地方自治体および地域コミュニティー単位の子宮頸がん予防対策が若年女性の意識と行動に及ぼす効果の実効性の検証

文献情報

文献番号
201314001A
報告書区分
総括
研究課題名
地方自治体および地域コミュニティー単位の子宮頸がん予防対策が若年女性の意識と行動に及ぼす効果の実効性の検証
課題番号
H23-がん臨床-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮城 悦子(横浜市立大学 附属病院 化学療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 平原 史樹(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 加藤 久盛(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) 部長)
  • 水嶋 春朔(横浜市立大学 大学院医学研究科 疫学・公衆衛生学)
  • 大重 賢治(横浜国立大学 保健管理センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦で子宮頸がん検診受診率が低迷し若年女性の罹患率が上昇する中、受診率改善のため検診無料クーポン券配布やHPVワクチン接種への公費助成が開始された。本研究は神奈川県の自治体や地域コミュニティーが行っている頸がん予防対策の実効性を動的に検証し若年女性の頸がん予防行動促進に直結する有効な策を明らかにし施策提言することである。
研究方法
1.子宮頸がん発症年齢の若年化の検証:神奈川県悪性新生物登録データを用いて、1985~2011年の間に登録された頸がんの年齢階級別罹患数・死亡数の推移を調査。また1998~2008年の登録症例のうち「子宮がん(未分類)」と登録されていた症例について調査。
2.神奈川県における子宮頸がん検診個人履歴把握の実態についての研究:神奈川県内33市町村の検診担当部署に対しアンケート調査を行った結果を無料クーポン券事業と通常検診業務に分けた上で、個別勧奨と未受診者へ再勧奨の有無に特に注目し経時的変化に着目し解析を実施。
3.横浜市・相模原市における子宮頸がん予防対策とそのアウトカムについての研究概要:両市における頸がん行政検診受診状況の比較検討を行い、女性特有のがん検診推進事業による検診受診率増加効果も検討。
4.子宮頸がん検診の若年受診者増加への取り組み:2006~2012年に横浜市立市民病院検診センターの任意検診での頸がん検診を受診者と、神奈川県予防医学協会で実施している自治体による車検診受診者の計149,607人を対象とし、若年層の割合、非定期受診の割合、要精検率、頸がん発見率を検討。
5.女子大学生の子宮頸がん予防と行動に関する研究:2011、2012、2013年入学の女子学生を対象とし、無記名自己記入式のアンケートを用いて頸がん予防行動と知識について調査。
6.ソーシャルネットワークサイト(SNS)を用いた若年女性の子宮頸がん予防意識•行動調査:SNSを活用しターゲットとする若年女性を一定期間に調査研究へ勧誘することが可能かについて検討。
結果と考察
1.頸がん発症年齢の若年化の検証:頸がんの罹患数は神奈川県地域がん登録データが利用可能な1985年以降浸潤がんにおいては横ばいであり、上皮内がんの罹患登録数は観察期間中30歳以上の年齢層で増加していた。また子宮がん(未分類)の再分類は730例中608例(82.5%)の調査票を回収し、実際は子宮頸がんであったものが92例(12.6%)であった。
2.神奈川県における子宮頸がん検診個人履歴把握の実態についての研究:自治体主体の検診で個人通知を行いかつ検診無料クーポン券使用の再勧奨を実施している7自治体における全体の検診受診率の伸びが目立ったが、クーポン単独での長期効果は得られなかった。
3.横浜市・相模原市における子宮頸がん予防対策とそのアウトカムについての研究概要:検診初診者の割合は両市とも20歳代が約70%,30歳代が44~53%と若年者が高率でありクーポン券配布による効果の可能性が考えられた。また2009年度、2010年度と伸びていたクーポン券による受診率が2011年度で低下していたが、横浜市では大学生のピアサポーターの活動により20歳、25歳の2012年度の受診率が上昇していた。
4.子宮頸がん検診の若年受診者増加への取り組み:検診体制の異なる2施設の土曜検診で、検診センターでは平日と比較して若年受診者・不定期受診者が多く、要精検率・頸がん発見率も高かったが、バス検診の休日検診では若年受診者の比率は他の年代と差がなく要精検率・頸がん発見率も平日と差を認めなかった。
5.女子大学生の子宮頸がん予防と行動に関する研究:2013年度大学新入生女子を対象に自己記入式アンケート調査を行い2011年度からの3年間の変化を検討したところ、HPVワクチン接種率は2013年度の新入生では公費助成対象者を含むため約50%と著しく増加していたが、検診の認知度は低下していた。
6.ソーシャルネットワークサイト(SNS)を用いた若年女性の子宮頸がん予防意識•行動調査:本研究事業のホームページとフェイスブックのバナー広告のSNSを活用し、16〜35歳の神奈川県在住の若年女性を対象としてSNSから調査研究へ勧誘したところ、約200名の女性がアンケート調査の回答を完了した。
結論
子宮頸がんの検診受診率が低いわが国ではHPVワクチンの導入による効果が期待されていたが、2013年6月以降定期接種によるワクチンの接種の積極的勧奨が副反応の精査のために中止されている。この状況下での若年者の検診受診率向上のための施策として、未受診者の受診再勧奨の徹底、ピアサポーターからの啓発、SNSの活用などによる包括的な頸がん予防体制を早急に構築する必要があると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201314001B
報告書区分
総合
研究課題名
地方自治体および地域コミュニティー単位の子宮頸がん予防対策が若年女性の意識と行動に及ぼす効果の実効性の検証
課題番号
H23-がん臨床-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮城 悦子(横浜市立大学 附属病院 化学療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 平原 史樹(横浜市立大学 大学院医学研究科 生殖生育病態医学)
  • 加藤 久盛(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) 部長)
  • 水嶋 春朔(横浜市立大学 大学院医学研究科 疫学・公衆衛生学)
  • 大重 賢治(横浜国立大学 保健管理センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
横浜市と神奈川県を中心とした行政および地域コミュニティー単位の子宮頸がん予防対策の現状分析により、子宮頸がん検診とヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを統合した将来的な子宮頸がん予防戦略の重要な課題を明らかにしその解決策を見いだすことを目的とした。
研究方法
1.頸がん発症年齢の若年化の検証:神奈川県悪性新生物登録データを用い、頸がんの罹患と死亡の若年化傾向を客観的に把握した。
2.神奈川県における子宮頸がん検診個人履歴把握の実態についての研究:県内市町村の検診担当者にアンケート調査を行い、無料クーポン券事業と通常検診業務に分けた個別勧奨と未受診者へ再勧奨の有無に注目した解析を行った。
3.地域コミュニティーにおける予防対策とそのアウトカムについての研究概要:医療関係者に頸がん予防のアンケート調査を施行、異なるサービスを提供する2施設における休日検診の有用性を検討した。さらに横浜市と相模原市における頸がん予防アウトカムに関する解析を実施。
4.女子大学生の頸がん予防と行動に関する研究:2011-13年入学の学生を対象とした無記名自己記入式のアンケートを用いて頸がん予防行動と知識について調査。
5.ソーシャルネットワークサイト(SNS)を用いた若年女性の子宮頸がん予防意識・行動調査:SNSを活用した若者の市民公開講座等への動員、調査研究への勧誘を検討。
結果と考察
1.頸がん発症年齢の若年化の検証:頸がんの罹患数・死亡数は全国的にも神奈川県においても減少していなかった。神奈川県の20歳代の年齢階級別粗死亡率は増加し、20~40歳代の年齢階級別粗罹患率も増加していた一方で50歳以上では両者が減少していた。
2.神奈川県における個人履歴把握の実態についての研究:検診の個人通知と再勧奨が受診率向上に寄与していた。また通常検診で未受診者への再勧奨を行っている自治体はなく、検診対象者の把握の根底となる台帳作成の未整備、予算及び人材の不足など、個別勧奨と未受診者への再勧奨を行うには困難が伴う状況が判明した。若年層への勧奨はクーポン効果が減弱することを最小限に留める可能性があり、今後受診勧奨・再勧奨の介入の直接効果を評価していく必要がある。
3.地域コミュニティーにおける予防対策とそのアウトカムについて:ワクチン接種を希望した医療関係者の頸がん検診受診率は51.6%であり一般女性と比較して高かったが、先進諸外国に比較すると著しく低かった。異なる検診体制の2施設における休日検診の検討で、施設検診では休日は平日に比して若年の初回検診受診者が多く要精検率と頸がん発見率が高くなっていたが、バス検診では休日の初回受診者が少なく要精検率、頸がん発見率は平日と差異がなかった。横浜市と相模原市における検診およびワクチン接種状況に関する後方視的解析で、無料クーポン配布開始以降の検診受診率は上昇してはいたが、上昇率はわずか5-6%でありその効果は限定的であった。また相模原市は横浜市より要精検受診率が高く要精検者に対する個人勧奨が奏功していた。2012年の公費助成ワクチン接種率は2市でいずれも70%以上と高率だった。
4.女子大学生の子宮頸がん予防と行動に関する研究:予防ワクチン認知率は、2011年49.5%、2012年64.4%、2013年71.2%、ワクチン接種率は2011年5.4%、2012年13.5%、2013年48.7%と増加傾向にあり2013年度の新入生は公費助成対象者を含むため接種率は飛躍的に増加した。頸がん検診の認知度は、2011年78.9%、2012年76.9%、2013年63.2%と低下していた。若年者の頸がん予防の実現にはHPVワクチンの接種普及とともに子宮頸がん検診の啓発も課題であることが明らかとなった。
5. SNSを用いた若年女性の子宮頸がん予防意識・行動調査:市民公開講座を女子大学生の子宮頸がん予防啓発団体と共催し、参加者募集を研究班HPやSNSを利用し行ったところ、参加者は男性35%、女性65%と男性の比率も高く、年代別では10代9%、20代56%、30代13%と、ターゲットとする若者の参加を促す事ができた。2012年7月~2013年3月の期間に、FB広告よりリクルートされた127名、研究班HPよりリクルートされた116名の計243名(16~35歳)がウェッブサイト上でのアンケート調査を終了した。
結論
子宮頸がん予防を推進するためには、対象者の心理を汲んだソーシャルマーケティングの実現が不可欠である。今回の研究成果から得られた様々な提言の実効性については、横浜市や神奈川県の20-30歳代女性の検診受診率の向上やHPVワクチン定期接種あるいは任意による高い接種率の達成によって検証される必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201314001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
神奈川県で若年女性の子宮頸がんの罹患率・死亡率が増加傾向であることを疫学研究で明らかにし、年代に応じた予防対策を早急に講じる必要性を示した。また、医療関係者であっても頸がん検診受診率が欧米先進国の女性よりかなり低い一方で、HPVワクチン公費助成により平成25年度の横浜市内2大学の新入女子大生はHPVやワクチンについての極めて高い知識を有し、HPVワクチン接種率は約50%と他の先進国に近づいていることが判明し、国際学会・英文雑誌にて公表した。
臨床的観点からの成果
横浜市立大学附属病院でHPVワクチン接種を受けた成人医療関係者(学生・職員)の2年以内の頸がん検診受診率は45%と欧米女性の受診率よりはるかに低かったが、ワクチン接種時の啓発により2年後の調査では68%まで上昇しており、医療関係者にも継続的啓発が必要である現状が明らかになった。また、任意頸がん検診を土曜日に行っている施設で土曜検診は平日と比較して若年・不定期受診者が多く要精検率・頸がん発見率も高かったことから、土曜日検診実施が若年者の検診受診率向上に効果がある可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
神奈川県生活習慣病対策委員会がん・循環器病対策部会子宮がん分科会(H25 年1月9日開催)で議論された。
その他行政的観点からの成果
神奈川県内の自治体で、無料クーポン券以外の子宮頸がん検診の未受診者へのリコールは本研究事業実施期間ではゼロであったが、複数の自治体が実施検討や準備に入っている。また、県内の政令都市でも横浜市と相模原市では、検診受診率、精検受診率、無料クーポン使用率の動向が大きく異なるが、ともに公費助成のHPVワクチン接種率は70%以上を達成していた。今後、研究機関と自治体や自治体間の情報交換が頸がん予防推進に重要であることが示された。
その他のインパクト
若年女性の子宮頸がん予防の意識を高め行動の変容を促すためには同年代からの働きかけやソーシャルネットワーキングサイト(SNS)の活用が効果的である可能性を示した。頸がん予防先進国のオーストラリアで行われたSNSを用いた手法による調査研究が日本でも可能であることも明らかになり、神奈川県で実施したパイロットスタディーでは参加者がオーストラリア女性に匹敵する頸がん予防知識を有していることが判明した。2012年9月8日テレビ神奈川開局記念番組にて活動が紹介された。2012年11月30日公開成果報告会開催。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
13件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
12件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
神奈川県生活習慣病対策委員会がん・循環器病対策部会子宮がん分科会(H25年1月9日開催)で議論
その他成果(普及・啓発活動)
69件
子宮頸がん予防セミナー講師(日医生涯教育講座、市民公開講座、教育講演、教育ビデオ監修、産婦人科医会講師、保健所講師、日本産科婦人科学会特任理事など)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Miyagi E, Sukegawa A, Hirahara F, et al.
Attitudes toward cervical cancer screening among women receiving human papillomavirus vaccination in a university-hospital-based community: Interim 2-year follow-up results
J Obstet Gynaecol Res , 40 (4) , 1105-1113  (2014)
10.1111/jog.12288
原著論文2
助川明子,大重賢治,宮城悦子 他
ヒトパピローマウィルスワクチンのキャッチアップ接種世代における子宮頸がん予防の知識と態度
思春期学 , 31 (3) , 316-326  (2013)
原著論文3
鈴木理絵,宮城悦子
がんの予防医学 ヒトパピローマウィルスと子宮頸がん
予防医学 , 55 , 41-49  (2013)
原著論文4
宮城悦子
子宮頸がん予防─撲滅に向かって─
京都母性衛生学会誌 , 20 (1) , 7-9  (2013)
原著論文5
Miyagi E, Motoki Y, Asai-Sato M, et al.
Web-based recruiting for a survey on knowledge and awareness of cervical cancer prevention among young women living in Kanagawa Prefecture, Japan
Int J Gynecol Cancer , 24 (7) , 1347-1355  (2014)
10.1097/IGC.0000000000000220
原著論文6
Sukegawa A, Ohshige K, Miyagi E, et al.
Three-year questionnaire survey on human papillomavirus vaccination targeting new female college students
J Obstet Gynaecol Res , 41 (1) , 99-106  (2015)
10.1111/jog.12500
原著論文7
Motoki Y, Mizushima S, Hirahara F, Miyagi E, et al.
Increasing trends in cervical cancer mortality among young Japanese women below the age of 50 years: an analysis using the Kanagawa population-based Cancer Registry, 1975-2012
Cancer Epidemiol , 39 (5) , 700-706  (2015)
10.1016/j.canep.2015.08.001
原著論文8
Yagi A, Miyagi E, et al.
Project conducted in Hirakata to improve cervical cancer screening rates in 20-year-old Japanese:Influencing parents to recommend that their daughters undergo cervical cancer screening
J Obstet Gynaecol Res , 42 (12) , 1802-1807  (2016)
10.1111/jog.13122.
原著論文9
Sekine M,Miyagi E, et al.
Japanese crisis of HPV vaccination
Int J Pathol Clin Res , 2 (2) , 2469-5807  (2016)
10.1016/S0140-6736(15)61152-7
原著論文10
宮城悦子
日本の子宮頸がん予防の将来を考える
神奈川県臨床細胞学会誌 , 21 (1) , 1-8  (2016)
原著論文11
宮城悦子,今野 良,井箟 一彦
HPVワクチン接種後の有害事象とその対策(AYUMI パピローマウイルス最前線)
医学のあゆみ , 258 (2) , 159-163  (2016)
原著論文12
宮城悦子
HPVワクチン接種の現状と見通しは?
JOHNS , 32 (3) , 379-382  (2016)
原著論文13
宮城悦子
特集 婦人科診療の近未来 4.子宮頸がん予防ワクチン
産婦人科の実際 , 65 (12) , 1611-1617  (2016)
原著論文14
Motoki Y, Miyagi E, Taguri M, Asai-Sato M, Enomoto T, Wark JD, Garland SM
Comparison of Different Recruitment Methods for Sexual and Reproductive Health Research: Social Media-Based Versus Conventional Methods.
J Med Internet Res , 19 (3) , e73-  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-04-28
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201314001Z