慢性関節リウマチの早期治療指針の確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800544A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの早期治療指針の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
市川 陽一(聖マリアンナ医科大学・内科学臨床検査医学)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医大・予防医学)
  • 近藤啓文(北里大内科)
  • 西本憲弘(大阪大健康体育部)
  • 三森経世(慶応大内科)
  • 宮田昌之(福島医大内科学第二)
  • 山田秀裕(聖マリアンナ医大・内科学臨床検査医学)
  • 山中 寿(東京女子医大・膠原病リウマチ痛風センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、我が国に約40万人のRA患者が存在し、関節の疼痛、変形のため、多くの治療費を要している。早期治療方針が確立されれば、これらの治療費が減少するのみならず、患者のQOLを改善し、社会での活動が可能となる。しかし、抗リウマチ薬は時に重篤な副作用を伴うため、関節破壊の速やかな症例を特定して、より強力な治療を行う必要がある。このためには、早期治療指針を確立する必要がある。また、現在用い得る抗リウマチ薬では関節破壊を完全に防止することは出来ないので、併用療法に関する基礎的検討、およびRAの病態に基づいた新薬につながる研究を行う必要がある。このために次の3つを研究目的とした。すなわち、1)早期治療を必要とする症例を選択する、2)関節破壊を防ぐ早期治療法を明らかにする、3)将来的により強力に関節破壊を防ぐ早期治療のための新薬、併用療法を見出す、である。
研究方法
臨床試験としては、発症2年以内で、18歳から70歳までのACR1987年診断基準を満たす早期RA患者300例を対象とし、メトトレキサート単独、ブシラミン単独、あるいはこれら2者の併用の効果、副作用を、二重盲検比較試験で検討する。分担研究者及び研究協力者19名が施設責任者となって、各施設3名までの臨床研究分担医師の協力を得て行う。副作用防止のため、何れの薬剤も漸増し、ブシラミンは2ヶ月以降200mg/日、メトトレキサートは4ヶ月以降8mg/日とする。調査項目としては医師による全般評価、患者による関節痛評価、及び患者による全般評価をVASにより評価した。その他、身体機能評価(mHAQ)、握力、疼痛関節数、腫脹関節数、赤沈値、CRP、RF、HLA-DRB1、両手、両足正面のX線写真、末梢血、肝機能、クレアチニン、尿所見などを測定する。HLA-DRB1は試験開始時、X線写真は1年間隔、他は1ないし3ヶ月毎に評価する。3つの治療法間の有効率の差を20 %、検出力80 %、有意水準5 %とした場合必要症例数は73例で、脱落を考慮すれば100例、全体で300例となり、これを目標症例数とした。観察期間は2年間とした。 IL-10遺伝子治療の開発は、pCMVベクターにIL-10のcDNAを組み込んだIL-10プラスミドを作成し、これをCII誘導関節炎(CIA)マウスに投与して、関節炎に及ぼす効果と作用機序を検討した。IL-6シグナル伝達阻害に関する研究では、RA滑膜細胞の増殖に対するsIL-6RおよびTNFαの影響と相互作用を3H-TdRアップテイクにより検討した。また、IL-6のネガチブフィードバック関連分子であるSSI-1の検討を行った。カルパイン阻害物質に関する研究では、ラットCII誘導関節炎を1群5匹として4種類のカルパイン阻害物質の効果を検討した。MCP-1持続注入による実験関節炎の誘導とその制御に関する研究では、リコンビナント家兎MCP-1 5μgを2週間にわたって、家兎の膝関節腔内に持続注入し、病理学的検討、並びにサイトカインの分析を行った。cyclic AMPシグナル伝達系を利用したRAの新しい治療法に関する研究では、ACRのRA7症例を対象とし、4週間にわたりlipo-PGE1 10μgを連日点滴静注とペントキシフィリン300 mg/日を経口投与し、ACR 20%改善基準による効果判定を行った。 RAの予後予測因子としての血清MMP-3の有用性に関する検討では、RA患者血中MMP-3濃度を測定し、同時に6ヶ月後および12ヶ月後の関節破壊をX線写真で評価し、血中MMP-3濃度との相関を検討した
結果と考察
早期治療指針を確立するための臨床研究として、outcome measureはx線写真上の関節破壊進行の抑制および長期間にわたり副作用なく疾患活動性を十分抑制することとし、これに影響する治療開始時期、開始時および経過中の病態、および薬物療法の種類を明らかにすることを目的とした。対象症例は発症2年以内の1987年ACR分類基準を満たす300症例とし、メトトレキサート単独、ブシラミン単独、あるいはこれら2者併用の各群を二重盲検比較試験で検討する。治療開始時の病態としては罹病期間、炎症関節数、HLA-DR遺伝子座、リウマトイド因子力価、血清MMP3、さらに治療期間中の臨床症状、炎症反応の推移の予測因子としての有用性を明らかにする。これらの分析により、関節破壊の予後因子の解明とその対策、また長期間疾患活動性を抑制し、患者のQOLを改善する方法を確立することとした。初年度は3回の班会議での討論により臨床試験実施計画を作成するのと平行して、試験薬剤(実薬およびプラセボ)の準備、割付け、各施設の倫理委員会等への臨床試験許可の申請を行った。2施設を除き、全施設ですでに倫理委員会等の許可を得ており、試験薬剤、臨床試験実施計画書、調査用紙等の配布も終了した。1999年2月より準備の出来た施設から臨床試験を開始することとなった。この研究を行う際には、人権擁護上の配慮、各施設の倫理委員会などの許可、文書による患者の同意を得ることなどに配慮した。一方、将来の早期治療につながる先進治療として、いくつかの新しい観点に立った治療法の開発を進めた。IL-10プラスミドをCIAマウスの皮下に注射することによりTh1タイプの免疫反応抑制を介して関節炎を抑制するIL-10遺伝子治療の有効性を確認した。IL-6にはSSI-1と呼ばれる内因性のネガテイブフィードバック因子が存在することを見出し、この分子の機能異常がRAの病因に結びつく可能性と共に、この分子導入による遺伝子治療の可能性が示唆された。慢性関節リウマチ患者にカルパスタチンに対する自己抗体が存在することに端を発し、カルペプチンがCIA関節炎の抑制効果を示したことは酵素活性抑制という新しい作用機序をもった抗リウマチ薬への発展が期待される。また、マクロファージの走化、活性化因子であるMCP-1を家兎の関節腔内に持続注入したところ、滑膜増殖を伴う関節炎が発症し、MCP-1はRA治療の標的となりうることが判明した。in vitroモデル及び動物実験の成績に基づき、RA患者にアルプロスタジル(lipo-PGE1)及びそれと相乗効果を有するペントキシフィリンを併用し、臨床的効果が示された。一方、MMP-3の血中濃度を測定したところ、その後6ないし12ヶ月間の骨破壊の進行とよく相関することが判明し、RA早期治療の指標となりうる可能性が示された。
結論
慢性関節リウマチの早期治療指針の確立するための臨床研究として、x線写真上の関節破壊進行の抑制および長期間にわたり副作用なく疾患活動性を十分抑制することを治療目的と考え、これに影響する治療開始時期、開始時および経過中の病態、および薬物療法の種類を明らかにすることを目的として、多施設協同二重盲検対照試験を計画し、スタートした。一方、将来の早期治療につながる先進治療として、いくつかの新しい観点に立った治療法の開発を進めた。IL-10遺伝子治療、内因性のネガテイブフィードバック因子であるSSI-1の治療法への応用、酵素活性抑制という新しい作用機序をもったカルパイン阻害薬、マクロファージの走化、活性化因子であるMCP-1の関節炎発症における意義、lipo-PGEとペントキシフィリン併用の臨床応用が試みられた。臨床研究としての無作為対照比較試験および将来的により強力に関節破壊を防ぐ早期治療薬開発のための研究を遂行することによって、慢性関節リウマチの早期治療指針の確立する。

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