医療用放射線の利用と防護の最適化に関する研究

文献情報

文献番号
199700297A
報告書区分
総括
研究課題名
医療用放射線の利用と防護の最適化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
古賀 佑彦(藤田保健衛生大学医学部教授)
研究分担者(所属機関)
  • 平松慶博(東邦大学医学部教授)
  • 石口恒男(名古屋大学医学部助教授)
  • 菊池透(自治医科大学RIセンター管理主任)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 健康政策調査研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在明確な規定のない在宅患者のX線撮影に関して、安全を確保する観点からその使用に関するガイドラインを策定することが本研究の主要な目的である。また、医療法と放射線障害防止法の二重規制部分の合理的な一元化を図り、また放射線管理区域の考え方に関する問題、放射線診療を患者の便益を最大にする正当化の問題の解決を図ることも研究の目的である。
研究方法
 以下の項目ごとに研究を行った。
a.在宅患者のX線撮影のガイドラインの策定: 在宅X線検査の必要性に関する調査を行うこと、わが国における在宅X線検査利用の実態を調査し、現に販売されている装置の調査、現実に組織的に行われている岩手県遠野市における在宅X線検査の現地調査と線量測定、使用されている携帯型のX線装置とファントムを使用した線量測定などを行った上で、適応と臨床判断、法的規制上の問題点、防護上の留意点、等からなるガイドライン案を策定した。
b.医療機関における放射性物質診療器具にかかる規制の一元化に関する研究:障害防止法で行われている安全確保の条件を医療法下で担保しなければならない。そのための具体的な方策について考察した。
c.医療機関に関する監視区域導入に関する問題点の研究:国際放射線防護委員会(ICRP)勧告の法令取り入れによる線量限度の切り下げを契機として、監視区域導入に関する問題点を明らかにする必要が生じている。そのたもの問題点を考察した。
d.放射線診療の正当化の判断に関する研究:有用な放射線利用を促進しつつ、必要最小限にとどめることである。そのために、医師の正しい臨床判断に資するためのガイドラインを策定した。
結果と考察
 a.在宅患者のX線撮影のガイドラインの策定:
1)在宅X線撮影に関する医師の意識調査:愛知県医師会の名簿から無作為に抽出した内科系の医院の院長200名にアンケート調査を行った。回収率は56%であった。在宅撮影が必要であるという回答は73%で、撮影希望の第一位は胸部であり、腹部、四肢、脊椎の順につづく。携帯型装置の保有率は15%であった。その他、文献調査を行った。
2)携帯型X線装置利用の実態調査:装置を販売している7社の協力を得て販売先の病院・医院(歯科を含む)1000軒に対してアンケート調査を行った。回収率は25.9%。利用場所は院内が56%,患者居宅は29%であった。居宅での撮影は年間70 枚以下が大半であるが、100枚を超えている施設も10%あった。利用、防護に対する意見も数多く回答された。
3)在宅歯科診療の状況:広島県における状況を広島県歯科医師会の協力を得て調査した。広島では平成8年10月から9年8月までに199件の在宅診療が行われ、X線装置を利用したのはその6.5%であった。文献によって愛知県の状況も調査した。
4)岩手県遠野市における在宅X線撮影の実地調査:県立遠野病院の協力を得て、在宅診療に同行し実態をみるとともに、患者の居宅において患者線量および散乱線測定を行った。患者の表面入射線量は、胸部で0.2-0.4mGy、側方の散乱線は管電圧80kV、距離1mで0.237μSv/mAs、1.5mでは測定不能であった。
5)ファントムによる測定:携帯型X線撮影装置、携帯型歯科撮影装置を用いてファントムを用いた線量測定を周囲の線量分布を含めて3施設で行った。線量はほぼ遠野病院と同様であった。
6)ガイドライン案の策定:上記のデータに基づいて、医師、歯科医師、診療放射線技師、メーカの技術者等11名の研究協力者、9名のオブザーバによる検討会をもち、はじめに、現状と問題、在宅医療と携帯型X線装置使用の判断と適用、法的規制上の扱い、防護状の留意点、今後の課題からなる在宅X線撮影に関するガイドライン案を策定した。なお、資料として、携帯型装置の空間線量分布、撮影条件、X線診療以外の方法、現在市販されている装置一覧をつけた。
7)考察:在宅医療はわが国の医療において重要な位置をしめる。基本的にX線室で行わなければならないX線検査を、在来は医療機関内では医師の判断で特別に移動して行うことも可能であった。しかし、居宅における撮影に関して明確な指針がなかったので、実態調査、線量測定等のデータに基づいて安全利用のためのガイドライン案を策定したものである。今後、この案は行政に反映されうるものと考える。
b.医療機関における放射性物質診療器具にかかる規制の一元化に関する研究:放射性物質のうち、医薬品である診療用放射性同位元素は薬事法および医療法で規制されているが、密封された放射性同位元素は科学技術庁管轄の放射線障害防止法の適用をうける。その二重規制の状況を明確にした。さらに、医療機関においても障害防止法と同等の安全性を確保するため、取扱責任者を指定するなどの放射線安全管理体制の確立、教育訓練、監視機構とその業務を行う者に対する教育システムの整備案を策定した。 
c.医療機関に関する監視区域導入に関する問題点の研究:在来は過大な規制につながりかねないとして導入は否定的であったが、1990年勧告の法令取入れ作業が進む中であらためて検討を行った。放射線管理区域境界の線量を、ライナック室、X線撮影室等で実測した結果、実質的に公衆の限度(1mSv/y)が担保されており、一般には監視区域導入の必要はないと結論した。
d.放射線診療の正当化の判断に関する研究:わが国の環境放射線による被ばく線量の約60%が医療被ばくであり、これを合理的に低減することが急務とされている。そのためにもっとも有効な方法が、その行為の選択を合理的に行い、無用な検査を省くことである。主に関東在住の放射線診断を専門としている15名の放射線医からなる検討会を設け、「放射線検査の正当化の臨床判断に関するガイドライン」を作成した。被ばく低減のために考慮すべき共通事項として、適応を厳密にする・高性能装置を用いる・高感度記録系を用いる・ディジタルシステムの利用等をあげ、各部位ごとに日常的に遭遇する各種疾患を対象にして病態・最初に行うべき画像検査・補助的な画像検査などについて具体的に記載した。
放射性物質診療器具にかかる規制の一元化、医療機関に関する監視区域導入に関する問題、および放射線診療の正当化に関するガイドラインは、今後の放射線診療を適正にかつ安全に行う上で重要な課題である。
結論
 現在法的に明確な規定のない在宅患者のX線撮影に関して、安全を確保する観点から、その使用の実態調査および線量測定を行い、その結果を踏まえて専門家の議論によってそれに関するガイドラインを策定した。また、放射線を安全かつ有効に利用するために、放射性物質診療器具の規制の一元化の問題、医療機関における監視区域導入の検討、放射線診療の正当化の臨床判断指針の策定を行った。

公開日・更新日

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