日本人認知症ゲノム解析を出発点としたオミックス-臨床情報統合解析による疾患関連パスウェーイの解析から診断、治療への応用

文献情報

文献番号
202017003A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人認知症ゲノム解析を出発点としたオミックス-臨床情報統合解析による疾患関連パスウェーイの解析から診断、治療への応用
課題番号
H30-認知症-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 浩一(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 新飯田 俊平(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
  • 重水 大智(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,733,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
孤発性アルツハイマー型認知症(LOAD)は環境と遺伝因子が複雑に関与して発症することが知られており、これまでに欧米を中心としてADのゲノムワイド関連解析(GWAS)が大規模に施行され疾患関連座位群が同定されているが、日本人において同様のオッズ比を持って再現されたのはわずか数座位にとどまっている。本研究では国立長寿医療研究センターバイオバンク(NCGGバイオバンク)等によりリクルートされた日本人被験者のサンプルを用いて、アジア人に特化した全ゲノムジェノタイピングプラットフォームによる大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)や次世代シークエンサーを駆使した全RNA配列解析からの遺伝子発現、バリアント(スプライシング等を含む)情報等といったオミックス解析情報を遺伝統計学的に統合することによる疾患の真の遺伝的バリアント、ゲノム領域、関連機能の同定、解析から創薬ターゲットの探索、正確な疾患発症予測法の開発に寄与することを目的とする。
研究方法
ジャポニカアレイを用いたGWASにより同定した新規有意座位(P < 5 x 10-6)についてはマルチプレックスPCR-インベーダー法を用いてLOAD 1,216例、コントロール2,446例を用いた再検証解析を施行した。ト。全RNA解析についてはNCGGバイオバンクのバフィーコートより高純度のRNAを抽出し、全RNA配列解析用ライブラリ作製キットを用いて、高精度のRNAライブラリを構築した。全RNA配列解析については外注にてデータを得た。遺伝子発現による好中球を含む12免疫細胞のサンプルでの割合の算出はCIBERSOTプログラムを使用した。SHARPIN遺伝子におけるターゲット再配列解析をLOAD 240例、コントロール 240についてサンガーシークエンス法により行った。同定したSHARPINバリアントの機能解析として、正常、バリアントタンパクでの細胞内局在の違いはHEK293細胞正常及びバリアントタンパクを強制発現し免疫染色により蛍光顕微鏡により行った。
結果と考察
ジャポニカアレイを用いた民族特異的GWASの新たなサンプルによる検証解析を経て、第4番染色体上のFAM47E遺伝子内に存在するバリアントがGWAS有意性(P < 10-8)を示すことが判明した。ト欧米人、日本人における民族間メタGWASを通した解析では新たに第6番染色体上OR2B2遺伝子上のバリアントがGWAS有意性を持ってLOADに関連することを発見した。民族特異的及び民族間のゲノムワイド関連解析が疾患遺伝子同定に有用であることを示した。一方、末梢血バフィーコート(主に白血球細胞)から全RNAを抽出し、全配列解析を次世代シークエンサーにより進め、好中球の細胞数がLOADで増加することを発見している。さらに遺伝子発現情報等を用いた機械学習を施行し軽度認知障害からADへの移行を予測できるAD症予測モデルを前向きコホートでAUC 0.727の正確性をもって構築した。LOAD関連SHARPIN遺伝子については新たなバリアントを発見し機能的であることを確認し、これらの結果は複数のバリアントがコードするSHARPINの機能変化がLOADの発症に関与することを裏付けた。更なるSHARPINの機能的解明から創薬ターゲットの発掘につながる可能性がある。
結論
日本人に特化したLOAD GWASと欧米人LOAD GWAS結果も加味したトランスエスニックメタ解析及びその再検証解析を通して新たにGWAS 有意性を持つ新たなLOAD感受性FAM47E遺伝子座位及びOR2B2遺伝子座位、示唆的な有意性を持つ新たな9座位を同定した。これらはこれまでの欧米における大規模解析で見つかったものではなく、日本人に特異的あるいは日本人で影響が強いLOAD感受性座位であると考えることができる。LOAD、軽度認知障害患者および正常人の末梢血バフィーコートからの全RNA配列解析からは好中球量のLOAD発症への関連が発見されると共に遺伝子発現差異による新たなハブ遺伝子群とそれらの情報を用いた機械学習から正確な疾患予測モデルの構築が可能になることが示され臨床応用に繋がる知見が得られた。また本研究で同定したLOAD関連SHARPIN分子の更なる解析は創薬ターゲット探索に有用であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202017003B
報告書区分
総合
研究課題名
日本人認知症ゲノム解析を出発点としたオミックス-臨床情報統合解析による疾患関連パスウェーイの解析から診断、治療への応用
課題番号
H30-認知症-一般-004
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
尾崎 浩一(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター 臨床ゲノム解析推進部)
研究分担者(所属機関)
  • 新飯田 俊平(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
  • 重水 大智(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー型認知症については治療法がなく、様々な薬剤の臨床治験が進められているが未だ成果が上がっていないのが現状であり、根本的な疾患の原因を突き止めてエビデンスに基づく創薬やドラッグリポジショニング、早期予知による発症の阻止を目指すことが必要となる。認知症は疫学研究により遺伝因子の重要性(遺伝率60~80%)が強く浮かび上がってきている。このような背景のもと、日本人ゲノム構造に特化したゲノム解析が疾患の根本的な原因究明に重要になるとともに、臨床情報等も加味してその機能的な側面を解明することがエビデンスに基づく診断、治療の開発に必要になる。本研究では日本人、アジア人に特化した全ゲノムジェノタイピングプラットフォームによる大規模ゲノムワイド関連解析(GWAS)やそのメタ解析、全エクソーム、全ゲノム、全RNA配列解析による網羅的な疾患感受性遺伝子の同定を出発点として、これらオミックス解析情報を遺伝統計学的に統合することによる真の疾患関連分子情報を用いた機械学習等によるin silicoでの疾患感受性分子生体内パスウェーイの解明を進め、ドラッグリポジショニング等の迅速な治療薬、予防薬の発見に繋がる解析を目的とする。
研究方法
国立長寿医療研究センター・メディカルゲノムセンター・バイオバンク(NCGGバイオバンク)、新潟大学脳研究所およびバイオバンクジャパンによりリクルートされた認知症及びコントロールサンプルを用いて解析を行った。ジェノタイピングはアジアスクリーニングアレイ(ASA)およびジャポニカアレイによるジェノタイピングを施行した。全RNA解析についてはNCGGバイオバンクのバフィーコートより高純度のRNAを抽出し、イルミナ社の全RNA配列解析用ライブラリ作製キットを用いて、高精度のRNAライブラリを構築した。全RNA配列解析については外注にてデータを得た。全エクソーム解析は202例のAPOE e4 ADリスクアレルを持たないAD患者由来DNAについて配列決定をおこなった。SHARPINバリアントの機能解析として、正常、バリアントタンパクでの細胞内局在の違いはHEK293細胞を用いた免疫染色により蛍光顕微鏡を用いて行った。NFkBの活性に与えるバリアントの影響については、安定的にルシフェラーゼ遺伝子を発現するHEK293細胞を構築し、この細胞に正常およびバリアントタンパクを強制発現することにより行った。
結果と考察
日本人における認知症に関してDNA検体約22,700例についてASA、ジャポニカアレイによるジェノタイプデータおよび998例のバフィーコートからの全RNA配列の蓄積、データベース化、大規模ゲノム解析を遂行してきた。最も強い孤発性アルツハイマー病(LOAD)のリスク遺伝因子であるAPOE e4 アレル頻度について、1000ゲノムデータ、NCGGデータを用いて比較した。NCGGのAD(NCGG AD)サンプルにおける4頻度が日本人コントロールJPT(1000ゲノムデータ、東京在住日本人)およびNCGGコントロール(NCGG CO)に比べて有意に高いことが認められるが、1000ゲノムデータより得られたアフリカ人のe4頻度がさらに高いことが印象的である。末梢血バフィーコート(主に白血球細胞)から全RNAを抽出し、全配列解析を次世代シークエンサーにより進めてきたが、これらの情報を用いた機械学習によって軽度認知障害からADへの移行を予測できるAD症予測モデルを再検証セットでAUC 0.878、前向きコホートでAUC 0.727の正確性をもって構築し臨床応用への道が開けている。我々が初めて日本人でLOADとの関連を同定したSHARPINについては複数の機能的バリアントがLOADに関連することが判明している。
結論
日本人認知症ゲノムに関するデータベースの構築も進めてきた。これあのデータを広く共有することにより更なる研究の進展、疾患の解明が進むことが期待できる。これあのデータを用いた民族に特化したLOADのGWASを通して新たに11個の疾患感受性染色体領域を同定した。これらはこれまでの欧米における大規模解析で見つかったものではなく、日本人に特異的あるいは日本人で影響が強いLOAD感受性座位である。今後の更なる大規模化により遺伝率を占める遺伝因子群を同定し疾患の全容解明に繋げることができると同時に遺伝因子群を用いた疾患発症の正確な早期予測のためのポリジェニックリスクスコアの構築も可能となる。ゲノムを基盤としたオミックス統合解析から真の疾患感受性パスウェーイの同定、分子機能の解明、それらの情報を用いた機械学習などから正確度の高い疾患予測モデルの構築やエビデンスに基づく創薬へと発展させることができる。

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-10-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202017003C

収支報告書

文献番号
202017003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,452,000円
(2)補助金確定額
7,452,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,405,870円
人件費・謝金 0円
旅費 219,750円
その他 2,107,380円
間接経費 1,719,000円
合計 7,452,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2022-02-24
更新日
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