職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査手法開発研究

文献情報

文献番号
201920006A
報告書区分
総括
研究課題名
職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査手法開発研究
課題番号
H29-エイズ-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 森 治代(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
  • 駒野 淳(大阪薬科大学 感染制御学研究室)
  • 本村和嗣(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
  • 小島洋子(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 企画部 研究企画課)
  • 渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター エイズ先端医療研究部 HIV感染制御研究室)
  • 大森亮介(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HIV感染症は早期発見・治療により感染の拡大と発症を防止することが必要であるが、我が国では症状が出て初めて感染が判明するHIV症例が報告数の約3割を占め、そのうち就労世代の30歳から59歳は約76%を占める。HIV検査は保健所での無料匿名検査を軸とするが、時間的・空間的制約から、就労世代にとっては利用しにくい。その結果、発症する前にHIV感染を検知する機会が失われている恐れがある。
 本研究では、労働安全衛生法第66条に基づき事業者が労働者に対して実施する定期健康診断においてHIV検査を事業者に結果を知られること無く受けられる環境を健診センターあるいは人間ドック施設(以下、健診施設)に整備する方法の確立、健診受診者に最新のHIV治療の情報や陽性者向け支援制度・支援組織を紹介することによるHIV/エイズの最新知識の普及・啓発、健康診断機会に提供するHIV検査を通じて潜在的な感染者を発見するための費用対効果の評価を行う。
研究方法
今年度は以下の研究を行った。
(1)健診機会を利用したHIV知識習得の有効性の推定
 健診施設において提供するHIV・梅毒検査を周知する案内パンフレットにHIV感染症・エイズの最新情報を掲載し受診者全員へ啓発を行うが、このパンフレット配布前後で提供するHIV感染症に関する情報の認知を比較するため、配布前の知識を測る調査を行った。
(2)健診施設におけるHIV・梅毒検査の試行
 那覇市医師会生活習慣病検診センターにおいて、8月より健診受診者に発送する問診票にHIV・梅毒検査の案内パンフレットを同封し、検査希望者を順次受け付けた。
検査結果の返却は、2種類の検査が両方陰性の場合は、プライバシーに配慮した圧着ハガキによって受検者本人宛に親展で郵送し、どちらか一方の検査結果が陽性の場合は、施設を訪れるよう本人が申告した電話番号に連絡し、来所後は医師による結果通知を行った。HIVスクリーニング検査が陽性の場合は、確認検査のために那覇市保健所を紹介し、梅毒TP抗体が陽性の場合は、梅毒の治療を行っている地域の診療所を紹介した。また検査受検者に対し、受検理由等を問う無記名アンケート調査を実施した。
(3)Treponema pallidum subsp. endemicum(TEN)の探索
 昨年度、梅毒トレポネーマに紛れるTENを2株同定した。そこで検体数を増やしTENの探索を行った。検体より抽出したDNAを元にTreponema pallidumで共通な遺伝子(TpN47, polA)を増幅し、増幅のみられた検体DNAより、tp0548遺伝子とtp0856遺伝子を増幅して塩基配列を解読し、系統樹解析によりTENを同定した。
結果と考察
(1)健診機会を利用したHIV知識習得の有効性の推定
 アンケートには329名が回答し、60歳以上を除く全ての年齢階級において十分な回答数が得られ、次年度検査パンフレットを配布した健診受診者にアンケート調査を行うことで、啓発効果の検証が可能になると考えられる。
(2)健診施設におけるHIV・梅毒検査の試行
 8月1日よりパンフレットの発送を開始し、11月の末まで合計7036部を発送した。12月末までに1103名が受検した。全受診者に占める検査受検者の割合は約12%となり、全国の健診施設向けアンケート調査で判明したオプション検査等のHIV検査利用率0.16%と比較して、十分に高い割合であった。1103名中HIVスクリーニング検査陽性者は1名、梅毒抗体陽性者は7名であった(重複無し)。このうち、HIV抗体検査で陽性であった1名に関しては、那覇市医師会検診センターにおいて医師が結果通知を行い、確認検査のため那覇市保健所を紹介した。確認検査の結果、当該受検者が真のHIV陽性者であることが判明し、地域のエイズ診療拠点病院を受診したことを確認した。
(3)TENの探索
 梅毒症例から得た検体合計70例中7例(10%)が梅毒トレポネーマ (TPA)ではなくTENであることが明らかとなった。TEN感染患者はいずれもMSMで、渡航歴などから国内感染が強く示唆されたため、国内流行事例として海外の専門誌で報告した。
結論
・検査パンフレットによるHIV感染症の知識提供前の理解度を十分測定することができ、来年度、知識提供後の理解度を測定することで、検査パンフレットによる啓発効果を評価可能と考える。
・健診施設において無料HIV・梅毒検査の提供を開始したところ、予想以上の多くの利用があった。検査の提供が5ヶ月間であったにも関わらず新規HIV陽性者を診断し、治療に繋げることが出来たことは意義が大きい。
・日本国内で初めてベジェルの病原体TENの感染事例を発見し報告したことは、学術的・国際的に大きな成果といえる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-01-17

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201920006B
報告書区分
総合
研究課題名
職域での健診機会を利用した検査機会拡大のための新たなHIV検査手法開発研究
課題番号
H29-エイズ-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 森 治代(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
  • 駒野 淳(大阪薬科大学 感染制御学研究室)
  • 本村和嗣(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 微生物部 ウイルス課)
  • 小島洋子(地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 企画部 研究企画課)
  • 渡邊 大(国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センター エイズ先端医療研究部 HIV感染制御研究室)
  • 大森亮介(北海道大学 人獣共通感染症リサーチセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 HIV感染症は早期発見・治療により感染拡大と発症を防止することが必要であるが、我が国では症状が出て初めて感染が判明するHIV症例は総報告数の約3割を占める。そのうち就労世代は約76%を占め、保健所等無料匿名検査を利用しにくい就労世代において発症する前にHIV感染を検知する機会が失われている恐れがある。
 本研究では、労働安全衛生法第66条に基づき事業者が労働者に対して実施する定期健康診断等において事業者に結果を知られること無く受けられるHIV検査環境を健診施設に整備する方法の検討、健診受診者に最新のHIV治療の情報や支援制度・支援組織を紹介することによるHIV/エイズの啓発、定期健康診断の機会に提供するHIV検査を通じて潜在的な感染者を発見するための費用対効果の評価を行う。
研究方法
 平成29年度は、健診センター・人間ドック施設(以下、健診施設)におけるHIV検査の提供状況等、現状を調べるために全国の健診施設を対象としたアンケート調査を行った。また匿名HIV検査システムの開発に関する検討を行った。
 平成30年度は、健診機会に梅毒検査を提供する根拠を得るため、国内で流行する梅毒トレポネーマ(TPA)の遺伝子型別を行った。また健診施設におけるHIV・梅毒検査の試行の準備を行った。さらに健診機会を利用したHIV知識習得の有効性の推定を行った。
 平成31年度(令和元年度)は、健診機会を利用したHIV知識習得の有効性の推定を前年に引き続き行った。また、実際に無料HIV・梅毒検査を提供しながら健診施設における検査の提供方法を検討した。さらに前年度実施したTPの遺伝子型別の際に日本国内で初めて発見したトレポネーマの亜種Treponema pallidum subsp. endemicum(TEN)の探索を行った。
結果と考察
 平成29年度、全国の健診施設へのアンケート調査の結果、多くの健診施設でHIV検査を受ける機会は提供されているものの、その利用率は0.16%と非常に低いことを明らかにした。また、匿名HIV検査システム開発について検討した結果、システム構築は可能であるが、既にHIV検査を提供している健診施設には導入しづらいことを明らかにした。
 平成30年度、国内で流行するTPの遺伝子型別を行った結果、異性愛者の男女で流行しているTPとゲイ男性の間で流行しているTPが異なる遺伝子型である事を国内で初めて明らかにした。また、健診受診者に配布するHIV・梅毒検査の案内兼啓発パンフレットを作成した。
 令和元年度、前年に引き続いてHIV知識習得の有効性の推定を行った結果、調査集団においてはHIV知識習得の余地があり、検査案内兼啓発パンフレットにおける知識習得の効果が期待出来ることを明らかにした。また実際に健診施設において無料HIV・梅毒検査の提供を開始し、新規HIV感染者を1名診断し、拠点病院での治療に繋げることができた。さらにTENの検索では、前年と併せて合計7例のTEN感染患者を同定した。
結論
・健診施設の受診者にはHIV検査のニーズがあり、受診者からの要望によりHIV検査の提供を行い、実際にHIVスクリーニング検査で陽性の場合は、その後にHIV確認検査受検の有無を確認したり、医師による結果説明・告知、専門医療機関の紹介などを行ったりしている健診施設が存在することを明らかにした。健診機会を利用したHIV検査の提供を推進する場合、健診施設の現状に即したHIV検査の流れや方法を提示する必要がある。
・異性間性的接触で流行しているTPは、男性同性間の性的接触で流行しているTPとは異なる遺伝子型であることを国内で初めて明らかにした。
・手にした者のHIVの知識習得を可能とする、健診施設で配布するHIV・梅毒検査のパンフレットを作成した。
・本研究の調査対象ではHIVの知識習得に余地があり、健診施設でのHIVの知識習得の効果が期待される。
・令和元年度実施したアンケート調査により、HIV検査パンフレットによってHIVに関する知識を提供する前のHIV感染症に関する理解度を十分測定することができ、令和2年度、健診受診者のHIVに関する知識提供後の理解度を測定することで、知識習得の効果を評価することが可能になると考えられる。
・これまでHIV検査・梅毒検査を受診者に提供していなかった健診施設において、無料HIV・梅毒検査の提供を開始したところ、予想に反して多くの健診受診者が検査を利用した。今後、他の健診施設への波及効果が期待される。
・検査の提供がわずかな期間であったにも関わらず、新規HIV陽性者を1名診断し、確実に治療に繋げることが出来たことは意義が大きい。
・日本国内で初めてベジェルの病原体TENの感染事例を発見し報告したことは、学術的・国際的に大きな成果といえる。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-01-17

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201920006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまでHIV検査・梅毒検査を健診利用者に提供していなかった健診施設において、無料HIV・梅毒検査を新たに実施したことは、新しいHIV検査の機会を創出した点で非常に価値がある。
臨床的観点からの成果
再興している梅毒の遺伝子タイピングを国内で初めて実施・報告し、異性間性的接触で流行している梅毒トレポネーマが、男性同性間の性的接触で流行している梅毒トレポネーマとは異なるタイプ(遺伝子型)であることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
日本全国の健診センター・人間ドック施設1,784ヶ所に対し、アンケート調査を実施したところ、459ヶ所(回収率25.7%)の回答が得られた。そのうちHIV検査を提供している施設が140ヶ所(30.5%)存在したが、HIV検査受検者数は4,536名で、回答した施設の総受診者数9,863,642名のわずか0.16%に相当した。
その他のインパクト
2019年7月21日付けの琉球新報(新聞:琉球新報社)28面に「HIV検査 無料提供 那覇市医師会 健診受診者、来月から」という表題で掲載された。また、同社webサイトにも掲載された。
2019年7月22日付けの沖縄タイムス(新聞:沖縄タイムス社)23面に「健診と一緒にHIV検査 那覇 検診センター 来月から」という表題で掲載された。また、同社webサイトにも掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takuya Kawahata, Yoko Kojima, Keiichi Furubayashi, et al
Bejel, a Nonvenereal Treponematosis, among Men Who Have Sex with Men, Japan
Emerging Infectious Diseases , 25 (8) , 1581-1583  (2019)
https://doi.org/10.3201/eid2508.181690
原著論文2
Yoko Kojima, Keiichi Furubayashi, Takuya Kawahata et al
Circulation of Distinct Treponema pallidum Strains in Individuals with Heterosexual Orientation and Men Who Have Sex with Men
Journal of Clinical Microbiology , 57 (1)  (2019)
10.1128/JCM.01148-18

公開日・更新日

公開日
2022-06-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201920006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,997,000円
(2)補助金確定額
9,997,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,547,880円
人件費・謝金 1,550,889円
旅費 473,430円
その他 4,117,801円
間接経費 2,307,000円
合計 9,997,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-