児童・思春期精神疾患の診療実態把握と連携推進のための研究

文献情報

文献番号
202218006A
報告書区分
総括
研究課題名
児童・思春期精神疾患の診療実態把握と連携推進のための研究
課題番号
20GC1019
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小枝 達也(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部)
  • 小倉 加恵子(国立成育医療研究センター)
  • 奥野 正景(医療法人サヂカム会 三国丘病院 精神科)
  • 西牧 謙吾(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,169,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子どもの心の診療に関する研修の内容を明らかにして、両者を比較することで、今後の研修の参考となる情報を抽出することを目的とする。また、カルテ調査では見えて来ない診療上の課題をインタビューにて抽出することを目的とする。
研究方法
1.子どもの心の診療研修に関する調査
 全国組織の精神科系、小児科系、心理系の学会や団体(日本精神神経学会、日本児童青年精神医学会、日本思春期青年期精神医学会、日本精神科病院協会、全国児童青年精神科医療施設協議会、日本児童青年精神科・診療所連絡協議会、日本小児精神神経学会、日本小児科学会、日本小児神経学会、日本小児心身医学会、日本小児科医会、日本公認心理士協会、日本臨床心理師会)が行っている子どもの心の診療研修に関する講演会やセミナーの抄録を収集して、テキストマイニングによるキーワードを抽出した。診療実態調査の結果と比較し、今後の研究の方向性を検討した。
2.専門医に対するインタビュー調査
 子どものこころの診療にかかわる精神科および小児科の専門医である、日本児童青年精神医学会、日本小児科学会、日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本小児心身医学会、日本小児科医会より、子どもの心の諸問題の診療に携わっている医師12名を推薦してもらい、下記のインタビューガイドに沿って、オンラインによるインタビューを行った。
インタビューガイド
1. 子どもの心の診療の中で、とくに工夫をして熱心に取り組んでいる疾患や状態についてお聞かせください。
2. 子どもの心の診療の中で、とくに工夫をして熱心に取り組んでいる関係機関との連携についてお聞かせください。
3. 別添資料で頻度が多いと示されている疾患・状態以外で、子どもの心の診療の中で、とくに困難を感じている疾患や状態についてお聞かせください。
4. 子どもの心の診療の中で、とくに困難を感じている関係機関との連携についてお聞かせください。
5. 子どもの心の診療の中で、未解決と感じている課題について(疾患、連携、医療制度など)お聞かせください。
6. その他、子どもの心の診療やその支援体制について、ご意見があればご自由にお願いいたします。
結果と考察
1.子どもの心の診療研修に関する調査
研修に関する201演題の抄録を収集した。文字化したデータ数は1,992,331であった。発達障害が1421、学校が1201、ASDが1145であり、突出して頻度が高かった。診療実態と比較したところ、ICD-10のF4(身体表現性障害等)が診療実態では22.9%であるのに対して、研修の割合では7.9%と少なかった。また関係機関との連携では診療実態では、福祉との連携が45.8%であるのに対して研修の割合では24.5%と少ないという結果であった。
2.専門医に対するインタビュー調査
精神科専門医からは、引きこもりの不登校、身体管理が必要な摂食障害、自殺企図や家庭内暴力などへの対応に苦慮していること、関係機関としては教育機関との連携に苦慮していることが語られた。
小児科専門医からは、一次から二次までの医療提供の役割があることや、心理社会的課題に対する本人・家族を中心としたアプローチとして関連する専門機関・施設と連携体制を構築しながら診療を実践していることが語られた。課題として診療医の精神疾患に対する診療技術の向上、精神科領域との役割分担と連携、患者と家族の関係性への指導、診療報酬上の評価が不十分であることが課題としてあげられた。
結論
1.子どもの心の診療研修に関する調査
診療実態と研修内容との比較から、疾患としてはF4の研修が少なく、連携としては福祉との連携に関する研修が少ないことが示唆された。
 学会や団体に結果を還元することで、診療実態に合わせた研修の実施が期待される。
2.専門医に対するインタビュー調査
専門医に対するインタビューにより、工夫をして熱心に取り組んでいる疾患や状態、関係機関との連携、その現状と課題があきらかとなった。精神科専門医、小児科専門医それぞれが抱える臨床上の課題を抽出することができた。こうした医療現場で挙げられた諸課題について情報を共有し、医療者の研修の充実や医療体制の構築に向けた検討の場が必要であると考えられた。
ただし、このインタビュー調査の時期がコロナ禍の時期であり、摂食障害の受診が増えていることが報告されている。家族の関係性で苦慮していることも、コロナ禍の影響を考慮する必要があると思われる。 

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-07
更新日
2023-09-13

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218006B
報告書区分
総合
研究課題名
児童・思春期精神疾患の診療実態把握と連携推進のための研究
課題番号
20GC1019
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小枝 達也(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター こころの診療部)
  • 小倉 加恵子(国立成育医療研究センター)
  • 奥野 正景(医療法人サヂカム会 三国丘病院 精神科)
  • 西牧 謙吾(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
児童思春期精神疾患の診療実態を明らかにするとともに、子どもの心の診療に関する研修の内容を明らかにして、両者を比較することで、今後の研修の参考となる情報を抽出することを目的とする。また、カルテ調査では見えて来ない診療上の課題をインタビューにて抽出することを目的とする。
研究方法
1.児童思春期精神疾患の診療実態に関する調査
児童思春期精神疾患や発達障害などの診療を行っている全国の100医療機関に対して、後ろ向きコホート調査として、半年ごとの受診状況などを5年間にわたって調べるカルテ調査を行った。また、子どもの心の診療ネットワーク事業参加自治体(21自治体)の拠点施設(29施設)と日本小児総合医療施設協議会加盟施設(36施設)、全国児童青年精神科医療施設協議会会員施設(35施設)に対して子どもの心の診療に関するアンケート調査を行った。
2.子どもの心の診療研修に関する調査
 精神科系、小児科系、心理系の学会や団体が行っている子どもの心の診療研修に関する講演会やセミナーの抄録を収集して、テキストマイニングによるキーワードを抽出した。診療実態調査の結果と比較し、今後の研究の方向性を検討した。
3.専門医に対するインタビュー調査
 子どものこころの診療にかかわる精神科および小児科の専門医である、日本児童青年精神医学会、日本小児科学会、日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本小児心身医学会、日本小児科医会より、子どもの心の諸問題の診療に携わっている医師12名を推薦してもらいオンラインによるインタビューを行った。
結果と考察
1.児童思春期精神疾患の診療実態に関する調査
カルテ調査では協力依頼をした100医療機関のうち44(44.0%)の医療機関の協力が得られ、1003症例の診療情報を収集した。初診時の平均年齢は11歳(±4.4歳)で、男女比は6:4であった。診断名では、F8心理的発達の障害がもっとも多く、次いでF4神経症性、ストレス関連障害および身体表現性障害や、F9小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害が多かった。これら3つの疾患群で患者総数の83%に達していた。平均治療継続期間は1.4年であり、対象者の47%が2年以上治療継続し、27%の対象者が5年以上治療継続していた。
アンケート調査では、診療の対象とする疾患群では、R468不登校が92%ともっとも多く、F7知的障害、F8心理的発達の障害、F9小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害(ICD-10のコード、以下同様)も90%近くの施設で診療されていた。
2.子どもの心の診療研修に関する調査
研修に関する201演題の抄録を収集した。文字化したデータ数は1,992,331であった。発達障害が1421、学校が1201、ASDが1145であり、突出して頻度が高かった。診療実態と比較したところ、ICD-10のF4(身体表現性障害等)が診療実態では22.9%であるのに対して、研修の割合では7.9%と少なかった。また関係機関との連携では診療実態では、福祉との連携が45.8%であるのに対して研修の割合では24.5%と少ないという結果であった。
3.専門医に対するインタビュー調査
精神科専門医からは、引きこもりの不登校、身体管理が必要な摂食障害、自殺企図や家庭内暴力などへの対応に苦慮していること、関係機関としては教育機関との連携に苦慮していることが語られた。
小児科専門医からは、心理社会的課題に対する本人・家族を中心としたアプローチとして関連する専門機関・施設と連携体制を構築しながら診療を実践していることが語られた。課題として診療医の精神疾患に対する診療技術の向上、精神科領域との役割分担と連携、患者と家族の関係性への指導、診療報酬上の評価が不十分であることが課題としてあげられた。
結論
1.児童思春期精神疾患の診療実態に関する調査
カルテ調査とアンケート調査により、児童期・思春期の精神疾患の概要を明らかにすることができた。とくに診療機関が2年を超え長きにわたっていること、他の関係機関と連携しながら医療を継続していることが明らかとなった。
2.子どもの心の診療研修に関する調査
診療実態と研修内容との比較から、疾患としてはF4の研修が少なく、連携としては福祉との連携に関する研修が少ないことが示唆された。
 学会や団体に結果を還元することで、診療実態に合わせた研修の実施が期待される。
3.専門医に対するインタビュー調査
専門医に対するインタビューにより、工夫をして熱心に取り組んでいる疾患や状態、関係機関との連携、その現状と課題があきらかとなった。
 こうした医療現場で挙げられた諸課題について情報を共有し、医療者の研修の充実や医療体制の構築に向けた検討の場が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-07
更新日
2023-09-13

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
児童・思春期の精神疾患の診療実態として、1003例のカルテ調査よりICD-10のF8、F9、F4の合計が83%であることを本邦で初めて明らかにした。また、初診患者の47%が2年以上に及ぶ診療継続となっている実態も初めて明らかにした。子どもの心の診療研修では発達障害、学校、ASDに関する項目が多いこと、診療実態との差異としてF4の研修が少ないことや福祉との連携に関する内容が少ないことを明らかにした。
臨床的観点からの成果
児童・思春期の精神疾患の診療実態として、発達障害、心身症、神経症が多いことから、これらの疾患への対応には精神科医および小児科医の幅広い参入が不可欠であると思われる。また、初診患者のおよそ半数が2年以上の診療継続となることから、安定した診療体制確保に向けた診療報酬改定の必要性が示された。
診療実態と研修実態の比較から、今後の診療研修の方向性が示された。
ガイドライン等の開発
とくになし
その他行政的観点からの成果
初診患者のおよそ半数が2年以上の診療継続となることから、安定した診療体制確保に向けた診療報酬改定の必要性が示された。この本研究の成果が、診療報酬改定の資料として中央社会保険医療協議会での資料として提供され、令和4年度より外来での通院精神療法にかかる加算の児童思春期精神科専門管理加算の算定期限2年が撤廃され、新たに2年を超えた場合の300点の診療報酬加算が算定できることとなった。
その他のインパクト
本研究を契機に子どもの心の診療研修連絡会が設立され、診療に関する研修の情報を共有するとともに、下記のURLにて国民に公開することとなった。
子どもの心の診療ネットワーク事業 https://kokoro.ncchd.go.jp/indexhtml/medical/training-information

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
本研究の成果が、診療報酬改定の資料として中央社会保険医療協議会での資料として提供されtた。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-09-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
202218006Z