乳がん検診の適切な情報提供に関する研究

文献情報

文献番号
202008002A
報告書区分
総括
研究課題名
乳がん検診の適切な情報提供に関する研究
課題番号
H30-がん政策-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
笠原 善郎(福井県済生会病院 乳腺外科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 昭彦(東北医科薬科大学乳腺内分泌外科)
  • 植松 孝悦(静岡がんセンター 乳腺画像診断科 兼 生理検査科)
  • 角田 博子(聖路加国際病院放射線科)
  • 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部検診実施管理研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,457,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳腺が多く脂肪が少ない高濃度乳房の人では、乳がんの検出感度が低い傾向にある。本研究では3年間で対策型乳がん検診における乳房の構成に関する適切な情報提供プロセスを構築することを目的とし、3年目の研究を施行した。
研究方法
第22回がん検診のあり方に関する検討会では、乳がん検診における「高濃度乳房」への対応に関してa.高濃度乳房に対しても高い感度で実施できる検査方法について検討してはどうか、b.高濃度乳房の判定基準の検討を行ってはどうか、c.高濃度乳房の実態調査をしてはどうか、d.受診者が高濃度乳房を正しく理解できるよう通知すべき標準的な内容を明確にしてはどうか、e.検診実施機関において受診者に対してあらかじめ乳房の構成の通知に関する希望の有無について把握してはどうかの5点が今後の対応の方向性(案)として示された。研究班ではこれらの対応の方向性に対応し、1-2年目に各課題に対応した研究を実施してきたが、3年計画の最終年度も同様の研究を継続した。
結果と考察
乳房構成の通知の試行に関しては、研究3年度目は福井県下12市町村を対象に前年度の方法をやや簡略化し、平成29年度厚生労働科学特別研究事業「乳がん検診における乳房の構成(高濃度乳房を含む)の適切な情報提供に資する研究」班にて作成された「「高濃度乳房についての質問・回答集」(以下QA集とする)の直接配布を止め、抜粋版を使用しQRコードで参照可能なシステムを導入して実施し、大きな混乱なく通知可能であった。現在通知のあり方については市町村の判断に任されているが、米国や欧州の一事例をもって国全体の対策に反映するのではなく、本研究で示した「乳房構成を通知する際の留意事項」を参考に十分に通知体制を整備した上でQA集に基づいた対応で実施を考慮するべきである。
本研究によって討議された乳房構成の判断基準に関する「乳房構成判定アトラス」が示され、マンモグラフィガイドライン第4版にも反映された。また、今年度より乳癌検診学会全国集計に乳房構成の登録システムが組み込まれ、乳房構成の全国規模での把握が可能となった。以上により今後乳房構成の判定の均てん化が推進され、乳がん検診の精度管理のさらなる向上が期待される。
マンモグラフィに乳房超音波検査を付加する意義に関しては、高濃度・非高濃度乳房に限らず乳房超音波検査追加の感度上昇を認めた。一方で特に高濃度群で要精検率の上昇を認め不利益の増大が示唆され今後のさらなる検討が必要である。
乳がん検診に関する受診者への情報提供や啓発の在り方に関しては、乳房構成の説明の観点では高濃度・非高濃度に二分して述べるのではなく、高濃度乳房に関する課題をマンモグラフィの「偽陰性問題」としてとらえ受診者に情報提供を行い理解を得ることが重要である。情報には結果的に生じる偽陰性例の対策の一つとして、従来の自己触診に替わり「ブレスト・アウェアネス(乳房を意識する生活習慣)」を含めることを推奨する。一般女性を含め乳がん検診関係者にも、科学的根拠に基づく乳がん検診の認知度に加えブレスト・アウェアネスの認知度は十分とは言えず、今後の乳がん対策としてブレスト・アウェアネスの啓発、促進が課題である。
結論
上記結果を活用することで、乳房構成の判定と集計に関しては、今後アトラスを参照することにより判定の精度向上が得られ、全国集計が可能となった事により精度管理向上と均てん化に寄与すると考える。実施市町村は「乳房構成を通知する際の留意事項」を参考に地域にあった情報提供のあり方を構築でき、今回の研究班でえられえた成果に関しても順次HPで公開することで、乳がん検診の正しい理解やブレスト・アウェアネスの啓発が推進されると考える。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202008002B
報告書区分
総合
研究課題名
乳がん検診の適切な情報提供に関する研究
課題番号
H30-がん政策-指定-001
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
笠原 善郎(福井県済生会病院 乳腺外科)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 昭彦(東北医科薬科大学 乳腺内分泌外科)
  • 植松 孝悦(静岡がんセンター 乳腺画像診断科 兼 生理検査科)
  • 角田 博子(聖路加国際病院 放射線科)
  • 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部検診実施管理研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳腺が多く脂肪が少ない高濃度乳房の人では、乳がんの検出感度が低い傾向にある。本研究では3年間で対策型乳がん検診における乳房構成に関する適切な情報提供プロセスを構築することを目的とした。
研究方法
第22回がん検診のあり方に関する検討会では、乳がん検診における「高濃度乳房」への対応に関して、a.高濃度乳房に対しても高い感度で実施できる検査方法の検討、b.高濃度乳房の判定基準の検討、c.高濃度乳房の実態調査、d.受診者が高濃度乳房を正しく理解できるよう通知すべき標準的な内容の検討、e.検診実施機関での受診者の乳房構成の通知希望の有無について把握すること5点が今後の対応の方向性として示されたため、これらの課題に対応した研究を実施した。
結果と考察
先行研究(平成29年度厚生労働科学特別研究事業「乳がん検診における乳房の構成(高濃度乳房を含む)の適切な情報提供に資する研究」)により「「高濃度乳房についての質問・回答集」(以下QA集とする)が示されたため、全国市町村でのQA集の使用状況を調査するとともに、QA集を用いて県レベルで乳房構成の通知の試行を実施しその結果をもとに「乳房構成を通知する際の留意事項」を示した。通知に関する世界の状況は、通知が法制化されているのは米国および西オーストラリア州でのみで、欧州など他の地域では通知されていなかった。乳房構成の判断基準に関しては、エキスパートによる判定基準の作成、妥当性評価の後に「乳房構成判定アトラス」を作成し、この内容はマンモグラフィガイドライン改訂第4版にも反映された。乳房構成の全国集計に関しては、乳癌検診学会全国集計委員会と共同し乳房構成の登録システムを構築し、最終年度には乳房構成の全国規模でのデータが収集された。マンモグラフィに乳房超音波検査を付加する意義に関しては、高濃度・非高濃度乳房に限らず乳房超音波検査追加の感度上昇を認めた。高濃度乳房に限らず、乳がん検診の結果に生じる偽陰性例に対する受診者への働きかけとして「ブレスト・アウェアネス」(乳房を意識する生活習慣)について検討し、その啓発が重要であるが、認知度はまだ低い現状を確認し、研究班としてその定義と実施要点などを示した。
結論
乳がん検診に関する受診者への情報提供や啓発の在り方に関しては、乳房構成の説明の観点では高濃度・非高濃度に二分して述べるのではなく、高濃度乳房に関する課題をマンモグラフィの「偽陰性問題」としてとらえ受診者に情報提供を行い理解を得ることが重要である。現在通知のあり方については市町村の判断に任されているが、米国や欧州の一事例をもって国全体の対策に反映するのではなく、本研究で示した「乳房構成アトラス」に基づいて乳房構成を判定し、その結果を全国集計にも登録することが望まれる。市町村が乳房構成を通知する際は「通知する際の留意事項」を参考に十分に通知体制を整備した上で、QA集に基づいた対応で実施を考慮するべきである。マンモグラフィに乳房超音波検査を付加する意義に関しては、高濃度・非高濃度乳房に限らず感度の上昇を認めるものの高濃度群で要精検率の上昇を認め利益・不利益の観点からの今後のさらなる検討が必要である。受診者への情報提供については結果的に生じる偽陰性例の対策の一つとして、従来の自己触診に替わりブレスト・アウェアネスを推奨し、その定義や従来の自己触診との相違について研究班内での意見をまとめ示した。ブレスト・アウェアネスの啓発は新型コロナ感染症での受診者減少への対策の一助にもなる可能性が期待されが、その認知度はまだ低く今後関係学会などが協力してその啓発・普及に努める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202008002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
乳がん検診の精度管理の面では、今後乳房構成判定アトラス及びマンモグラフィによる乳がん検診の手引きー精度管理マニュアルー第8版を参照することによりその判定及び実施の精度向上が得らる。
市町村は「がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針の一部改正」に対応する際、下記の精度管理マニュアル等を参考にし、地域にあった検診実施体制を構築できる。
受診者に対して、乳がん検診の正しい理解やブレスト・アウェアネスの啓発が推進される。
臨床的観点からの成果
高濃度乳房に関する理解や乳房構成の判定は乳がん診療の臨床の局面でも必須な知識であり、その理解に資する。
今後のがん予防重点健康教育の側面からブレスト・アウェアネスは重要な概念であり、今後の啓発に資する成果である。

ガイドライン等の開発
1.マンモグラフィガイドライン改訂第4版(医学書院、東京)に研究班で作成した乳房構成判定基準が盛り込まれた。
2,患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年度版(金原出版、東京)Q5に高濃度乳房、ブレスと・アウェアネスの内容が盛り込まれた。
3.マンモグラフィによる乳がん検診の手引きー精度管理マニュアルー第8版(日本医事新報社、東京) に第9章「マンモグラフィ検診の偽陰性と高濃度乳房問題について」、第10章「ブレスト・アウェアネス」が記載された。
その他行政的観点からの成果
第29回、32回がん検診のあり方に関する検討会(2019年11月13日、2021年3月17日)にて当研究班の報告を行った。市町村における乳房構成通知の現状や問題点を報告するともに、乳房構成を通知する際の留意事項、ブレスト・アウェアネスの定義や実施要点などを提示した。
令和3年10月1日付の厚生労働省健康局長通知「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針の一部改正について」にこれまでの自己触診の記載に変わって「ブレスト・アウェアネス」が記載、盛り込まれた。
その他のインパクト
高濃度乳房に関する話題はしばしばマスコミに取り上げられた。
第29回乳癌検診学会 会長講演にて、研究代表者が高濃度乳房の対応について言及した。
第32回乳癌検診学会にて「ブレスト・アウェアネス~知識と意義を行動へ」の特別企画のもと議論が行われ、会長からの提言がなされた。

発表件数

原著論文(和文)
17件
別添4 研究成果の刊行に関する一覧表参照
原著論文(英文等)
3件
別添4 研究成果の刊行に関する一覧表参照
その他論文(和文)
8件
別添4 研究成果の刊行に関する一覧表、書籍の欄参照
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
52件
別添3総合研究報告書 学会発表参照
学会発表(国際学会等)
3件
別添3総合研究報告書 学会発表参照
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
29件
東京都乳がん検査従事者講習会で4回講演あり。その他、沖縄県、山梨県、埼玉県、神奈川県、福岡県、福井県、石川県、新潟市、和歌山市、横浜市、三鷹市等で検診関係者に研究代表者、研究分担者が講演実施した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
笠原 善郎
乳房構成に関する情報提供のあり方について
日本乳癌検診学会誌 , 30 (1) , 23-27  (2021)
原著論文2
笠原善郎
マンモグラフィ検診の偽陰性の観点から見た高濃度乳房問題 乳房構成に関する情報提供について
公衆衛生 , 84 (3) , 188-193  (2021)
原著論文3
植松孝悦
ブレスト・アウェアネス
乳癌の臨床 , 35 (4) , 273-278  (2021)
原著論文4
植松孝悦
高濃度乳房による検診マンモグラフィ偽陰性問題の正しい対応はブレスト・アウェアネスの啓発です
日本乳癌検診学会誌 , 30 , 29-33  (2021)
原著論文5
松本 綾希子, 高橋 宏和, 角田 博子、他
コロナウイルスの流行が乳がん検診受診意図に与えた影響について
日本乳癌検診学会誌 , 30 , 55-59  (2021)
原著論文6
植松孝悦, 笠原善郎, 鈴木昭彦, 他
ブレスト・アウェアネス
日本乳癌検診学会誌 , 29 (1) , 27-33  (2020)
原著論文7
3. 笠原 善郎 宇佐美 伸 辻 一郎 他
第12回全国集計報告―事業評価の観点から―
日乳癌検診学会誌 , 32 (1) , 67-76  (2023)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2024-05-24

収支報告書

文献番号
202008002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,481,000円
(2)補助金確定額
5,481,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,458,959円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 2,998,360円
間接経費 1,024,000円
合計 5,481,319円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-16
更新日
-