大腸癌層別化による発がん分子基盤の解明と配列特異的標的治療薬開発への応用

文献情報

文献番号
201438005A
報告書区分
総括
研究課題名
大腸癌層別化による発がん分子基盤の解明と配列特異的標的治療薬開発への応用
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
金田 篤志(千葉大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 永瀬 浩喜(千葉県がんセンター研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 網羅的ゲノム解析情報に基づく個別化医療の普及・開発は、疾患の予後を改善し、有効な治療法がないがんへの対策として、社会上強く要請されている。本研究は網羅的解析による層別化に基づいて大腸がんの本態解明を行い、各症例群の治療・早期発見のためのイノベーティブな標的の探索、及びリード化合物開発などその成果の医療応用推進を目的とする。
研究方法
 大腸癌層別化業務では、網羅的解析による層別化に基づいて大腸がんの本態解明を行い、各症例群の治療・早期発見のためのイノベーティブな標的を探索する。
 3年間で600-1000症例の病変を解析予定である。網羅的メチル化情報を取得し、階層的クラスタリングにて症例層別化する。
 がんドライバー変異遺伝子を含む約200遺伝子についてエクソン変異解析する。平成26年度は、鋸歯状腺腫、顆粒状・無顆粒状側方進展型腫瘍の腺腫、早期がんについて先行解析し、各サブタイプの分子基盤を解明する。
 またほぼ全ての大腸がん、あるいは各サブタイプのほぼ全例で早期病変からメチル化を認めるマーカーに対し、血漿DNAにおけるメチル化を検討し、感度・特異度ともに非常に高いがん存在診断マーカーを樹立する。
 小分子化合物開発業務では、創薬候補としての配列特異的小分子化合物の開発を行う。
 先行して開発が進んでいた、KRASコドン12変異を認識するピロール・イミダゾールポリアミド(PIP)にアルキル化剤を結合したKR12について、抗腫瘍効果の得られる投与量でマウスに投与し安全性の検証を行う。さらに、KRAS以外の標的として、大腸癌で変異が認められた遺伝子および異常メチル化が認められた遺伝子に対して配列特異的PIPを合成する。
結果と考察
(1)臨床大腸癌標本の解析
 大腸早期病変195例の標本から十分な量のDNAが採取できた計167例についてDNAメチル化を解析した。142症例についてはエクソン変異解析を終了した。
 顆粒状側方進展型腫瘍は腺腫の段階で中メチル化群およびKRAS変異を示し、癌を含めてCTNNB1の強染色は示さなかった。無顆粒状側方進展型腫瘍は腺腫・癌ともに低メチル化群を呈しKRAS変異(-)であるが腺腫の段階からCTNNB1の強染色を示し、また癌化に伴い特異的な遺伝子変異を認めた。
 鋸歯状腺腫は、TSAが中メチル化群を呈するのに対し、SSA/Pは高メチル化群およびBRAF変異(+)を呈し、高メチル化大腸癌の前癌病変と考えられた。エクソン変異解析の結果、癌では有意に高頻度に遺伝子変異が起き、また特徴的なシグナルの遺伝子群に有意に変異が起きていた。
(2)血漿マーカーの開発
 120症例の大腸がん患者、96症例の非がん患者から血漿DNAを抽出し、異常メチル化を検討した。PPP1R3Cメチル化は単独で高感度・高特異度を示した。Stage Iの早期がんに対し、PPP1R3Cは単独で92%、EFHD1メチル化と組み合わせると100%の陽性率を示し、早期大腸がんで特に有意義ながん存在診断マーカーと考えられた。
(3)KR12の安全性検証
 KRAS変異配列を認識するPIPにアルキル化剤を付加したKR12の抗腫瘍効果と安全性を検証した。KRAS G12V変異を持つ大腸癌細胞株SW480の担癌マウスに対し投与すると、アルキル化単剤よりも強い抗腫瘍効果を認めた。その一方で、アルキル化単剤では体重減少が認められるが、KR12では体重減少は一過性にとどまり早期に回復した。アルキル化剤単独に比べ、高い抗腫瘍効果と、体重減少の減弱を認め、薬剤の核内への効率よいデリバリー効果などがその原因として考えられた。
(4)新たな標的変異に対する小分子化合物の合成
 KRAS以外の、大腸癌で高頻度に認められる変異に対し、変異配列特異的なPIPを合成し、KR12と同様にアルキル化剤を結合した。また大腸癌のメチル化解析で、腺腫から癌へ進展する際に有意にメチル化が認められるドライバーメチル化遺伝子に対し、そのメチル化プロモーター領域に結合する配列特異的PIPを合成した。
結論
 早期大腸病変を層別化した。それぞれ肉眼形態上も異なる、全く発癌経路の異なる症例群であった。これらの症例で、腺腫形成までのDNAメチル化及び癌遺伝子変異の蓄積、癌化への進展に関わる分子異常を同定した。
 アルキル化剤を結合したPIPの安全性を検証した。KRAS変異以外でも、同様の手法による変異配列特異的薬剤は開発可能と考えられ、開発を進める。
 大腸癌存在診断への応用として、PPP1R3C遺伝子のメチル化は、血漿中の癌由来DNAを高感度・高特異度に同定できた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
大腸がんの早期病変・進行病変の網羅的解析により、大腸がんを分子サブタイプに層別化し、各サブタイプの腺腫形成までに重要な分子異常、および悪性化に重要な分子異常を同定した。変異配列特異的に結合する小分子PIPを合成し、マウス担癌モデルで投与し治療効果だけでなくその安全性について検証した。小分子PIPが、DNAメチル化獲得の阻害も可能であることを証明した。大腸がんの全サブタイプに共通して認めるPPP1R3Cメチル化について、大腸癌存在診断に応用するための高感度血漿マーカーになり得ることを報告した。
臨床的観点からの成果
大腸がんは罹患率・死亡率ともに上位を占める悪性腫瘍であり、早期発見手法と難治性大腸癌に対する新たな治療法の確立が急務である。早期がんの段階で低侵襲・高感度に存在診断する手法として、我々の同定したメチル化マーカーはStage Iの早期大腸がんに対しても高感度に検出可能なマーカーである。また変異配列特異的に結合する小分子PIPは、アルキル化剤を結合することによりがん細胞特異的に高い殺傷性を示すが、動物モデルにおける投与安全性を確認したことは臨床応用への第一歩である。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
がん遺伝子KRASの変異配列に対し特異的に結合するPIPにアルキル化剤を結合させたKR12について、2015年4月27日にプレスリリースを行っている。アルキル化剤をがんの原因となるドライバー遺伝子変異に直接作用させることで、がん遺伝子を破壊し、通常の化学療法剤としての効果と相乗効果をもたらすことで難治性のKRAS変異陽性大腸がんに対する新しい薬剤となりうる。2016年9月に公開シンポジウムを開催。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
2件
国内1件、国外1件について認定登録手続き中である。
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

特許の名称
ドライバーオンコジーンの遺伝子変異を標的にアルキル化する新規アルキル化剤
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2014/077766
発明者名: 永瀬浩喜、杉山 弘、板東俊和
権利者名: 千葉県、京都大学
出願年月日: 20141014
国内外の別: 国外
特許の名称
DNA塩基配列特異的に結合するピロール・イミダゾール・ポリアミドの生細胞への投与による遺伝子プロモーター領域DNAメチル化の阻害および遺伝子発現サイレンシングの阻害
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-16951
発明者名: 金田篤志、篠原憲一、根本哲宏
権利者名: 国立大学法人千葉大学
出願年月日: 20160201
国内外の別: 国内
特許の名称
配列特異的で設計可能な標的遺伝子の転写抑制阻害剤およびこれを含む組成物並びにその使用
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2017/003623
発明者名: 金田篤志、篠原憲一、根本哲宏
権利者名: 国立大学法人千葉大学
出願年月日: 20170201
国内外の別: 国外
特許の名称
癌細胞の存否を判定する方法および癌患者の予後を判定する方法
詳細情報
分類:
特許番号: 5757572
発明者名: 金田篤志、八木浩一、油谷浩幸、酒井綾子
権利者名: 東京大学
出願年月日: 20100630
取得年月日: 20150601
国内外の別: 国内
特許の名称
癌細胞の存否を判定する方法および癌患者の予後を判定する方法
詳細情報
分類:
特許番号: 9075063
発明者名: 金田篤志、八木浩一、油谷浩幸、酒井綾子
権利者名: 東京大学
出願年月日: 20100630
取得年月日: 20150707
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sakai E, Fukuyo M, Matsusaka K, et al.
TP53 mutation at early stage of colorectal cancer progression from two types of laterally spreading tumors.
Cancer Sci , 107 , 820-827  (2016)
doi: 10.1111/cas.12930
原著論文2
Sakai E, Fukuyo M, Ohata K, et al.
Genetic and epigenetic aberrations occurring in colorectal tumors associated with serrated pathway.
Int J Cancer , 138 , 1634-1644  (2016)
doi: 10.1002/ijc.29903
原著論文3
Takane K, Akagi K, Fukuyo M, et al.
DNA methylation epigenotype and clinical features of NRAS-mutation(+) colorectal cancer.
Cancer Med , 6 , 1023-1035  (2017)
doi: 10.1002/cam4.1061
原著論文4
Shinohara K, Yoda N, Takane K, et al.
Inhibition of DNA methylation at the MLH1 promoter region using pyrrole-imidazole polyamide.
ACS Omega , 1 , 1164-1172  (2016)
DOI: 10.1021/acsomega.6b00229
原著論文5
Takane K, Matsusaka K, Ota S, et al.
Two subtypes of colorectal tumor with distinct molecular features in familial adenomatous polyposis.
Oncotarget , 7 , 84003-84016  (2016)
doi: 10.18632/oncotarget.11510

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201438005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
29,900,000円
(2)補助金確定額
29,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 22,213,242円
人件費・謝金 723,110円
旅費 8,950円
その他 54,698円
間接経費 6,900,000円
合計 29,900,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2016-06-29
更新日
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