ウイルスを標的とする発がん予防の研究

文献情報

文献番号
200621010A
報告書区分
総括
研究課題名
ウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H16-3次がん-一般-014
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 下遠野 邦忠(京都大学 ウイルス研究所)
  • 林  紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 松浦 善治(大阪大学 微生物病研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 鈴木 哲朗(国立感染症研究所 ウイルス2部)
  • 井廻 道夫(昭和大学 医学部)
  • 川名  敬(東京大学 医学部付属病院)
  • 内田 茂治(東京都西赤十字血液センター 技術部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究費
64,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトパピローマウイルス(HPV)は生殖器粘膜に、C型肝炎ウイルス(HCV)は肝細胞に長期間持続感染し、それぞれ子宮頸がんと肝臓がんを発症させる。そこで、15種の高リスクHPV群に対するワクチンの開発と、持続感染しているHPVを排除する方法を探る。HCVの細胞への侵入から複製、粒子の形成に至るすべての素過程を調べ、介入する方法を探る。HCV慢性肝炎患者の免疫状態を調べ、新たな免疫治療方法の開発に繋がる情報を得る。輸血によるウイルス伝播の動向を探る。
研究方法
HPVL2蛋白質の交差性中和エピトープを同定した。このエピトープを挿入したキメラキャプシドを作製し、その抗原性を調べた。HPV複製開始点を持つoriプラスミドを、HPVE1、E2蛋白質の発現プラスミドと共に細胞に導入し、複製をモニターする実験系を作った。HCVゲノムが複製するアンプリコン細胞を使って、複製阻害剤を探索した。酵母2-hybrid系や共沈実験で、HCVNS5Aやコア蛋白質と結合する細胞蛋白質を探索した。C型慢性肝炎患者の樹状細胞(DC)の機能と抗HCVCTLを調べた。日赤での初回献血者の抗体を調査した。
結果と考察
キメラキャプシドをウサギに免疫して得た抗血清は、調べた全ての高リスクHPV(16、18、31、52、58型)を中和した。SH基に結合する試薬は、HPVの感染性を失わせた。サイクロスポリン誘導体NIM811は、インターフェロンとの併用で強い抗HCV複製阻害効果を示した。HCVのNS5AはFKBP8、Hsp90と結合した。この複合体形成はHCVゲノム複製に不可欠であった。全ての遺伝子型のHCVコア蛋白質はE6AP依存性にユビキチン経路で分解された。C型慢性肝炎患者では、DCのウイルス感知機能が低下していた。抗HCVCTLエピトープの最小有効領域を明らかにした。平成7から17年にかけて、福岡ではHTLV-I陽性率が低下したが、栃木と東京では若年層における陽性率の低下が全く認められなかった。
結論
交差性中和エピトープを持つキメラキャプシドは型共通ワクチン抗原の候補である。SH基に結合する試薬は、HPV感染阻害薬としての発展が期待される。NIM811は、免疫抑制作用のないことから臨床応用を検討する。NS5AとFKBP8、Hsp90の結合阻害剤やコア蛋白質とE6APの結合阻害剤は抗HCV剤になる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

文献情報

文献番号
200621010B
報告書区分
総合
研究課題名
ウイルスを標的とする発がん予防の研究
課題番号
H16-3次がん-一般-014
研究年度
平成18(2006)年度
研究代表者(所属機関)
神田 忠仁(国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 下遠野邦忠(京都大学 ウイルス研究所)
  • 林  紀夫(大阪大学大学院 医学系研究科)
  • 松浦 善治(大阪大学 微生物病研究所)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 鈴木 哲朗(国立感染症研究所 ウイルス2部)
  • 井廻 道夫(昭和大学 医学部)
  • 川名  敬(東京大学 医学部付属病院)
  • 内田 茂治(東京都西赤十字血液センター 技術部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 第3次対がん総合戦略研究
研究開始年度
平成16(2004)年度
研究終了予定年度
平成18(2006)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高リスク型ヒトパピローマウイルス(高リスクHPV)は生殖器の粘膜に、HCVは肝細胞に感染し、数年から数十年に渡る持続感染を経て、それぞれ子宮頸がんと肝臓がんを発症させる。15種の高リスクHPVの感染を予防できるワクチン及びHPV、HCVの増殖を阻害する方法を開発して持続感染を阻止し、発がんを予防する。
研究方法
HPVもHCVも増殖する実用的な培養細胞系が無い。HPVキャプシドにレポーター遺伝子発現プラスミドを組み込んだ感染性偽ウイルスを作製し、中和抗体の測定や感染初期過程の解析に使った。ゲノムの複製やウイルスプロモーターの転写活性をモニターできる実験系を作り、ゲノム複製からウイルス粒子形成に至る分子機構を詳しく調べて、介入する標的を探索した。HCV慢性肝炎患者の抗HCV免疫を調べて、免疫系から回避する機構を探った。輸血によるウイルス伝播の動向を探った。
結果と考察
HPV16型L2蛋白質に型共通中和エピトープを見出した。このエピトープをHPV16型L1蛋白質に挿入したキメラ蛋白質で形成されるキャプシドをウサギに免疫して得た抗血清は、調べた全ての高リスクHPV(16、18、31、52、58型)を中和した。SH基に結合する試薬は、HPVの感染性を失わせることが示された。サイクロスポリン誘導体NIM811は、インターフェロンとの併用で強い抗HCV複製阻害効果を示した。HCVのNS5AはFKBP8と結合し、さらにHsp90と結合した。この複合体形成はHCVゲノム複製に不可欠であった。HCVのコア蛋白質がE6AP依存性にユビキチン経路で分解される機構は全ての遺伝子型のHCVで共通で、HCVの増殖量を持続感染に適したレベルに抑制する機構であると考えられた。HCVの新しい受容体候補分子としてhFGFR5を見出した。
結論
キメラ蛋白質で形成されるキャプシドは、型共通ワクチン抗原となりうる。SH基に結合する試薬は、HPV感染阻害薬としての発展が期待される。NIM811は、免疫抑制作用のないことから臨床応用を検討する。NS5AとFKBP8、あるいはFKBP8とHsp90との結合阻害剤は、新たな抗HCV剤となる可能性があり、特に、免疫抑制活性を欠損し、FKBP8に結合可能なFK506誘導体が有望だと思われる。HCVコア蛋白質とE6APの結合も創薬に繋がる情報である。

公開日・更新日

公開日
2007-04-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2007-12-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200621010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 HPVの複数の型の感染性偽ウイルスを揃えたことで、HPVの中和抗体を指標とする血清疫学が可能となった。ヒト初代角化細胞にHPVゲノムを導入し、ラフト培養で皮膚モデルを作製する方法は、感染細胞の分化に連動するHPV生活環の解明に寄与する。HCVのエンヴェロープを被った組換えVSVは、HCV感染受容体の同定、感染初期過程の解析に役立つ。
臨床的観点からの成果
 キメラ蛋白質で形成される粒子は、型共通ワクチン抗原となりうることが確認された。臨床試験に使うための精製方法は、ほぼ確立したが、粒子内に取り込まれる核酸の排除が残された課題である。HPV16型のE7蛋白質を表面に提示する乳酸菌の経口投与は、粘膜に効率よくE7特異的CTLを誘導するので、HPV増殖細胞を排除するワクチン療法に発展する可能性がある。
ガイドライン等の開発
特記事項無し
その他行政的観点からの成果
平成7、12、17年での全国の初回献血者のHTLV-I抗体陽性率の変化を調べ、特に東京では若年層で陽性率が低下していないことが分かった。妊婦に母子感染の危険性を周知し、希望者には出産前に抗体検査を行う等の行政施策への提言となる。
その他のインパクト
「粘膜指向性ヒトパピローマウイルス群の感染予防ワクチン抗原」出願中。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
80件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
100件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kondo K, Ochi H, Matsumoto T,et al.
Modification of Human Papillomavirus-like Particle Vaccine by Insertion of the Cross-reactive L2-epitopes.
J. Med. Virology , 35 , 841-846  (2008)
原著論文2
Sato, K., Takeuchi, T., Kukimoto, I., et al.
Human Papillomavirus Type 16 P670 Promoter is Negatively Regulated by CCAAT Displacement Protein. degradation, interacts with adenomatous polyposis coli.
Virus Genes , 35 , 473-481  (2007)
原著論文3
Kondo, K., Ishii, Y., Ochi, H., et al.
Neutralization of HPV16, 18, 31, and 58 Pseudovirions with Antisera Induced by Immunizing Rabbits with Synthetic Peptides Representing Segments of the HPV16 Minor Capsid Protein L2 Surface Region.
Virology , 358 , 266-272  (2006)
原著論文4
Ishii Y, Kondo K, Matsumoto T,et al.
Thiol-reactive Reagents Suppress Intracellular Trafficking of Human Papillomavirus Type 16 Pseudovirion by Binding to Cysteine Residues of Major Capsid Protein L1.
Virology Journal , 4 , 110-116  (2007)
原著論文5
Murayama A, Date T, Morikawa K, et al.
The NS3 helicase and NS5B-to-3'X regions are important for efficient hepatitis C virus strain JFH-1 replication in Huh7 cells.
J. Virol. , 81 , 8030-8040  (2007)
原著論文6
Kukimoto, I, Takeuchi, T., Kanda, T.
CCAAT-Enhancer Binding Protein _ Binds to and Activates the P670 Promoter of Human Papillomavirus Type 16.
Virology , 346 , 98-107  (2006)
原著論文7
Murata T, Shimotohno K.
Ubiquitination and proteasome-dependent degradation of human eukaryotic translation initiation factor 4E.
J Biol Chem. , 281 , 20788-20800  (2006)
原著論文8
Mizutani T, Endoh D, Shirato K, et al.
Rapid genome sequencing of RNA viruses.
Emerg. Infect. Dis. , 13 , 322-324  (2007)
原著論文9
Goto K, Watashi K, Murata T, et al.
Evaluation of the anti-hepatitis C virus effects of cyclophilin inhibitors, cyclosporin A, and NIM811.
Biochem Biophys Res Commun. , 343 , 879-884  (2006)
原著論文10
Shimakami T, Honda M, Kusakawa T, et al.
Effect of hepatitis C virus (HCV) NS5B-nucleolin interaction on HCV replication with HCV subgenomic replicon.
J Virol. , 80 , 3332-3340  (2006)
原著論文11
Tsumura A, Hayakawa T, Kumaki Y, et al.
Maintenance of self-renewal ability of mouse embryonic stem cells in the absence of DNA methyltransferases Dnmt1, Dnmt3a and Dnmt3b.
Genes Cells , 11 , 805-814  (2006)
原著論文12
Tani H., Komoda Y., Matsuo E. et al.
Replication-competent recombinant vesicular stomatitis virus encoding hepatitis C virus envelope proteins.
J. Virol. , 81 , 8601-8612  (2007)
原著論文13
Ishii N, Watashi K, Hishiki T, et al.
Diverse effects of cyclosporine on hepatitis C virus strain replication.
J Virol. , 80 , 4510-4520  (2006)
原著論文14
Mori Y, Yamashita T, Tanaka Y, et al.
Processing of Capsid Protein by Cathepsin L Plays a Crucial Role in Replication of the Japanese Encephalitis Virus in Neural and Macrophage Cells.
J. Virol. , 81 , 8477-8487  (2007)
原著論文15
Komohara Y, Yano H, Shichijo S, et al.
High expression of APOBEC3G in patients infected with hepatitis C virus.
J Mol Histol. , 37 , 327-332  (2006)
原著論文16
Hamazaki H, Takahashi H, Shimotohno K, et al.
Inhibition of hcv replication in HCV replicon by shRNAs.
Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids , 25 , 801-805  (2006)
原著論文17
Aly HH, Watashi K, Hijikata M, et al.
Serum-derived hepatitis C virus infectivity in interferon regulatory factor-7-suppressed human primary hepatocytes.
J Hepatol. , 46 , 26-36  (2007)
原著論文18
Moriishi K., Mochizuki R., Moriya K., et al.
Critical role of PA28γ in hepatitis C virus-associated steatogenesis and hepatocarcinogenesis.
PNAS , 104 , 1661-1666  (2007)
原著論文19
21. Yamamoto M., Uematsu S., Okamoto T. et al.
Enhanced TLR-mediated NF-IL6 dependent gene expression by Trib1 deficiency.
J. Exp. Med. , 204 , 2233-2239  (2007)
原著論文20
27. Sakaki M, Hiroishi K, Baba T, et al.
Intrahepatic status of regulartory T cells in autoimmune liver diseases and chronic viral hepatitis.
Hepatol. Res. , 38 , 869-878  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-09-18
更新日
-