“なぜ遺伝子変異なしでがんができるか”:その分子基盤解明と標的探索

文献情報

文献番号
201438006A
報告書区分
総括
研究課題名
“なぜ遺伝子変異なしでがんができるか”:その分子基盤解明と標的探索
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
上條 岳彦(埼玉県立がんセンター臨床腫瘍研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中川原 章(佐賀県医療センター 好生館 )
  • 門松 健治(名古屋大学大学院医学系研究科生化学教室)
  • 牛島 俊和(国立がん研究センター研究所エピゲノム解析分野)
  • 堺 隆一(国立がん研究センター研究所 難治進行がん研究分野)
  • 滝田 順子(東京大学大学院医学系研究科小児科)
  • 江成 政人(国立がん研究センター研究所 難治進行がん研究分野)
  • 大平 美紀(千葉県がんセンター研究所 がんゲノム研究室)
  • 田尻 達郎(京都府立医科大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,070,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経芽腫におけるエピゲノム・トランスクリプトーム解析を中心に施行するマルチオミックス解析を行い、“遺伝子変異を伴わないがん”の発がん分子機構を解明することを目的とする。このマテリアルとして、特に難治化に関わるがん幹細胞検体(腫瘍スフェア細胞)を主に用いる。これによって、難治神経芽腫症例のバイオマーカーと分子標的の同定を目指す。
研究方法
(上條岳彦)既に同定した腫瘍スフェア形成因子については標的療法開発を行っていく。腫瘍スフェアにおいて発現量の変化があり、神経芽腫患者の予後と相関する分子を網羅的に同定する。
 (中川原章、大平美紀)神経芽腫におけるゲノム変化を、アレイCGHを用いて網羅的に解析し、候補分子の解析を分子生物学・遺伝学的手法で行う。
 (堺隆一)神経芽腫細胞からカラム精製によりリン酸化Tyrを含む蛋白質群を単離し、質量分析で新規ALK結合蛋白質を同定する。
 (牛島俊和)神経芽腫スフェアでDNAメチル化解析、ヒストン修飾解析を行う。DNAメチル化及びH3K27me3の両者について、スフェアに特徴的な変化を同定する。この中から、幹細胞性に関与する可能性が高いものを抽出する。
 (滝田順子)神経芽腫の凍結検体より切片を切り出し、レーザーマイクロデイセクションにより単一細胞の抽出を行い、単一細胞のNGS解析を行う。
 (門松健治)神経芽腫癌幹細胞の新規培養法ががん幹細胞の純化に適しているか最適化に務める。モデルマウスで得た癌および前癌組織を材料として用いる。
 (江成政人)神経芽腫腫瘍スフェアでALK阻害剤投与後に耐性となった細胞を得る。耐性となったスフェアと薬剤添加前の比較解析を行い、抵抗性に関わる遺伝子を探索する。
 (田尻達郎)神経芽腫臨床データの解析と基礎研究者への提供を行う(中川原と協力)。
結果と考察
研究結果
・ヒト神経芽腫スフェアにおけるスクリーニングでは、細胞株での解析と初代細胞での解析において共通する分子としてWNTシグナル系分子の上昇がみられ、この高発現は不良な予後と一致していた。(上條、大平)。今後、コントロールとしてiPS由来神経堤細胞を用いてトランスクリプトーム解析とエピゲノム解析によるスクリーニングを行い、更に標的を絞り込んでいく(上條、牛島、大平)。
・マウス神経芽腫がん幹細胞(スフェア細胞)におけるスクリーニングでは、NBモデルMYCNTGマウスのスフェア形成細胞において、MYC-MAXのターゲット遺伝子群の増加、およびPRC2標的遺伝子群の低下が見られた。さらに転写開始地点から2kb以内のDNAメチル化を見るとMYCNTGでメチル化の多いことが分かった(門松、牛島、大平)。
・神経芽腫症例フォローアップ研究:調査ファイル回収済み施設:88施設中81施設、調査ファイル回収済み症例数: 2104例中1830 例 である。現在、転帰が判明している1146例についてデータ解析を行っている(中川原、田尻、上條)。
・ALK結合タンパク質の解析をMSで網羅的に解析した。結合分子FLOT1はALKのエンドソーム局在を阻害し、ALK分解を促進することを明らかにした(堺)。がん幹細胞様形質を持つ神経芽腫のスフェアアッセイ系を樹立し、その際のALK阻害剤耐性についても、ALK阻害剤とp53活性化剤との併用が有効であることがわかった(江成)。
・神経芽腫442例の検体で、target sequencingおよびゲノムコピー数の網羅的解析を行いgenetic landscapeの作成を試みた。ゲノム異常により6つのサブグループ(A:ALK+MYCN、B:Other mutation、C:MYCN+1p LOH、D:11q LOH、E:Hyperploid、F:silent)が検出され、それぞれ臨床因子と関連することが確認された(滝田)。

考察
ヒト神経芽腫がん幹細胞モデルとしてのSphere形成神経芽腫細胞のエピゲノム・トランスクリプトーム解析を進めるために、コントロールとしてヒトiPSから樹立した神経堤細胞を用いて網羅的解析を行う必要がある。この結果を考慮して、神経芽腫がん幹細胞性制御因子のスクリーニングを継続する。マウスの神経芽腫がん幹細胞モデルとしてのMYCN TG神経芽腫細胞でのエピゲノム・トランスクリプトーム解析の結果と比較してのターゲット絞り込みも検討していく。

結論
“遺伝子変異の無いがん”の一つと考えられる神経芽腫のエピゲノム・ゲノム解析によるがん幹細胞標的療法開発を目指す研究であり、得られた成果は成人腫瘍においても重要なエピジェネティック異常経路を共有していることが推測され、がんの標的治療に新たなパラダイムを提供できる可能性があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438006C

収支報告書

文献番号
201438006Z