HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究

文献情報

文献番号
201907020A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究
課題番号
H29-健やか-指定-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 滋(富山大学)
  • 森内 浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・小児科学)
  • 宮沢 篤生(昭和大学医学部小児科学講座)
  • 根路銘 安仁(鹿児島大学医学部保健学科成育看護学講座)
  • 関沢 明彦(公益社団法人日本産婦人科医)
  • 渡邉 俊樹(東京大学フューチャーセンター推進機構)
  • 内丸 薫(東京大学大学院新領域創成科学研究科 病態医療科学分野)
  • 西野 善一(金沢医科大学医学部公衆衛生学)
  • 郡山 千早(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系疫学・予防医学・疫学)
  • 福井 敬祐(大阪医科大学研究支援センター 医療統計室)
  • 水野 克己(昭和大学医学部小児科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
10,457,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
主たる目的はHTLV-1母子感染予防のためのエビデンスの確立とスクリーニング検査導入に伴う課題と対策の立案である。今年度は我が国における母乳バンク導入に関する研究が開始された。
研究方法
1)コホート研究:全国92施設において、HTLV-1抗体スクリーニング検査で陽性と判定され、さらに確認検査として行われたWB法で陽性あるいは判定保留となった妊婦のうち、本研究参加の同意が得られた妊婦およびその子どもである。WB判定保留の場合にはさらにPCR検査を追加した。登録された妊婦から出生した児については、3歳時点の抗体検査を実施した。2)システマティックレビュー:英語論文および日本語論文をスクリーニングし最終的に11論文が抽出され、さらにメタ解析を行った。3)母子感染予防がキャリア数やATL患者数の推移に与える効果:シミュレーションはキャリアの母親コホートから出生した児が、各種の乳汁栄養法により感染し、キャリアとなり、ATLを発症するという経路図をモデリングすることにより作成し、介入として授乳方法を変化させた場合のATL発症数の変化によって介入の効果を測定した。4)適切な母子感染予防に関する指導および体制構築にむけて:HTLV-1キャリア登録ウェブサイト「キャリねっと」の登録者のうちキャリアの妊産婦対象としてウェブによるアンケート調査を継続的に行った。5)その他:母乳バンクの今後の全国的な展開を見据えアンケート調査を行い、さらに、レシピエントおよびドナー向けの冊子作成を試みた。
結果と考察
1)乳汁別母子感染に関するコホート研究:コホート研究に参加したのはWB陽性妊婦が712名、WB判定保留が115名(PCR陽性23名、陰性92名)で、キャリアと判定された妊婦は735名であった。キャリア妊婦735名の乳汁選択の内訳は、3か月以下の短期母乳栄養が最も多く52.8%で、以下人工栄養38.5%、凍結解凍母乳栄養5.0%、長期母乳栄養3.7%の順であった。キャリア妊婦から出生した313名(42.6%)が3歳時点で抗体検査を受けた。乳汁栄養法別の母子感染率は、長期母乳栄養2/12(16.7%)、人工栄養7/110(6.4%)、凍結解凍母乳栄養1/19(5.3%)、短期母乳栄養4/172(2.3%)であった。人工栄養を基準とした短期母乳栄養の母子感染のリスク比は、0.365(95%信頼区間0.116-1.145)であり有意ではなかった。あらかじめ短期母乳栄養を選択した妊婦が実際に3か月を超えて母乳栄養を継続したのは約8%~34%であった。2)系統的レビューとメタ解析:3か月以下の短期母乳栄養は人工栄養に対して母子感染率のリスクに差があるとは言えないが、短期母乳栄養期間を6か月以下とすると約3倍母子感染リスクが高かった。3)乳汁栄養法による母子感染及びATL患者の予測: HTLV-1キャリアの母から生まれた子どもが将来ATLを発症する割合は、スクリーニングを実施しなかった場合では1.19%であるが、スクリーニングを実施し乳汁栄養による予防介入を行うと0.21~0.27%となり、年間でスクリーニングによりキャリアとなる子どもの数が180.4人~192.9人、ATLの罹患が12.6人~13.5人減少すると推計された。4)母子感染予防指導の標準化および医療間連携の推進:キャリアである母親の約70%が現状の対策が不十分と回答していた。そこで対応策として、まず東京都内の周産期センターおよび小児科クリニックと日本HTLV-1学会関連疾患診療登録施設の連携による東京ネットワーク(仮称)を立ち上げた。5)母乳バンクについて:レシピエントおよびドナー向けの冊子を作成が作成された。
結論
3か月以下の短期母乳栄養の母子感染のリスクが人工栄養と比較して有意に高いとは言えない。だが、短期母乳栄養を選択していても一部の母親は期間内に断乳ができておらず、母乳栄養期間が伸びると6か月以下であっても母子感染のリスクの上昇が懸念される。シミュレーションにより妊婦に対するHTLV-1抗体スクリーニング導入の妥当性は担保されたと考えられるが、キャリア妊婦の指導や出生した児のフォローアップには課題が多く、今後質の高い個別化した指導や対応に加えて、キャリア妊婦から出生した児の抗体検査率が低い現状についての議論も必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201907020B
報告書区分
総合
研究課題名
HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究
課題番号
H29-健やか-指定-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 滋(国立大学法人富山大学)
  • 森内 浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・小児科学)
  • 宮沢 篤生(昭和大学医学部小児科学講座)
  • 根路銘 安仁(鹿児島大学医学部保健学科成育看護学講座)
  • 関沢 明彦(日本産婦人科医会)
  • 渡邉 俊樹(東京大学フューチャーセンター推進機構)
  • 内丸 薫(東京大学大学院新領域創成科学研究科 病態医療科学分野)
  • 西野 善一(金沢医科大学医学部公衆衛生学)
  • 郡山 千早(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系疫学・予防医学・疫学)
  • 福井 敬祐(大阪医科大学研究支援センター 医療統計室)
  • 水野 克己(昭和大学医学部小児科学講座)
  • 米本 直裕(京都大学医学研究科社会健康医学系医療統計学分野)
  • 時田 章史(公益社団法人日本小児科医会公衆衛生委員会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
主たる目的はHTLV-1母子感染予防のためのエビデンスの確立とスクリーニング検査導入に伴う課題と対策の立案を中心に3年間の研究を行った。これに加えて、最終年度では、我が国における母乳バンク導入に関する研究が開始された。
研究方法
1)コホート研究:前研究班から継続して行われた。2012~2015年末までにHTLV-1抗体スクリーニング検査で陽性と判定され、さらに確認検査として行われたWB法陽性あるいは判定保留の妊婦をリクルートし、3歳時点の抗体検査により乳汁栄養法別の母子感染を評価した。2)システマティックレビュー:初年度に英語論文および日本語論文の約1500論文をスクリーニングし、最終的には11論文が抽出され、最終年度にこれをもとにメタ解析を行った。3)母子感染予防がキャリア数やATL患者数の推移に与える効果:初年度にキャリアの母親コホートから出生した児が、各種の乳汁栄養法により感染し、キャリアとなり、ATLを発症するという経路図をモデリングすることにより作成し、その後最終年度にかけて授乳方法を変化させた場合のATL発症数の変化によって介入の効果を測定した。4)適切な母子感染予防に関する指導および体制構築にむけて:①HTLV-1キャリア登録ウェブサイト「キャリねっと」の登録者を対象として、キャリねっとのアンケート欄を用いて妊産婦を対象とするウェブによるアンケート調査を3年間継続的に行った。②初年度には、日本産婦人科医会による2016年度妊婦キャリアの全国調査を行った。③初年度にHTLV-1母子感染対策協議会の実態調査を行った。5)その他:最終年度に加わった母乳バンクについてのアンケート調査およびレシピエントおよびドナー向けの冊子を作成した。
結果と考察
1)コホート研究:コホート研究に参加し、キャリアと判定された妊婦は735名であった。キャリア妊婦735名の乳汁選択の内訳は、3か月以下の短期母乳栄養が最も多く52.8%で、以下人工栄養38.5%、凍結解凍母乳栄養5.0%、長期母乳栄養3.7%の順であった。キャリア妊婦から出生した313名(42.6%)とPCR陰性妊婦から出生した48名(52.2%)が3歳時点で抗体検査を受けた。乳汁栄養法別の母子感染率は、長期母乳栄養2/12(16.7%)、人工栄養7/110(6.4%)、凍結解凍母乳栄養1/19(5.3%)、短期母乳栄養4/172(2.3%)であった。人工栄養を基準とした短期母乳栄養の母子感染のリスク比は、0.365(95%信頼区間0.116-1.145)であり有意ではなかった。あらかじめ短期母乳栄養を選択した妊婦が実際に3か月を超えて母乳栄養を継続したのは約8%~34%であった。2)系統的レビューとメタ解析: 3か月以下の短期母乳栄養は人工栄養に対して母子感染率のリスクに差があるとは言えないが、短期母乳栄養期間を6か月以下とすると約3倍母子感染リスクが高かった。3)乳汁栄養法による母子感染及びATL患者の予測:HTLV-1キャリアの母から生まれた子どもが将来ATLを発症する割合は、スクリーニングを実施しなかった場合では1.19%であるが、スクリーニングを実施し乳汁栄養による予防介入を行うと0.21~0.27%となり、年間でスクリーニングによりキャリアとなる子どもの数が180.4人~192.9人、ATLの罹患が12.6人~13.5人減少すると推計された。4)母子感染予防指導の標準化および医療間連携の推進:妊婦キャリアは0.14%で5年前の調査に比べわずかに減少していた。各都道府県のHTLV-1母子感染対策協議会はおおむね設置されてはいるものの、十分な機能を持っているとはいえなかった。キャリアである母親の約70%が現状の対策が不十分と回答していた。以上より、対応策として、まず東京都内の周産期センターおよび小児科クリニックと日本HTLV-1学会関連疾患診療登録施設の連携による東京ネットワーク(仮称)を立ち上げた。5)母乳バンクについて:レシピエントおよびドナー向けの冊子を作成が作成された。
結論
3か月以下の短期母乳栄養の母子感染のリスクが人工栄養と比較して有意に高いとは言えない。だが、短期母乳栄養を選択していても一部の母親は期間内に断乳ができておらず、母乳栄養期間が伸びると6か月以下であっても母子感染のリスクの上昇が懸念される。シミュレーションにより妊婦に対するHTLV-1抗体スクリーニング導入の妥当性は担保されたと考えられるが、キャリア妊婦の指導や出生した児のフォローアップには課題が多く、今後質の高い個別化した指導や対応に加えて、キャリア妊婦から出生した児の抗体検査率が低い現状についての議論も必要である。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

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公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

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文献番号
201907020C

収支報告書

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201907020Z