ナノマテリアルの物理化学的性状を考慮した肺、胸腔及び全身臓器における有害性の評価ならびに新規in vitro予測手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
202126007A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの物理化学的性状を考慮した肺、胸腔及び全身臓器における有害性の評価ならびに新規in vitro予測手法の開発に関する研究
課題番号
20KD1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
内木 綾(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 実験病態病理学)
研究分担者(所属機関)
  • 戸塚 ゆ加里(日本大学 薬学部)
  • 梯 アンナ(大阪市立大学 大学院医学研究科)
  • 津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
19,897,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノサイズの金属・カーボン・有機物粒子・繊維状物質は非常に安定であり、吸入されると組織・細胞に長期間沈着する。従来の化学物質が、物質自体の代謝変換によって障害や発がんを誘発するのとは異なり、ナノマテリアルの障害性及び発がん性には、不可逆的な蓄積とそれに対する慢性的な炎症や異物反応が関与する。そのため、吸入暴露による実用的な健康影響評価手法を開発することは極めて重要である。申請者らはこれまでに、吸入暴露試験で発がん性を認めたMVCNT-7を含めた複数のカーボンナノチューブ(CNT)について、経気管肺内噴霧投与法(TIPS法)を用いた肺および中皮発がん性の検出に成功した。健康影響評価の一つのエンドポイントとして、遺伝毒性は有用な指標となることが知られており、近年環境要因の暴露に固有の体細胞変異のパターン(変異シグネチャー)が存在することが明らかになってきた。さらに、この変異シグネチャー情報を用いることで、化学物質が誘発する毒性のAdverse Outcome Pathway (AOP)を得ることも可能であることが示されている。本研究では、物性の異なるCNTsをモデル物質として、TIPS投与によるラット肺・胸膜中皮発がん性の有無、および発がん性の程度を規定する毒性機序を詳細に解明する。それにより求められたCNTのAdverse Outcome Pathway (AOP)を、吸入暴露試験に代替しうるナノマテリアルの健康影響評価試験法の考案に活用することを目的として行う。
研究方法
多層CNTs (MWCNT-7, MWCNT-N)と単層CNT (SWCNT)のF344ラットに対するTIPS投与による肺と胸膜中皮に対する障害性および発がん性について、投与後4週、13週後における酸化的DNA障害、増殖活性や遺伝子発現変化と52週、104週後に発生する腫瘍性病変などとの関連を解析する。また次世代シークエンサー (NGS)によりCNT発がんに関与する変異シグネチャーを同定し、CNTの物性(層数、形状や鉄含有量)と照合することにより、発がんに寄与する責任因子を推定する。また、同定した遺伝子変化の情報を用いて、CNTのAdverse Outcome Pathway(AOP)を構築し、有害性評価指標として応用可能で信頼の高いものを選出する。また、In vivoで得られた酸化的DNA障害、増殖活性や遺伝子変化等について、マクロファージ細胞や肺オルガノイド等に対するCNT暴露によるin vitro系においても共通して確認される変化を抽出することにより、短期・簡便な試験法における評価指標に応用可能なAOPを得る。
結果と考察
In vivoではこれまでに、亜急性 (4週)および亜慢性 (13週) 毒性についてサンプルを回収し解析した。その結果、MWCNT-7, MWCNT-N投与により、肺胞上皮の8-OHdG形成レベルとDNA損傷マーカー陽性率が有意に上昇し、肺胞上皮および胸膜中皮の増殖活性が増加したのに対し、SWCNTによる有意な変化は見られなかった。またケモカイン (Ccl2、Ccl3、Ccl9)の肺mRNA発現は、それらの因子と相関して変動した。In vitroにおいても、MWCNTsはマクロファージ細胞による活性酸素種の産生を誘導するのに対し、SWCNTでは誘導されなかった。さらに肺オルガノイドを用いて、CNT暴露による毒性変化を解析中である。またCNTのAOPまたは発がん要因の解明に有用と考えらえる変異シグネチャーについては、既存のMWCNT-7誘発ラット胸膜中皮腫サンプル(FFPE)を用いて、ゲノムDNAの抽出が完了した。引き続き全ゲノム解析を実施している。
結論
MWCNT-7, MWCNT-Nと肺発がん性が未知のSWCNTをTIPS投与し、亜急性 (4週)および亜慢性毒性 (13週)まで解析した結果、酸化的DNA損傷と細胞増殖活性化はCNTによるAOPとして重要で、発がん機序に強く関与すること、また発がん性の短期予測指標になりえる可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2022-07-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-07-13
更新日
-

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収支報告書

文献番号
202126007Z