頸部装着型機器による嚥下機能評価と食事介助支援装置の実用化

文献情報

文献番号
201417007A
報告書区分
総括
研究課題名
頸部装着型機器による嚥下機能評価と食事介助支援装置の実用化
課題番号
H24-長寿-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松村 明(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 健嗣(国立大学法人筑波大学 システム情報系)
  • 日高 紀久江( 国立大学法人筑波大学 医学医療系 )
  • 鮎澤 聡(筑波技術大学 保健科学部保健学科 )
  • 江口 清( 国立大学法人筑波大学 医学医療系 )
  • 中井 啓( 国立大学法人筑波大学 医学医療系 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,216,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢に伴い嚥下機能の低下が見られる在宅高齢者、嚥下機能障害のおそれのある入院患者を対象とし、障害の程度に応じた適切な治療・リハビリテーションを行うため、手軽で高齢者でも容易に利用可能であり、かつ実時間で嚥下機能を計測・記録及び提示可能な新規開発した嚥下計測機器による臨床研究を実施し、その有効性を検証する。在宅高齢者・入院患者の嚥下機能評価、嚥下障害者の介護の実態調査を実施するとともに、その新たな対処方法を確立する。
研究方法
高機能携帯端末による記録システムを実装し、反復唾液嚥下テストの自動計測をもちいて嚥下活動の記録を行った。また、既存の検査方法である嚥下造影検査および高解像度マノメトリーHRMと嚥下音を同時記録することで、新たに嚥下音面積とHRMの圧データとの相関を求める方法を考案し、嚥下機能解析を行った。
 高齢者や介護サービスの場における食事介助に関する調査を行った。職員の観察しているポイントや困難感を明らかにすることを目的としている。調査票1では、対象施設の概要(開設時期、関連サービスおよび関連施設、職員配置状況、入居者定員、入居者の状況(平均年齢、要介護度など)、協力医療機関の有無など)調査票2では、高齢者施設の食事介助の実態として、性別、年齢、職種、就業形態、資格、食事介助の実施期間などを調査項目とした。設定した変数について記述統計を実施し、自由回答の調査項目については、質的記述分析を行った。調査結果は統計的に処理し個人名が特定されないよう配慮した。
 また、病院内および外部協力機関と連携して研究を実施するため、嚥下計測デバイスの改善およびスマートフォンを利用した計測システムの構築を行った。技術的な検討とともに、在宅状況から情報収集を行う通信ネットワーク網を用いたデータ収集システムの構築を行った。
結果と考察
反復唾液嚥下テスト30秒を自動計測するアルゴリズムを実装した。これによる嚥下検出の精度と再現率は83。7%と93。9%であった。このように、新規開発したデバイスではRSSTは自動計測することが可能であり、専門知識を有さない人の使用が可能だと考える。
筑波大学附属病院リハビリテーション部へ嚥下評価を依頼された20名の神経筋疾患を有する患者を対象として、検討を行った。嚥下音とVF、HRMデータを同時表示可能なシステムを構築した。口腔期の嚥下音面積とHRMのVP、TB領域では相関がみられ、UES領域でも弱い相関がみられた。しかし、UES領域と嚥下時間、嚥下圧伝播とは有意な相関は高くなかった。咽頭期の嚥下音面積とHRMのTB領域、嚥下圧伝播速度の間には比較的よい正の相関がみられた。VPとUES領域、嚥下時間との相関はみられなかった。2期の面積比はUES開放前と閉鎖後の最大圧と低い負の相関がみられた。

食事介助実態調査においては、食事介助時には、対象者の345人(70。0%)が心配や不安を感じ、自由記述では窒息や誤嚥の危険性について言及している回答が多かった。就業前に食事介助や摂食・嚥下障害に関する教育を受けた経験の有無について質問した結果、対象者の257人(52。1%)に受講経験があった。

嚥下音解析による口腔内の動態解析が可能となった意義は大きく、解析の結果、その障害部位および程度によって、複数のパターン変化があることが明らかになりつつある。1)上咽頭収縮圧低下型、2)下咽頭収縮圧低下型、3)咽頭収縮圧亢進型、4)嚥下反射惹起遅延型、5)食道入口部開大不全型、それぞれの障害パターンに応じての検討が必要であり、提案する機器により上記5型への分類を目指し、自動化のための信号処理に関する研究を進めている。
高齢社会において、咀嚼を含めた嚥下機能をいかに維持できるかは重要なポイントである。介助者側の要因として、複数名への食事介助時の入居者の安全を守ることや、介助者の負担についても考慮する必要がある。食事介助や摂食嚥下障害に関する教育の必要性が重要であると考えられるが、現職の就業前、就業後を含め、研修会等に参加している職員の割合は各54。5%、38。6%であった。
結論
本研究では、嚥下計測デバイスの改善、計測システムの構築を行った。これより、在宅状況から通信ネットワーク網を用いたデータ収集システムが実現し、小型スマートフォンでの計測、計算機上での計測システムを実現し、実証実験用に高機能携帯端末による記録システムが実現した。これを元に正常嚥下音、誤嚥を弁別するような機能評価方法の基礎データ収集が可能である。
在宅高齢者を対象としたフィールド研究では、誤嚥性肺炎の早期発見・予防という観点からも、頸部装着型機器によるモニタリングが必要であり、とりわけ施設や在宅などにおいての有用性は高いことが判明した。

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201417007B
報告書区分
総合
研究課題名
頸部装着型機器による嚥下機能評価と食事介助支援装置の実用化
課題番号
H24-長寿-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松村 明(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 健嗣(国立大学法人筑波大学 システム情報系)
  • 日高 紀久江(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 鮎澤 聡(筑波技術大学 保健科学部保健学科)
  • 江口 清(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
  • 中井 啓(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
手軽で、実時間で嚥下機能を計測・記録及び提示可能な新規開発した嚥下計測機器による臨床研究を実施し、その有効性を検証する。また嚥下造影検査やマノメータ(圧力計測)と比較を通じて嚥下音信号解析の高度化を目指す。在宅高齢者・入院患者の嚥下機能評価、嚥下障害者の介護の実態調査を実施するとともに、その新たな対処方法を確立する。
研究方法
本機器の原理は、頸部の皮膚表面から装着型エレクトレットコンデンサマイクを利用して採取する嚥下音に基づき,嚥下能力の推定を行う手法である。高機能携帯端末を用いた記録システムを実装した。本システムは,咽喉マイクより嚥下の計測を行う計測部と、計測データを蓄積し嚥下判断を行う処理部、処理後のデータを基に発光で情報提示を行う提示部からなる。嚥下動作を光によってフィードバックすることで,他者に対して現在正常に嚥下が行われたかを容易に示すことが可能である。また、既存の検査方法である嚥下造影検査(Videofluoroscopy : VF)および高解像度マノメトリー(High-Resolution Manometry : HRM)と嚥下音を同時記録することで、新たに嚥下音面積とHRMの圧データとの相関を求める方法を考案し、嚥下機能解析が可能となった。
脳血管障害のない高齢者の嚥下機能に対する鍼治療の効果をGOKURIを用いたRSSTにより検討を行った。また嚥下造影検査を行った院内患者についての検討を行った。高齢者や介護サービスの場における食事介助に関する調査を行った。職員の観察しているポイントや困難感を明らかにすることを目的としている。調査結果は統計的に処理し個人名が特定されないよう配慮した。また、病院内および外部協力機関と連携して研究を実施するため、嚥下計測デバイスの改善およびスマートフォンを利用した計測システムの構築を行った。技術的な検討とともに、在宅状況から情報収集を行う通信ネットワーク網を用いたデータ収集システムの構築を行った。
結果と考察
反復唾液嚥下テスト30秒を自動計測するアルゴリズムを実装した。これによる嚥下検出の精度と再現率は83.7%と93.9%であった。健常人と、高齢者を比較すると、高齢者群には大きなばらつきが見られるとともに殆どのケースで嚥下時間が長かった。嚥下音を、咳や, 患者自身の声との判別を行う必要があるがウェーブレット変換により解析を行った。嚥下音要素構成区間推定法を抽出するアルゴリズムを開発し、検証を行った。
嚥下造影検査(VF)は嚥下障害におけるゴールデンスタンダードとして確立している。また、高解像度マノメトリー(HRM)は嚥下圧から嚥下動態を理解するに非常に有用なツールである。また嚥下音とVF、HRMデータを同時表示可能なシステムを構築した。記録された各データの同期を行い、VFでは嚥下運動において重要な、1.軟口蓋拳上舌、2.骨拳上開始、3.舌骨前方移動,4.BolusがUES通過開始,5.BolusがUES通過終了、6.舌骨復位、7.喉頭復位、の各時間を,HRMにおいては特に重要と思われる、軟口蓋(VP),舌根(TB)、上食道括約筋(UES)領域の抽出をした。これらの検討により、嚥下音における特徴が嚥下圧においてVP領域の圧の違いやUESの開大など咽頭期嚥下の状態を反映していると考えられた。
鍼治療を行うことによる即時的な嚥下機能向上が示唆された。
当院における院内での嚥下障害患者は比較的特殊な急性期,重症例が多いと考えられた。
食事介助実態調査においては、食事介助時に、対象者の70.0%が心配や不安を感じ、自由記述では窒息や誤嚥についての言及が多かった。就業前に食事介助や摂食・嚥下障害に関する教育を受けた経験の有無について質問した結果、対象者の52.1%に受講経験があった。
嚥下音解析による口腔内の動態解析が可能となった意義は大きく、自動信号処理に関する研究を進めている。
高齢社会において、咀嚼を含めた嚥下機能をいかに維持できるかは重要なポイントである。簡便なモニタがその役を担いうると考えられた。

結論
本研究では、新規嚥下計測デバイスの開発と改善、計測システムの構築を行った。在宅状況からネットワーク網を用いたデータ収集システムが実現し、小型スマートフォンでの計測、計算機上での評価システムを構成し、実証実験が可能な環境が構築できた。これを元に正常嚥下音、誤嚥を弁別するような機能評価方法の基礎データ収集が可能である。
在宅高齢者を対象としたフィールド研究では、誤嚥性肺炎の早期発見・予防という観点からも、頸部装着型機器によるモニタリングが必要である。介助者側の要因もあり、摂食嚥下障害に関する教育が重要であると考えられる。とりわけ施設や在宅などにおいて、本機器への期待は高いものである。

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201417007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では,頸部装着型装置を用いた嚥下計測を実現するため,実証実験用に高機能携帯端末による記録システムを実装し,主に入院患者にご協力頂き,開発した機器により嚥下活動の記録を行った.嚥下時間や嚥下異常音の取得を行うとともに,平均嚥下時間,毎時間あたりの嚥下回数を計測し記録するシステムを実現した.ここでは,嚥下造影検査やマノメータ(圧力計測)と比較を通じて嚥下音信号解析の高度化を実現した.
臨床的観点からの成果
本研究では,嚥下音の解析の基礎となるデータ取得のための臨床研究を行った.ここでは,嚥下造影検査時に同時に嚥下音の取得実験を実施し,すでに入院患者200名以上に対して観察実験を実施しており,マノメータ(圧力計測)を導入し,提案手法との比較実験を継続して行った. 関連病院と連携し,誤嚥との関連を明らかにするため,誤嚥を繰り返している患者の嚥下音パターンの取得を継続して行うことにより,嚥下能力と誤嚥の関係を明らかにするための基礎研究が進んだ.
ガイドライン等の開発
下記のプロジェクトでは、老人保健施設や病院との連携で嚥下・食事データを蓄積して、嚥下能力の分類、その経時変化、誤嚥リスクの評価など、データベースからの提案に向けた実用化研究を行う。これにより、適正な食事介護体制づくりや誤嚥性肺炎などのリスク低減へ貢献し、生活の質の向上に大きく貢献する。
その他行政的観点からの成果
本研究により、携帯端末と頸部装着型機器を用いて食事中でも手軽に嚥下(飲み込み)の有無を実時間で判定し提示する基盤技術が大きく伸展した。これにより、H28から科学技術振興機構(大学発新産業創出プログラム)の支援をうけ、嚥下能力の定量化とデータ集積による解析結果を含めた情報の共有を中核とする新たな摂食・嚥下支援ネットワークの形成を目指す新たな発展的研究を推進する。
その他のインパクト
・装着型24時間嚥下モニターGOKURI(Medical Tribune 新聞,2015 年02 月19 日)(*本研究の成果が医学系新聞により大きく取り上げられる).
・招待講演「頸部装着型機器による嚥下機能計測とその応用」,日本嚥下医学会学術講演会シンポジウム,大阪,2016/02/12, 2016.(*本研究の成果により日本嚥下医学会のシンポジウムにて招待講演.研究分担者:鈴木)
・本研究成果に基づき、大学初スタートアップ企業として創業した。(2018年4月18日)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
医工連携関係の英文学術雑誌・査読付国際会議論文として発表
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
特許取得(H28年度)
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
嚥下機能データ測定装置及び嚥下機能データ測定システム
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-154216
発明者名: 鈴木健嗣
権利者名: 筑波大学
出願年月日: 20110712
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Jayatilake, D., Matsumura, A. and Suzuki, K. et al.,
Smartphone-Based Real-time Assessment of Swallowing Ability From the Swallowing Sound,
IEEE Journal of Translational Engineering in Health and Medicine , 3 (2900310)  (2015)
doi: 10.1109/JTEHM.2015.2500562
原著論文2
Kuramoto, N., Jayatilake, D., Hidaka, K., et al.
Smartphone-based Swallowing Monitoring and Feedback Device for Mealtime Assistance in Nursing Homes
Proc. of Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Society (EMBC'16) , 5781-5784  (2016)
doi: 10.1109/EMBC.2016.7592041
原著論文3
Jayatilake, D., Suzuki, K., Yohei, T., et al.
Swallowscope: A Smartphone based Device for the Assessment of Swallowing Ability
Proc. of IEEE-EMBS International Conference on Biomedical Health Informatics , 697-700  (2014)
doi: 10.1109/BHI.2014.6864459

公開日・更新日

公開日
2016-06-30
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
201417007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,080,000円
(2)補助金確定額
8,080,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 626,583円
人件費・謝金 3,396,180円
旅費 1,564,624円
その他 628,613円
間接経費 1,864,000円
合計 8,080,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-06-30
更新日
-