気管支喘息の改善・自然寛解機序の解明による根治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800543A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の改善・自然寛解機序の解明による根治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
飯倉 洋治(昭和大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山一男(国立相模原病院臨床研究部)
  • 足立満(昭和大学医学部第一内科)
  • 海老澤元宏(国立相模原病院小児科)
  • 勝沼俊雄(国立小児病院アレルギー科)
  • 杉本日出雄(国立療養所東埼玉病院小児科)
  • 徳留省悟(獨協医科大学法医学)
  • 福田健(獨協医科大学アレルギー内科)
  • 藤多和信(昭和大学医学部小児科)
  • 飯倉洋治(昭和大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年喘息の治療、管理に関する研究の進歩は目覚ましく重症喘息患者の数は何処の施設でも減少してきた。しかし、本邦における喘息死の数は一向に減少していない。この事は今迄の喘息に関する研究方法の検討を行う必要があるし、治療に対する研究の視点を変える必要があると言える。
そこで、今回は上記の課題に対し十分な討議を行い、それぞれの施設で問題点を掘り下げ、幾つかの施設で共同研究出来るところは共同で問題点を考え、同じ視点で(例えば小児科と、内科で同じ研究方法で)検討していく方法をとってもらった施設もある。この様にして、喘息患者の改善・自然寛解の背景を検討することは重要である。更に、自然寛解の逆の喘息死を新しい角度から研究し、何故喘息で亡くなるのかの背景を、監察医務院に搬送された喘息死患者を対象に検討し、何処なる点が問題で亡くなったのかの背景から、寛解への問題点を逆の視点から検討し、喘息の寛解、根本治療への方向を定める。
研究方法
グループを四つに分け①臨床面からの検討、②臨床・基礎両面からの検討、③喘息死患者の検討④動物モデル実験からと分けて行った。
すなわち①の臨床面からの検討では、国立相模原の秋山、海老澤は過去5~6年以上受診していない患者の予後調査を行い、過去3年以上発作がない患者の気道過敏性、末梢血単核球の特異性検討を行い発作群と比較する。
海老澤も秋山と同一機関で同一の気道過敏性試験の機器を用い、寛解群と非寛解群の比較をアセチールコリンの気道負荷による気道反応をみて、両群の反応性の比較を行った。
勝沼は気道の過敏性を運動誘発性喘息発作の現象を利用し寛解群と、非寛解群の比較を行い検討した。杉本は重症喘息児の長期入院療法での、患児の気道過敏、呼吸機能、薬剤使用の推移からどのような背景患者が寛解に移行するかの検討を行った。
②の基礎・臨床両面からの研究は足立が喘息患者の気管支生検を行い、組識学的検討と、気道の過敏性との比較検討を行った。③喘息死の検討は徳留、飯倉が東京都監察医務院に担ぎ込まれた喘息死患者の背景調査を行い、如何なる患者が監察医務院に運ばれるような変死的転帰を取るのかの検討を行った。④基礎研究は福田、藤多がモルモット喘息を作成し気道の組識学的検討とリモデリングを修復する因子の検討と、気管支拡張剤のインヘラー吸入が気道に如何なる影響を与えるかの検討を行った。
結果と考察
①臨床面の結果で秋山、海老澤の共通した点は発作が5~6年間無い寛解喘息患者のアセチールコリン吸入による気道過敏性試験で、有意に非寛解群より改善していた。
また、成人の喘息患者の寛解は少ないと言われているが、小児期発症あるいは若年成人発症群でアセチールコリンに対する気道過敏が軽い人が47.9%を占め、これらの患者の単核球をPHAで刺激したところ、IL-5 の産生能が有意に低下していた。
この事は成人喘息は寛解しにくいと言われているが、寛解が期待出来る患者背景が解かったことで、今後の指導、対応に非常に役立つ結果であった。
杉本の研究結果では施設入院で多くの患者が薬から解放されるが、次の様な患者は同じような鍛練・治療を行っても予後が悪かった。すなわち、発症年齢が若く、通念性になってから長期入院にまわってきた患者で、発症診断がついてから入院までの期間が長い患者が予後不良であった。
勝沼の研究結果では、15歳以下の喘息患者に運動負荷試験を行い、その後10年間フォローし、予後を検討した結果で、運動誘発性喘息が陰性の患者の方が寛解が期待できる結果であった。
②足立の研究では、気道の生検で喘息患者は健康成人に比べ、基底膜が有意に肥厚し、しかも喘息罹患年齢と強い相関が認められた。これらの事実を確認した後、ステロイド吸入を行い、基底膜の検討を行ったところ、ベクロメタゾンを1200μg/day用いた群は6ヶ月後有意に基底膜の改善が見られた。この事は、将来の治療面の問題を検討する時に非常に重要な事実となり得る結果と言える。
③監察医務院に担ぎ込まれる患者の検討で、徳留は昭和64年から平成9年の9年間の喘息突然死の死亡例の検討を行った。その結果35%が就寝中に死亡し、運動中はむしろ多くないと言える結果で、今後の対応としては夜間の喘息管理に注意することが最も重要といえる結果であった。飯倉の結果からは喘息で一人暮しの患者の死亡が監察医務院に運ばれる率が高い結果が得られたことから、今後は患者教育を如何に行うかも重要な問題と言える。
また死亡例の患者が生前使用していた薬の検討で、インヘラータイプの吸入薬のどの種が多いかの検討ではフェノテロールが一番多かった。
④動物実験からは喘息モルモットの気管支基底膜は肥厚してきた。しかし、ステロイド投与で見られず、抗アレルギー薬の投与でも肥厚がみられなかった。このことは将来の喘息治療に参考になる結果と言える。藤多の研究からモルモット喘息にフェノテロールを吸入させ、気道の過敏性を調べた結果、この薬が気道の過敏性を高める結果を得た。しかし、ステロイド剤との併用では気道の過敏性が抑えられていた。
結論
以上の結果から、喘息患者の寛解の背景には気道の過敏性が取れる状態が必要であり、その方向づけはステロイドの適切な使用、抗アレルギー薬の使用が効果的である結果であった。喘息死患者の背景調査では、患者指導、夜間の注意事項検討が寛解に向けての日常指導で重要である結果であった。

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