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文献情報

文献番号 200300519A
報告書区分 総括
研究課題 インフルエンザ脳症の発症因子の解明と治療及び予防方法の確立に関する研究
課題番号  
研究年度 平成15(2003)年度
研究代表者(所属機関) 森島恒雄(岡山大学大学院医歯学総合研究科) 
研究分担者(所属機関) 中村祐輔(東京大学医科学研究所),富樫武弘(市立札幌病院),玉腰暁子(名古屋大学大学院医学研究科),田代眞人(国立感染症研究所),横田俊平(横浜市立大学医学部),水口雅(自治医科大学医学部),佐多徹太郎(国立感染症研究所),山口清次(島根大学医学部),岡部信彦(国立感染症研究所),布井博幸(宮崎大学医学部),塩見正司(大阪市立総合医療センター),市川光太郎(北九州市立八幡病院),細矢光亮(福島県立医科大学),市山高志(山口大学医学部) 
研究区分 厚生労働科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究
開始年度 平成15(2003)年度
終了予定年度 平成17(2005)年度
研究費 26,824,000円
研究者交替、所属機関変更  

研究報告書(概要版)

概要版 研究目的:
インフルエンザ脳症は、インフルエンザに罹患した小児において、意識障害が急激に進行し、約30%が死に至る重篤な疾患であり、毎年数百例の発症があるため、社会的に大きな問題となっている。しかし、なぜその病態に至るのか(発症因子)については未だ不明であり、そのため有効な治療法・予防方法が十分に確立していないのが現状である。本研究の目的は、(1)今までの研究成果から強く推測される遺伝的背景について、遺伝子多型の解析をSNPsを用いて解析することにより、異常部位を明らかにし、その機能解析を通じてハイリスクを同定し、本症の完全な予防法を確立することである。 また、(2)現在、本症の重症例の治療は困難を極めており、小児救急医療・集中治療部門の専門家の研究班への参加により、治療法の確立を目指す。全国アンケート調査をもとに解析を実施し、初期医療、二次、三次医療を視野に入れた「インフルエンザ脳症診療ガイドライン」としてまとめていく。一方、予防接種が本症を予防しうるか否かも重要な課題であり、後方視的・前方視的疫学研究により、予防効果の検討を実施する。 以上の3項目を本研究の主な目的とした。
研究方法:
1.全国調査の継続:1999年度より本症の全国調査を実施してきた。2002/2003シーズンも、ウイルス亜型による頻度の差、抗インフルエンザ薬の本症発病への影響、治療効果の検討、及びワクチンの予防効果などの評価のために、各都道府県からの1次調査の報告および報告を受けた症例の詳細な2次調査(本2次調査は全国2500の小児科を有する医療施設も対象とする)を実施した。この疫学調査の実施に際しては、岡山大学医学部疫学研究倫理審査委員会の承認を得て行なった。 2.ゲノムプロジェクト:東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターとの共同研究で、重篤な脳症を発症した小児患者約200例及びコントロールとしてインフルエンザのみで治癒した小児約200例について、SNPsを用いて、全coding領域について解析を行い、遺伝子多型の存在を明らかにする。本プロジェクトにおいては、あらかじめ複数の遺伝子多型の存在を仮定しており、約1年〜2年の間に解析を完了する。遺伝子多型の解析で異常が認められた部位における機能解析を直ちに実施する。機能が明らかにした後、ハイリスク同定のための診断キットを作成する。本研究は、名古屋大学医学部および岡山大学医学部ヒトゲノム研究倫理審査委員会を含む各施設の倫理委員会の承認の下に実施されている。 3. 治療法の確立及びガイドラインの作成:インフルエンザ脳症の重症例の治療にあたる中核施設から研究班員・研究協力者としての参加を募り、本症の治療法の検討会を複数回実施する。その結果をふまえ、次シーズンにおける治療方針(案)について前方視的に検討を行う。最終的な総合討論を基に、診療ガイドラインを作成していく。この時、同時に研究が進行する、本症の病態に関する研究及び早期診断法の確立に関する研究の結果もガイドラインに含めていく。 4. インフルエンザワクチンの脳症予防効果の疫学的研究:2002/2003シーズンにおける後方視的疫学研究を実施する。すなわち、本シーズンの脳症患者のワクチン接種率をインフルエンザのみで治癒した患者のワクチン接種率と比較を行う。この調査において、ワクチンが、インフルエンザの発病を阻止できなかった症例において、脳症への重症化が予防できるかどうかの結果を得る。
結果と考察:
(1)2002/2003シーズンのインフルエンザ脳症の全国調査を実施し、全報告症例(1次調査と2次調査を含む)の合計は155例であった。死亡は30例(19%)で、前年に比べ、やや悪化の傾向が認められた。ウイルス学的には90%以上がA香港型で、残りはB型であった。また、このシーズン、大阪において、インフルエンザの発熱後、数時間後に自宅で死亡が確認される急死例が相次ぎ、地区の分担研究者・研究協力者を中心に疫学調査が実施されたが、現在までのところ急死につながる原因は確定されていない。しかし、このような治療も間に合わない急死例の発症要因の調査は重要であり、今後対象症例を全国に広げ、疫学調査を継続中である。 (2)2次調査に際して、治療法の内容を詳しく調べ、インフルエンザ脳症の重症例の有効な治療法の確立を急いでいる。現在までのところ、ステロイドパルス療法および大量ガンマグロブリン療法が重症例に対してよく用いられ、予後の改善につながる可能性が高い。その他、脳低体温療法やATV補充療法・血漿交換などの治療法も加え、多変量解析などによる有効な治療法の検討が進んでいる。最終的にはこれらの結果をまとめて、初期医療から2次・3次医療にいたる「インフルエンザ脳症の診療ガイドライン」の作製を目指している。 (3)国際疫学共同研究については、SARS、高病原性トリインフルエンザなどの流行もあり、アジア諸国との連携は計画通りには進んでいないのが現状である。しかし、米国CDCとの定期的な会議をもち、共通の「インフルエンザ脳症の定義」の下に(CDCはMMWRに我々の論文を紹介しながら米国におけるインフルエンザ脳症の調査を呼びかけている)、共同調査が開始され、米国やカナダなどからもインフルエンザ脳症の報告が増加している。特に2003/2004シーズンでは、米国の小児死亡が152例報告され、この一部がインフルエンザ脳症によると推定されており、私共の研究班で集積した知見(治療法を含む)を米国側に提供している現況である。 (4)インフルエンザ脳症ゲノムプロジェクトについては、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターとの共同研究が進行中である。岡山大学医学部ゲノム倫理審査委員会など各施設の倫理委員会の承認の下、脳症症例とインフルエンザだけで完治した症例について、SNPs によるcoding region全領域の解析が進められている。本研究の進行に当たってはプライバシーの保護、インフォームドコンセントの完全な実施などについて十分な配慮が行なわれている。まだ全体として解析可能な症例数に達しておらず最終的な結論を得るにはいたっていない。 (5)インフルエンザ脳症の発症機序の解明が進んだ。すなわち、重症例では病初期からチトクロームCの上昇が認められ、アポトーシスが全身で生じており、また回復期(症状固定期)においても、髄液中のチトクロームCの高値が示され中枢神経系のアポトーシスが関与すると思われた。また、サイトカインについては血清中IL-6、sTNFR1、IL-10は脳症予後不良群で、高値だった。特に死亡5例では血清中IL-6、sTNFR1、IL-10は著明な高値を示した。髄液中IL-6は予後不良群で、高値だった。以上から、これらのサイトカインが病態の悪化に強く関連していることが示唆された。また、熱せん妄様の症状にもIL-6が関与する可能性が示されている。同時に、従来の研究から血管内皮の障害が起きていることが明らかになっているが、特に両側大脳基低核や視床などに血流障害が生ずることが報告されている。 発症要因についての重要な知見として、インフルエンザ脳症の一部の症例(約3%)に有機酸脂肪酸の代謝異常が関与している可能性が示された。今後さらに検討を続けたい。 (6)インフルエンザワクチンの脳症予防効果について、2001/2002シーズンの症例について、インフルエンザ脳症発症症例におけるワクチン接種率と同時期・同地域・同年齢のインフルエンザ罹患(脳症を発症しなかった)症例のワクチン接種率を比較するケースコントロール研究が実施された。詳細は玉腰班員の報告で述べられているが、対照症例数の不足のため確定的なことがいえないのが現状である。
結論:
(1)2002/2003シーズンは九州および西日本を中心にインフルエンザ脳症の多発が見られた。この多くはA香港型によるものであり、A香港型が小児で流行する時、インフルエンザ脳症が多発する、とする従来の我々の報告を支持する結果であった。以上から、A香港型の流行予測から脳症の多発の危険性をあらかじめ衆知徹底することが可能である。また、重症例の治療法についていくつかの有効な治療法の可能性が示唆されており、特にステロイドパルス療法と大量ガンマグロブリン療法がよく用いられていた。これらの治療法は現実に一般診療の中で用いられつつある。これらをさらに詳細に解析し、診療上役に立つ「インフルエンザの症診療ガイドライン」にまとめていきたい。 (2)インフルエンザ脳症ゲノムプロジェクトについては、現在症例を増やして解析が進められている。あらかじめ多数の遺伝子多型の存在を仮定して進めている本研究では、本症の発症因子につながる遺伝子多型の検出の可能性はかなり高いと思われる。その後、異常部位の機能解析を行い、それを発症リスク解明につなげていきたい。 (3)インフルエンザ脳症の病態については、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインの関与がさらに明らかになった。特にTNF-αを介した全身のアポトーシス(特に脳および肝)が主な病態と考えられ、また血管内皮細胞の障害が脳浮腫の急激な進行や血流障害につながることが示された。これらは、治療法の検討の上で重要な情報と考えられる。 (4)インフルエンザ脳症について世界的に認識が高まり、各国から本症の報告がなされるようになった。特に、疫学・臨床像・治療法などについて研究班で得られた知見を依頼に応じて、公開している。 (5)インフルエンザワクチンが脳症を予防できるか否かについては、2001/2002シーズンにおける後方視的検討では症例数の不足のため有意な効果は認められていない。2003/2004シーズンについても同様の検討を予定しており、調査を継続していきたい。
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