、早期にリバビリンの減量をおこなうことで副作用の軽減をはかりながらも服用予定期間を完遂することが望ましい。
データマイニング解析を用いた決定木法による治療効果予測モデルの作成では、治療前ウイルス量とHCV genotype以外に、年齢、治療法の種類などが治療効果に及ぼす因子として抽出され、14%から84%のウイルス駆除率を示すカテゴリー化、アルゴリズムの作成が可能であった。
2.B型慢性肝炎ラミブジン治療成績
2000年1月1日から2002年12月31日までの3年間の期間、22施設において313例のB型慢性肝炎に対してラミブジン治療が導入された。1年以上投与した症例の治療成績は、HBe抗原陽性の対象例では、HBe抗原の陰性化35%、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)47%、YMDD変異出現率26%であった。HBe抗原陰性の対象例では、HBV-DNAの陰性化(400copies/ml以下)76%、YMDD変異出現率13%であった。治療効果予測因子としては、HBe抗原陽性では治療前ALT値が有用な因子で、他に、治療前HBV-DNA量、HBV-DNA Pre Core領域の変異率が治療効果に関係した。YMDD変異出現率に関しては、治療開始48週目のHBV-DNA量が有用であった。
3.本邦の急性肝炎の疫学調査
1980年から2003年までの過去24年間に、散発性急性肝炎として登録された症例数は3743例で、うちA型が1527例(40.8%)、B型が954名(25.5%)、C型が316例(8.4%)、nonABC型が949例(25.3%)であった。1995年以後は多少の変動があるものの、A型約30%、B型約30%、C型約10%、nonABC型約30%の割合で推移し、最近10年間では発生頻度に関しては大きな変化を認めていない。B型急性肝炎のgenotypeAの頻度は11.8%で、分子系統樹解析では、その89%が欧米型と分類された。genotypeA は2000年以後増加の傾向があり、公衆衛生学的にも今後の調査が必要である。1990年から2003年の期間に発生した342例のnonABC型急性肝炎患者中のE型急性肝炎例は10例(2.9%)で、この10例中6例には海外渡航歴がなく国内での感染が考えられた。
結論
C型慢性肝炎に対するIFN治療では、1)HCV genotype 1b高ウイルス群の対象者は、IFN単独治療で治療困難な難治例である。2)本対象群に対するIFNとリバビリン併用療法では20%の著効率を示し、IFN単独治療法よりも有意に高い治療効果(P<0.001) を示した。3)高感度HCV Core抗原を用いてのウイルス量測定が治療効果予測に有用である。4)血中リバビリン濃度では、治療効果との関連は見出せなかった。5)リバビリン併用療法では、副作用出現例では早期にリバビリンの減量をおこなうことで副作用の軽減を図りながらも服用予定期間を完遂することが望ましい。6)データマイニング解析を用いた治療効果予測モデルの作成では、治療前ウイルス量とHCV genotype以外に、年齢、治療法の種類などが治療効果に及ぼす因子として抽出され、14%から84%範囲内のウイルス駆除率を示すカテゴリー化、アルゴリズムの作成が可能であった。
B型慢性肝炎に対してラミブジン治療では、治療効果予測因子としては、HBe抗原陽性では治療前ALT値が有用な因子で、他に、治療前HBV-DNA量、HBV-DNA Pre Core領域の変異率が治療効果に関係した。YMDD変異出現率に関しては、治療開始48週目のHBV-DNA量が有用であった。
1980年から2003年までの期間に散発性急性肝炎として登録された症例数は3743例で、うちA型が1527例(40.8%)、B型が954名(25.5%)、C型が316例(8.4%)、nonABC型が949例(25.3%)であった。B型急性肝炎のgenotypeAの頻度は11.8%で、分子系統樹解析では、その89%が欧米型と分類された。
1990年から2003年の期間に発生した342例のnonABC型急性肝炎患者中のE型急性肝炎例は10例(2.9%)で、この10例中6例には海外渡航歴がなく国内での感染が考えられた。

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