エイズ患者にみられる精神障害の有病率に関する疫学的研究

文献情報

文献番号
199700886A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ患者にみられる精神障害の有病率に関する疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福西 勇夫(東京都精神医学総合研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV患者は死の危険性の非常に高い疾患であるがゆえに、死への不安や恐怖を抱き、ともすれば絶望感から自殺願望に至ることもまれではない。身体的危機状況は、二次的に心理的危機状況を惹起する。一方、心理的危機状況時に介入を行い情緒面を安定化させることは、その後の臨床経過におけるストレス耐性を高めるのみならず、免疫系に少なからず好影響を与えることが示されつつある。HIV患者のストレス・マネ-ジメントを中心とした心理社会的介入による情緒的サポ-ト体制の確立はきわめて重要な研究課題のように思われる。そのためにも基礎的データとなる精神障害の有病率に関する研究は必要である。
研究方法
対象はそれら首都圏11病院におけるHIV患者179例であり、平均年齢は35.7(標準偏差11.7)歳、性別は男性159例、女性20例である。調査期間は1997年4月から1998年3月までの1年間である。調査に関する説明と同意(informed consent)が得られた後、精神医学的面接を行い、米国精神疾患診断基準(DSM-IV)に基づいて精神疾患の有無及び診断を行った。精神医学的面接はDSM-IVに基づく診断を十分に行える精神科医あるいは臨床心理士で行った。平均観察期間は11.0カ月。調査時期は、CDCの臨床病期分類に従うと、A(無症候性、急性HIVまたはPGL)は90例、B(無症候性A、あるいはCでない状態)は5例、C(エイズを示す臨床状態)は73例、不明11例となる。HIV陽性AIDS未発症は95例、HIV陽性AIDS発症は73例となる。さらにProfile of Mood States (POMS)を行い、情緒状態の定量化を行った。また内的感情状態の評価を、面接者がBeth Israel Hospital Questionnaire (BIQ)を用いて行った。さらに、CD4値などの身体医学的評価やソーシャル・サポートなどの心理社会的評価を行い、上述の結果との関連性を検討した。統計学的処理はMacintosh ComputerのStatisticaとStatviewを用いて行った。
結果と考察
精神障害は、AIDS発症前のStageAあるいはBの段階では95例中6例(6.3%)に、AIDS発症後のStageCの段階では73例中25例(34.2%)にそれぞれみられた。前者の6例の内訳は気分障害が3例、適応障害が2例、その他1例であり、HIV感染という事実による心理的反応がその大きな誘因になっているものと考えられた。後者の25例については、1例を除く24例が器質性精神障害であり、その原因はHIV中枢神経系感染による一次性障害、あるいはHIV感染による免疫障害を介した二次的障害のどちらかであった。確かにAIDS発症前の有病率は10%未満と一見低いように思われるが、POMSによる情緒状態の評価ではかなり不安定な情緒状態であり、このことはDSM-IVの精神障害の診断基準は満たさないレベルではあるが心理的サポートを必要とする不安定な状況であることを示唆する結果である。この結果は、これまでの欧米の先行研究の結果とほぼ同じ結果であり、AIDS発症後の免疫低下や中枢神経系感染は、かなりの高い率で精神障害を合併することを示唆している。
結論
HIV/AIDS患者に対する精神医学的、あるいは心理社会的サポートの必要性を強く示唆している結果と言える。

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