ウイルス性肝炎に対する応答性を規定する宿主因子も含めた情報のデータベース構築・治療応用に関する研究

文献情報

文献番号
201227005A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルス性肝炎に対する応答性を規定する宿主因子も含めた情報のデータベース構築・治療応用に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 徳永 勝士(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 五條堀 孝(国立遺伝学研究所 生命情報研究センター)
  • 溝上 雅史(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 八橋  弘(独立行政法人国立病院機構 長崎医療センー 臨床研究センター)
  • 本多 政夫(金沢大学 医薬保健研究域 保健学系)
  • 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院 )
  • 坂本 直哉(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 渡辺 久剛(山形大学 医学部)
  • 新井 理(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 )
  • 渡邊 綱正(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
58,218,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、肝炎ウイルス感染に対する応答性や薬剤応答性の個人差に関わるヒト及びウイルス両方の遺伝子要因を同一個体内で明らかにすることが大きな特徴である。さらに、統合的にデータベース化し解析することにより、ヒト及びウイルス要因の両方を考慮した知見を得ることを目的とする。
研究方法
1) 検体及び付帯情報の収集:ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に従い、全国38施設より検体及び付帯情報の収集を開始した。2)ゲノムワイド関連解析(GWAS)及びDigiTag2法による検証を行った。3)コホートにおけるIL28B遺伝子多型とIFN治療効果及び自然治癒関連因子の解析を行った。4)IL28Bの機能解析を行い創薬に重要な情報を収集した。5)肝炎ウイルス統合データベースの構築し一部を公開した。
結果と考察
1)検体及び付帯情報の収集:ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に従い、全国38施設より検体及び付帯情報の収集を開始。これまでに約5,200の日本人検体及び約1,500の海外検体が東大のSNPセンターに届けられている。IL28B及びITPA SNPsを一括測定し、各施設に情報提供。個別化医療への応用。2)GWAS解析:本年度はC型慢性肝疾患患者277検体を追加してSNP Array 6.0を用いてタイピングした。これまでに取得したデータと合わせた患者群合計1,437検体のうち、1,339検体はQC call rateが95%以上となった。PEG-IFN/RBV併用療法などでうつ症状を発症した患者群(199検体)およびうつ症状を発症しなかった患者群(431検体)のサンプル収集を集中的に実施した。BDI-IIテスト(ベックのうつ病調査表)で14点以上(軽いうつ状態)、および20点以上(うつ状態)となった、それぞれ70検体と45検体に対して、うつ症状を発症しなかった群156検体、180検体を比較対照群としたGWASを実施した。選択された96種のSNPについて、Replication解析を実施した結果、P = 8.57 ×10-8(OR = 2.54)に達するSNPを同定した。3)コホート研究:a) C型肝炎薬剤応答性のデータマイニング解析、b) TVR/PEG-IFN/RBV療法における治療早期の血中ウイルス量減衰の検討、c) 肝炎コホートにおける自然治癒関連因子の解析。20年間のALT値の変動を継時的に追跡。4)機能解析:a) IL28B SNPとISG発現: IL28BマイナーではIFN療法の反応不良の要因として、治療前のISG高値に加え、免疫細胞の浸潤不良が考えられた。b) 次世代シーケンサーを用いたIL28B解析:治療無効群に関連を示すメチル化部位として52領域を同定した.また,治療反応性群に関連を示すメチル化部位として271箇所を同定した。c) IFNλを制御する低分子化合物のスクリーニング、d) C型肝炎ウイルス感染肝内自然免疫応答におけるIL28B SNPsの影響:肝内IFNλs発現量がSNPにより異なった。5)肝炎ウイルス統合データベースの構築:機能解析を展開することで、新規治療法の開発にも繋がるこれまでに得られたウイルス遺伝子情報、SNP情報、臨床情報に加えて遺伝子発現情報を統合し、肝炎ウイルス統合データベースはほぼ完成した。
結論
これまでに得られたウイルス遺伝子情報、SNP情報、臨床情報に加えて遺伝子発現情報を統合し、肝炎ウイルス統合データベースは完成した。臨床の分野においては、本データベースを参照することにより、患者SNPsとウイルス変異の組み合わせから病態進展の予測及びハイリスク群の抽出が可能となり、テーラーメイド治療への展開が期待される。従って、適切な治療法の選択および新たな治療法の開発で患者の予後を改善するのみならず、肝硬変・肝癌という高度な医療が必要な患者数を減らすことにより、医療費の低減に繋がり、社会の福祉に寄与することができる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201227005B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルス性肝炎に対する応答性を規定する宿主因子も含めた情報のデータベース構築・治療応用に関する研究
課題番号
H22-肝炎-一般-005
研究年度
平成24(2012)年度
研究代表者(所属機関)
田中 靖人(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 徳永 勝士(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 五條堀 孝(国立遺伝学研究所 生命情報研究センター)
  • 溝上 雅史(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 八橋  弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 本多 政夫(金沢大学 医薬保健研究域 保健学系)
  • 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院)
  • 坂本 直哉(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 渡辺 久剛(山形大学 医学部)
  • 新井  理(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 )
  • 菅内 文中(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 )
  • 本村 和嗣(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 渡邊 綱正(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、肝炎ウイルス感染に対する応答性や薬剤応答性の個人差に関わるヒト及びウイルス両方の遺伝子要因を同一個体内で明らかにすることが大きな特徴である。さらに、統合的にデータベース化し解析することにより、ヒト及びウイルス要因の両方を考慮した知見を得ることを目的とする。
研究方法
1) 検体及び付帯情報の収集:ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に従い、全国38施設より検体及び付帯情報の収集を開始した。2)ゲノムワイド関連解析(GWAS)及びDigiTag2法による検証を行った。3)コホートにおけるIL28B遺伝子多型とIFN治療効果及び自然治癒関連因子の解析を行った。4)IL28Bの機能解析を行い創薬に重要な情報を収集した。5)肝炎ウイルス統合データベースの構築し一部を公開した。
結果と考察
1)検体及び付帯情報の収集:ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針に従い、全国38施設より検体及び付帯情報の収集を開始。これまでに約5,200の日本人検体及び約1,500の海外検体が東大のSNPセンターに届けられている。IL28B及びITPA SNPsを一括測定し、各施設に情報提供。個別化医療への応用。2)GWAS解析:QC call rateが95%以上となった1,339検体を用いて、(1)PEG-IFN/RBV併用療法の副作用の一つである貧血・血小板減少(rs11697186:血小板減少 P値=8.17×10-9、OR=4.58;貧血 P値=7.93×10-10、OR=0.06)、(2)好中球減少、(3)うつ病 (P = 8.57 ×10-8, OR = 2.54)、(4)C型肝炎ウイルス自然排除(rs8099917: P値=1.59×10-9、OR=9.47)、(5)扁平苔癬を対象としたゲノムワイド関連解析を実施した結果、HCV関連の扁平苔癬との関連が報告されているHLA-DR遺伝子領域から、P < 10-4となるSNPを検出した。3)コホート研究:a) C型肝炎薬剤応答性のデータマイニング解析:治療開始前にこのような治療反応性を予測する因子として、IL28B,FIB4、GGTが重要、b) IL28B遺伝子多型と治療前血中IP-10値は第1相のHCV-RNA減衰と密接な関連が見られた。c) 肝炎コホートにおける自然治癒関連因子の解析: HCV自然治癒に関連する因子をCox比例ハザードモデルにより解析したところ、IL28B遺伝子多型が自然治癒に最も寄与する因子であった。HCV抗体陽性例1,078名の肝発癌調査を加味してIL28B遺伝子多型との関連をみると、肝発癌例と非発癌例において多型の頻度に差があった。4)機能解析:a) IL28B SNPとISG発現: IL28BマイナーではIFN療法の反応不良の要因として、治療前のISG高値に加え、免疫細胞の浸潤不良が考えられた。b) 次世代シーケンサーを用いたIL28B解析:治療無効群に関連を示すメチル化部位として52領域を同定した.また,治療反応性群に関連を示すメチル化部位として271箇所を同定した。c) IFNλを制御する低分子化合物のスクリーニング、d) C型肝炎ウイルス感染肝内自然免疫応答におけるIL28B SNPsの影響:肝内IFNλs発現量がSNPにより異なった。5)肝炎ウイルス統合データベースの構築:機能解析を展開することで、新規治療法の開発にも繋がるこれまでに得られたウイルス遺伝子情報、SNP情報、臨床情報に加えて遺伝子発現情報を統合し、肝炎ウイルス統合データベースはほぼ完成した。
結論
これまでに得られたウイルス遺伝子情報、SNP情報、臨床情報に加えて遺伝子発現情報を統合し、肝炎ウイルス統合データベースは完成した。臨床の分野においては、本データベースを参照することにより、患者SNPsとウイルス変異の組み合わせから病態進展の予測及びハイリスク群の抽出が可能となり、テーラーメイド治療への展開が期待される。従って、適切な治療法の選択および新たな治療法の開発で患者の予後を改善するのみならず、肝硬変・肝癌という高度な医療が必要な患者数を減らすことにより、医療費の低減に繋がり、社会の福祉に寄与することができる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201227005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肝炎ウイルス統合データベースの構築:これまでに得られたウイルス遺伝子情報、SNP情報、臨床情報に加え遺伝子発現情報を統合し肝炎ウイルス統合データベースはほぼ完成した。臨床分野においては、本データベースを参照することにより、患者SNPsとウイルス変異の組み合わせから病態進展の予測及びハイリスク群の抽出のみならず、これまでに収集したSNP情報及び臨床情報を参照し、ある宿主側因子を持つ患者のIFN/RBV療法の治療効果を予測することがデータベース上で可能となり、テーラーメイド治療への展開が期待される。
臨床的観点からの成果
実際のC型肝炎診療において、ペグインターフェロン/リバビリン併用療法前にIL28B SNPsを測定することで、高い確率で治療効果を予測することが可能となり、テーラーメイド医療として期待される。「IL28Bの遺伝子診断によるインターフェロン治療効果の予測評価」として2010年8月先進医療と認可された。また、貧血や血小板減少に関連するITPA SNPも同定し、臨床応用されている。
ガイドライン等の開発
平成24年度 肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究班からのC型慢性肝炎治療ガイドライン及び日本肝臓学会肝炎診療ガイドラインにおいてもIL28B SNP検査の結果を参考にして、治療方針を決定することが明記された。
その他行政的観点からの成果
統合型肝炎データベースを参照に、適切な治療法の選択および新たな治療法の開発で患者の予後を改善するのみならず、肝硬変・肝癌という高度な医療が必要な患者数を減らすことにより、医療費の低減に繋がり、社会の福祉に寄与することができる。
その他のインパクト
「IL28Bの遺伝子診断によるインターフェロン治療効果の予測評価」に基づいたテーラーメイド治療への展開が期待される。C型肝炎は個別化治療の時代に突入した。2010年6月11日中日新聞「医療と社会欄」遺伝子検査として掲載。ウイルス肝炎財団と中日新聞主催の市民公開講座「C型肝炎を治そう!あなたの疑問にお答えします」にて講演し、講座の模様が同年6月26日に中日新聞に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
100件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
65件
学会発表(国際学会等)
80件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
6件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka Y, Kurosaki M, Nishida N, Mizokami M. et al
Genome-wide association study identified ITPA/DDRGK1 variants reflecting thrombocytopenia in pegylated interferon and ribavirin therapy for chronic hepatitis C.
Hum Mol Genet. ,  20 ( 17) , 3507-3516  (2011)
10.1093/hmg/ddr249.
原著論文2
Kani S, Tanaka Y, Matsuura K, Mizokami M. et al
Development of new IL28B genotyping method using Invader Plus assay
Microbiol Immunol. ,  56 (5) , 318-323  (2012)
10.1111/j.1348-0421.2012.00439.x.
原著論文3
Nishida N,Tanaka Y, Tokunaga K, Mizokami M. et al
Genome-Wide Association Study Confirming Association of HLA-DP with Protection against Chronic Hepatitis B and Viral Clearance in Japanese and Korean
PLoS One. ,  7 (6) , e39175.-  (2012)
10.1371/journal.pone.0039175.

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
2018-03-20

収支報告書

文献番号
201227005Z