ICT・AI技術を活用した医療情報・ビッグデータ(腎臓病データベース)解析技術の開発と医療の質向上への貢献

文献情報

文献番号
202003004A
報告書区分
総括
研究課題名
ICT・AI技術を活用した医療情報・ビッグデータ(腎臓病データベース)解析技術の開発と医療の質向上への貢献
課題番号
19AC1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
柏原 直樹(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 南学 正臣(東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)
  • 大江 和彦(東京大学医学部附属病院 企画情報運営部)
  • 岡田 美保子(一般社団法人医療データ活用基盤整備機構)
  • 片岡 浩巳(川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床検査学科)
  • 神田 英一郎(川崎医科大学 医学部)
  • 丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
11,228,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎疾患患者は年々増加傾向にある。加齢に伴い腎機能は低下するため、超高齢化社会である本邦では一層の増加が危惧される。平成30年末には約33万人が透析療法を受けているが、心不全等の各種合併症のため、生命予後は必ずしも良好ではない(死因の第7位)。透析医療費は総額約1.8兆円(平成26年)に上り、医療財政の圧迫要因ともなっている。腎臓病の有効な予防、治療法開発、正確でより精緻な予後予測法の確立は喫緊の課題である。これに対し厚労省健康局では「腎疾患対策検討会(座長:柏原直樹)」を立ち上げ、今後10年間で新規導入患者数を10%低減させることを目標としている。この目標を達成すべく日本腎臓学会(JSN)は日本医療情報学会(JAMI)と共同し、厚労省臨床効果データベース事業として全国規模の包括的慢性腎臓病(CKD)臨床効果情報データベース(J-CKD-DB)の構築に着手した。本研究はJ-CKD-DB及び縦断データベースであるJ-CKD-DB-Exを用いて、腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的とする。
研究方法
本研究事業ではJ-CKD-DB(2014年単年度)及びJ-CKD-DB-Ex(2014年~2018年度末、5年間)を使用し解析を行う。参加施設にてSS-MIX2標準化ストレージから検査データ、薬剤情報等を自動抽出する。SS-MIX2標準化ストレージは、データを格納するための仕様と共に、病院情報システムにおけるメッセージ(オーダ)の形式としてHL7 V2.5を指定、医薬品についてはHOTコード、臨床検査についてはJLAC10コードを標準としている。施設で匿名化処理を行ったデータを可搬媒体に出力し、J-CKD-DB事務局に送付、事務局からデータベース化を行う。抽出基準・期間:CKD患者としてeGFR 60mL/分/1.73㎡未満またはタンパク尿(+)に該当する患者データを抽出。J-CKD-DBは2014年単年度データベースであり、J-CKD-DB-Exは 2014年以降の縦断データベースとして抽出している。
結果と考察
J-CKD-DBは令和2年3月末まで全国15病院、14万8千人以上に及ぶ大規模なCKDデータベースとなった。縦断データベースであるJ-CKD-DB-Exは5施設で抽出作業、10施設で倫理審査が終了した(15万人超)。開発を通じ多くの課題を解決してきた。多くの施設がローカルコードのみで運用しており標準コードは整備されていなかったため、他施設でのデータ突合ができなかった。多くの施設でコードの対応付け作業が発生したが、ほぼ全て終了した。これらの課題解決によりJ-CKD-DB解析が可能となり、本邦における腎疾患診療の実態を解析可能となった。
男女別、年齢層毎のCKD各ステージ有病率を解析し論文化した。男性で60歳以上、女性で65歳以上になるとG3b以降のCKD患者が増加することが示された。アルブミン尿、蛋白尿の年齢層別の解析では、GFRと異なり若年層に蛋白尿の多い群が存在することが判明した(Sci Rep. 2020 Apr 30;10(1):7351.)。
CKDにおける血清カリウム値の管理状況、高カリウム血症のリスク因子の解析も実施した(論文投稿中)。また腎性貧血の有病率と治療実態を解析し論文を発表した。さらに以下の検討を行っている。腎予後規定因子の同定:微量元素である亜鉛に着目し解析した。傾向スコアを使用した解析で低亜鉛血症が腎代替療法導入及び死亡のリスクであると示され論文化した。
新規薬剤についてランダム化二重盲検試験(RCT)が実施され、良好な結果が示されている。RCTでは限定された患者を対象としており、広く実臨床で効果が再現できるか、安全性が担保できるかは不明である。J-CKD-DB-Exはリアルワールドデータ(RWD)であり、RCTの不足点を補完するデータを得ることができる。SGLT2阻害薬は複数のRCTで腎保護効果が示された。J-CKD-DB-Exでその効果を検証したところ、同様の効果を示すことができた(論文投稿中)。
結論
EHRから15施設、14万8千件以上に及ぶ大規模な全国規模のCKDデータベース(J-CKD-DB)を構築した。その活用により本邦における腎臓病の実態、診療様態の解析が可能となった。RWDから生成したJ-CKD-DB及びJ-CKD-DB-Exによりデータ駆動型研究も可能となる。今後、本DBの利活用を促進し、医療の質向上・健康寿命延伸に資する更なるエビデンスを確立することを目指す。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2022-03-02

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2021-07-06

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202003004B
報告書区分
総合
研究課題名
ICT・AI技術を活用した医療情報・ビッグデータ(腎臓病データベース)解析技術の開発と医療の質向上への貢献
課題番号
19AC1002
研究年度
令和2(2020)年度
研究代表者(所属機関)
柏原 直樹(学校法人川崎学園 川崎医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 南学 正臣(東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科)
  • 大江 和彦(東京大学医学部附属病院 企画情報運営部)
  • 岡田 美保子(一般社団法人医療データ活用基盤整備機構)
  • 片岡 浩巳(川崎医療福祉大学 医療技術学部 臨床検査学科)
  • 神田 英一郎(川崎医科大学 医学部)
  • 丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎疾患患者は年々増加傾向にある。加齢に伴い腎機能は低下するため、超高齢化社会である本邦では一層の増加が危惧される。平成30年末には約33万人が透析療法を受けているが、心不全等の各種合併症のため、生命予後は必ずしも良好ではない(死因の第7位)。透析医療費は総額約1.8兆円(平成26年)に上り、医療財政の圧迫要因ともなっている。腎臓病の有効な予防、治療法開発、正確でより精緻な予後予測法の確立は喫緊の課題である。これに対し厚労省健康局では「腎疾患対策検討会(座長:柏原直樹)」を立ち上げ、今後10年間で新規導入患者数を10%低減させることを目標としている。この目標を達成すべく日本腎臓学会(JSN)は日本医療情報学会(JAMI)と共同し、厚労省臨床効果データベース事業として全国規模の包括的慢性腎臓病(CKD)臨床効果情報データベース(J-CKD-DB)の構築に着手した。本研究はJ-CKD-DB及び縦断データベースであるJ-CKD-DB-Exを用いて、腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的とする。
研究方法
本研究事業ではJ-CKD-DB(2014年単年度)及びJ-CKD-DB-Ex(2014年~2018年度末、5年間)を使用し解析を行う。参加施設にてSS-MIX2標準化ストレージから検査データ、薬剤情報等を自動抽出する。SS-MIX2標準化ストレージは、データを格納するための仕様と共に、病院情報システムにおけるメッセージ(オーダ)の形式としてHL7 V2.5を指定、医薬品についてはHOTコード、臨床検査についてはJLAC10コードを標準としている。施設で匿名化処理を行ったデータを可搬媒体に出力し、J-CKD-DB事務局に送付、事務局からデータベース化を行う。抽出基準・期間:CKD患者としてeGFR 60mL/分/1.73㎡未満またはタンパク尿(+)に該当する患者データを抽出。J-CKD-DBは2014年単年度データベースであり、J-CKD-DB-Exは 2014年以降の縦断データベースとして抽出している。
結果と考察
J-CKD-DBは令和2年3月末まで全国15病院、14万8千人以上に及ぶ大規模なCKDデータベースとなった。縦断データベースであるJ-CKD-DB-Exは5施設で抽出作業、10施設で倫理審査が終了した(15万人超)。開発を通じ多くの課題を解決してきた。多くの施設がローカルコードのみで運用しており標準コードは整備されていなかったため、他施設でのデータ突合ができなかった。多くの施設でコードの対応付け作業が発生したが、ほぼ全て終了した。これらの課題解決によりJ-CKD-DB解析が可能となり、本邦における腎疾患診療の実態を解析可能となった。
男女別、年齢層毎のCKD各ステージ有病率を解析し論文化した。男性で60歳以上、女性で65歳以上になるとG3b以降のCKD患者が増加することが示された。アルブミン尿、蛋白尿の年齢層別の解析では、GFRと異なり若年層に蛋白尿の多い群が存在することが判明した(Sci Rep. 2020 Apr 30;10(1):7351.)。また腎性貧血の有病率と治療実態を解析し論文発表した。さらに以下の検討を行っている。腎予後規定因子の同定:微量元素である亜鉛に着目し解析した。傾向スコアを使用した解析で低亜鉛血症が腎代替療法導入及び死亡のリスクであると示され論文化した。CKDにおける血清カリウム値の管理状況、高カリウム血症のリスク因子の解析も実施した(論文投稿中)。新規薬剤についてランダム化二重盲検試験(RCT)が実施され、良好な結果が示されている。RCTでは限定された患者を対象としており、広く実臨床で効果が再現できるか、安全性が担保できるかは不明である。J-CKD-Exはリアルワールドデータ(RWD)であり、RCTの不足点を補完するデータを得ることができる。SGLT2阻害薬は複数のRCTで腎保護効果が示された。J-CKD-DB-Exでその効果を検証したところ、同様の効果を示すことができた(論文投稿中)。
結論
EHRから15施設、14万8千件以上に及ぶ大規模な全国規模のCKDデータベース(J-CKD-DB)を構築した。その活用により本邦における腎臓病の実態、診療様態の解析が可能となった。RWDから生成したJ-CKD-DB及びJ-CKD-DB-Exによりデータ駆動型研究も可能となる。今後、本DBの利活用を促進し、医療の質向上・健康寿命延伸に資する更なるエビデンスを確立することを目指す。

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2021-07-06

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-06-02
更新日
2021-07-06

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202003004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
電子カルテデータ(HER)を活用し15施設、148,183件からなる大規模なリアルワールドデータベース(RWD)であるJ-CKD-DBを構築し、さらに縦断データベース(J-CKD-DB -Ex)へと拡充した。DB構築過程で複数の課題に遭遇し解決法を構築しえた。EHRの利活用方法の構築の端緒となるものでありEHR活用の好事例となりえる。RWDからエビデンス(RWE)を生成する方法論も構築した。RWDから生成されたビッグデータを活用したデータ駆動型研究への展開も期待できる。
臨床的観点からの成果
腎臓病の実態調査、予後規定因子の解析、腎臓病診療の質向上、健康寿命延伸に寄与することを目的として全国規模の包括的データベースを構築した。J-CKD-DBを用いて加齢に伴う腎機能低下への影響、アルブミン尿、蛋白尿の年齢層別、CKDステージ毎の貧血の有病率・治療実態、高尿酸血症の有病率の解析などを実施した。またJ-CKD-DB-Ex(30万人超)解析により、腎臓病予後予測アルゴリズムの開発と予測因子の同定を行い、論文にて発表した。
ガイドライン等の開発
得られたエビデンス(RWE)をガイドライン改定に活かし、医療の質向上に貢献する。アウトカムだけでなく、医療のプロセス、ガ標準医療への準拠率をQuality Indicatorを設定して測定することで、医療の質、Evidence-Practice gap地域による医療の質のばらつきも評価可能となる。現在「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」に対する遵守率などを検討中である。これらの過程を円環的に循環させることで、遵守可能で完成度の高いガイドライン作成が可能となる。
その他行政的観点からの成果
全国規模のCKD患者を対象にしたコホートを作成することで、費用対効果分析を行うために必要な基礎資料を作成する。マルコフモデルを用いた医療経済的アプローチが可能となる。腎臓病の病態推移確率を容易に、かつより精度高く算出可能となり、医療経済分析をより高い精度をもって進めることが可能となる。将来的に医療等IDが導入され、ナショナルレセプトデータベースへの連結、レセプト情報との突合が可能となれば、医療費負担の実態、ステージ毎の医療費負担の状況が把握でき、正確な費用対効果分析が可能となる。
その他のインパクト
本研究事業で構築されたデータベースは、AMEDの「ICTを活用したDKDの成因分類と糖尿病腎症重症化抑制法の構築」、「精緻な疾患レジストリーと遺伝・環境要因の包括的解析による糖尿病性腎臓病、慢性腎臓病の予後層別化と最適化医療の確立」、「糖尿病性腎症、慢性腎臓病の重症化抑制に資する持続的・自立的エビデンス創出システムの構築と健康寿命延伸・医療最適化への貢献」、「難治性腎障害の重症化要因の解析と治療法最適化を実現するためのリアルワールドデータ/ICT技術を活用したエビデンス創出」にも活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
ホームページ1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sofue T, Nakagawa N, Kanda E, et al.
Prevalences of hyperuricemia and electrolyte abnormalities in patients with chronic kidney disease in Japan: A nationwide, cross-sectional cohort study using data from the Japan Chronic Kidney Disease Database (J-CKD-DB).
PLoS One , 15 (10) , e0240402-  (2020)
10.1371/journal.pone.0240402.
原著論文2
Hajime Nagasu, Yuichiro Yano, Hiroshi Kanegae, et al.
Kidney outcomes associated with SGLT2 inhibitors versus other glucose-lowering drugs in real-world clinical practice: The Japan Chronic Kidney Disease Database.
Diabetes Care , 44 (11) , 2542-2551  (2021)
10.2337/dc21-1081.

公開日・更新日

公開日
2021-07-06
更新日
2023-06-09

収支報告書

文献番号
202003004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,350,000円
(2)補助金確定額
12,350,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,098,993円
人件費・謝金 1,236,277円
旅費 2,880円
その他 5,910,598円
間接経費 1,122,000円
合計 12,370,748円

備考

備考
自己充当20742円、利息6円

公開日・更新日

公開日
2022-03-02
更新日
-