筋萎縮性側索硬化症患者由来疾患モデル細胞を用いた病態解明と治療法開発

文献情報

文献番号
201122016A
報告書区分
総括
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症患者由来疾患モデル細胞を用いた病態解明と治療法開発
課題番号
H21-こころ・一般-015
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 良輔(京都大学 大学院医学研究科・臨床神経学)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 治久(京都大学 iPS細胞研究所・臨床応用)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側策硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)のうち約10%を占める家族性ALSの主要な原因遺伝子であるSOD1は、変異SOD1蛋白が毒性を獲得することにより運動ニューロン変性を来たす。iPS細胞を用いた低分子化合物のハイスループットスクリーニングにより、SOD1の転写を抑制する化合物を見出し、モデル動物で効果を確認することにより、ALSの根本的治療法開発の道筋をつける。さらに治療薬効果判定に役立つような、蛋白分解障害仮説に基づいたALSモデルマウスを作製・解析する。
研究方法
ヒトアストロサイト系のH4株にヒトSOD1の遺伝子調節領域を含むゲノム断片にレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)を組み込んだコンストラクトを導入し、レポーター遺伝子活性を低下させる分子を低分子化合物ライブラリーのスクリーニングで見出し、ALS患者から作製したiPS細胞、ALSモデルマウスでの効果を検証する。またCre-loxシステムで運動ニューロン特異的に26SプロテアソームサブユニットRpt3を欠損するマウスを作製・解析する。
結果と考察
前年度までに確立したハイスループット・スクリーニング(HTS)系で、SOD1の転写を抑制する既存薬Xを見出した。また、既存薬Xが家族性ALSのiPS細胞由来アストロサイトでも、変異SOD1トランスジェニックマウスでもSOD1転写抑制作用を示し、かつ明らかな細胞毒性を示さないことも明らかにした。既存薬Xの長期投与による有害事象が問題にならなければ、ALS治療薬として臨床応用が期待できる。一方、運動ニューロン特異的に26Sプロテアソームをノックアウトしたマウス作製に成功した。このマウスは進行性の運動機能低下を示し、孤発性ALSに極めて類似した細胞病理学的所見を示した。これはプロテアソーム活性低下が孤発性ALSの病因である可能性を示唆している。
結論
1)FDA承認薬剤である既存薬XがSOD1の転写を抑制することを見出し、主要なALSモデルの一つである、変異SOD1トランスジェニックマウスに投与することで、治療効果を有することを見出した。
2)神経変性疾患の有力な病因仮説の一つ、タンパク質分解の障害仮説に立脚して作製した運動ニューロン特異的プロテアソームノックアウトマウスは孤発性ALSに極めて類似した臨床経過と病理所見を示した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201122016B
報告書区分
総合
研究課題名
筋萎縮性側索硬化症患者由来疾患モデル細胞を用いた病態解明と治療法開発
課題番号
H21-こころ・一般-015
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 良輔(京都大学 大学院医学研究科・臨床神経学)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 治久(京都大学 iPS細胞研究所・臨床応用)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)のうち約10%を占める家族性ALSの主要な原因遺伝子であるSOD1は、変異SOD1蛋白が毒性を獲得することにより運動ニューロン変性を来たす。iPS細胞を用いた低分子化合物のハイスループットスクリーニングにより、SOD1の転写を抑制する化合物を見出し、モデル動物で効果を確認することにより、ALSの根本的治療法開発の道筋をつける。さらに治療薬効果判定に役立つような、蛋白分解障害仮説に基づいたALSモデルマウスを作製・解析する。
研究方法
ヒトアストロサイト系のH4株にヒトSOD1の遺伝子調節領域を含むゲノム断片にレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)を組み込んだコンストラクトを導入した細胞株を用い、レポーター遺伝子活性を低下させる分子を低分子化合物ライブラリーのスクリーニングで見出し、ALS患者から作製したiPS細胞、ALSモデルマウスでの効果を検証する。またCre-loxシステムで運動ニューロン特異的に26SプロテアソームサブユニットRpt3を欠損するマウスを作製・解析する。
結果と考察
ハイスループット・スクリーニング(HTS)系を確立し、120種類のヒット化合物を同定した。うち2つのヒット化合物の特徴的な化学構造を共通して持つ、既存薬Xが、運動ニューロン毒性を有するALS患者iPS細胞由来アストロサイトのSOD1の転写を抑制することを見出した。さらに、既存薬Xを変異SOD1G93Aトランスジェニックマウスに経口投与したところ、マウスの脊髄内SOD1発現量を減少させ、その運動ニューロン疾患症状の進行を遅延し、生存日数を延長した。一方、運動ニューロン特異的に26Sプロテアソームをノックアウトしたマウス作製に成功した。このマウスは進行性の運動機能低下を示し、細胞病理学的所見からも孤発性ALSのモデルになりうる。
結論
1)120種類のヒット化合物が得られ、既存薬XがSOD1の転写を抑制することを見出し、主要なALSモデルの一つである、変異SOD1トランスジェニックマウスに投与することで、治療効果を有することを見出した。
2)神経変性疾患の有力な病因仮説の一つ、タンパク質分解の障害仮説に立脚して作製した運動ニューロン特異的プロテアソームノックアウトマウスは孤発性ALSに極めて類似した臨床経過と病理所見を示した。

公開日・更新日

公開日
2012-08-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201122016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では家族性筋萎縮性側索硬化症(Familial ALS)の病因遺伝子産物である変異SOD1の転写を抑制する化合物をハイスループットスクリーニングで同定するという新しい発想・手法で、有効性が細胞レベルで示され、動物レベルで期待される既存薬の同定に成功した。この手法は他の神経変性疾患の治療薬開発にも広く応用できる。またプロテアソームを運動ニューロン特異的に欠損するマウスが孤発性ALSに酷似した病理所見を示したことは孤発性ALSの蛋白分解障害仮説を支持する新たな証拠を提供した。
臨床的観点からの成果
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対しては対症療法を含めても明らかな効果を示す薬剤が存在しない。ミスフォールド化したSOD1は孤発性ALSでも病態に関与する分子である可能性が指摘されており、SOD1の転写を抑制する化合物は家族性のみならず孤発性ALSの治療にも有用である期待が持てる。
また、運動ニューロン特異的プロテアソームノックアウトマウスはALS治療法開発のツールとなる期待が持てる。
ガイドライン等の開発
該当しない
その他行政的観点からの成果
本研究のステージとして、現在動物実験の段階であり、行政的観点で評価される前段階にある。
その他のインパクト
ALSモデルマウスの成果は論文未発表ではあるが、学会での口頭発表で注目され、2011年度日本Cell Death学会(会長:一條秀憲東大教授)のシンポジウム、厚労省神経変性疾患班会議ALS分科会(会長:祖父江 元名古屋大学教授)のワークショップに招待され、講演した。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
59件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi R
Edaravone in ALS. (commentary)
Exp Neurol. , 217 , 235-236  (2009)
原著論文2
Takeuchi H, Yanagida T, Inden M, et al.
Nicotinic receptor stimulation protects nigral dopaminergic neurons in rotenone-induced Parkinson's disease models.
J Neurosci Res. , 87 , 576-585  (2009)
原著論文3
Uemura K, Lill CM, Banks M, et al.
N-cadherin-based adhesion enhances Abeta release and decreases Abeta42/40 ratio.
J. Neurochem. , 108 , 350-360  (2009)
原著論文4
Kondo T, Inoue H, Usui T, et al.
Autoimmune autonomic ganglionopathy with Sjögren's syndrome: significance of ganglionic acetylcholine receptor antibody and therapeutic approach.
Auton Neurosci. , 16 , 174-182  (2009)
原著論文5
Ikeuchi K, Marusawa H, Fujiwara M, et al. et al.
Attenuation of proteolysis-mediated cyclin E regulation by alternatively spliced Parkin in human colorectal cancers.
Int J Cancer , 125 , 2029-2035  (2009)
原著論文6
Aoyagi N, Uemura K, Kuzuya A, et al.
PI3K inhibition causes the accumulation of ubiquitinated presenilin 1 without affecting the proteasome activity.
Biochem Biophys Res Commun. , 391 , 1240-1245  (2010)
原著論文7
Kawamoto Y, Ito H, Kobayashi Y, et al.
HtrA2/Omi-immunoreactive intraneuronal inclusions in the anterior horn from patients with sporadic and SOD1 mutant amyotrophic lateral sclerosis.
Neuropath Appl Neurobiol. , 36 , 331-344  (2010)
原著論文8
Matsui H, Ito H, Inoue H, Taniguchi Y, et al.
Proteasome inhibition in medaka brain induces the features of Parkinson disease.
J Neurochem , 115 , 178-187  (2010)
原著論文9
Hideyama T, Yamashita T, Suzuki T, et al.
Induced loss of ADAR2 engenders slow death of motor neurons from Q/R site-unedited GluR2.
J Neurosci , 30 , 11917-11925  (2010)
原著論文10
Matsui H, Ito H, Taniguchi Y, et al.
Ammonium chloride and tunicamycin are novel toxins for dopaminergic neurons and induced Parkinson’s disease-like phenotypes in medaka fish.
J Neurochem , 115 , 1150-1160  (2010)
原著論文11
Imai Y, Kanao T, Sawada T, et al.
The loss of PGAM5 suppresses the mitochondrial degeneration caused by inactivation of PINK1 in Drosophila.
Plos Genetics. (Epub Dec 2) , 6  (2010)
原著論文12
Ando K,Uemura K, Kuzuy A, et al.
N-cadherin regulates p38MAPK signaling via association with JLP:Implications for neurodegeneration in Alzheimer's disease.
J Biol Chem , 286 , 7619-7628  (2011)
原著論文13
Murakami G, Inoue H, Tsukita K, et al.
Chemical library screeningidentifies a small molecule that downregulates SOD1 transcription for drugs to treat ALS.
J Biomol Screen , 16 , 405-414  (2011)
原著論文14
Egawa N, Yamamoto K, Inoue H, et al.
The endoplasmic reticulum stress sensor, ATF6 {alpha}, protects against neurotoxin-induced dopaminergic neuronal death.
J Biol Chem. , 286 , 7947-7957  (2011)
原著論文15
Okamoto Y, Ihara M, Urushitani M, et al.
An autopsy case of SOD1-related ALS with TDP-43 positive inclusions.
Neurology , 77 , 1993-1995  (2011)
原著論文16
Okamoto Y, Shirakashi Y, Ihara M, et al.
Colocalization of 14-3-3 proteins with SOD1 in Lewy body-like hyaline inclusions in familial amyotrophic lateral sclerosis cases and the animal model.
PLoS One (e20427) , 6  (2011)
原著論文17
Ito H, Nakamura M, Komure O, et al.
Clinicopathologic study on an ALS family with a heterozygous E478G optineurin mutation.
Acta Neuropathol. , 122 , 223-229  (2011)
原著論文18
Ito H, Fujita K, Nakamura M, et al.
Optineurin is co-localized with FUS in basophilic inclusions of ALS with FUS mutation and in basophilic inclusion body disease.
Acta Neuropathol. , 121 , 555-557  (2011)
原著論文19
Inoue H
Neurodegenerative disease-specific induced pluripotent stem cell research.
Experimental Cell Research , 316 , 2560-2564  (2010)
原著論文20
Inoue H, Yamanaka S
The Use of Induced Pluripotent Stem Cells in Drug Development.
Clinical Pharmacology & Therapeutics , 89 , 655-661  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201122016Z