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文献情報

文献番号 199900492A
報告書区分 総括
研究課題 インフルエンザ脳炎・脳症に関する研究(総括研究報告書)
課題番号  
研究年度 平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関) 森島恒雄(名古屋大学医学部) 
研究分担者(所属機関)   
研究区分 厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
開始年度 平成11(1999)年度
終了予定年度
研究費 11,000,000円
研究者交替、所属機関変更  

研究報告書(概要版)

概要版 研究目的:
小児を中心にインフルエンザに伴う重篶な中枢神経系の障害(急性脳炎・脳症、以下インフルエンザ脳炎・脳症)の報告が、近年増加している。幼児を中心に、高熱と痙攣を伴い急速に意識障害が進行し、数日で死に至る症例が相次ぎ大きな社会問題となっているが、その実態は必ずしも明らかでない。本研究は、このインフルエンザ脳炎・脳症について全国調査を実施し、実態を明らかにすることを目的とした。
研究方法:
1999年1〜3月、わが国においてインフルエンザA型(H3N2、香港)とB型の流行がみられ、幼児を中心に、インフルエンザに伴う脳炎・脳症の報告が続いた。厚生省は第一次全国調査を実施し、217例の報告を受けた。 本研究の中で、この第一次調査で報告された217症例について届出のあった医療施設の主治医に対して詳細なアンケート調査を計画した。全国の専門家7名(別紙記載)に研究協力者としての参加を依頼し、研究班を組織して(インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班)、以降はアンケートの内容、発送、回収、解析、報告など研究班としての活動を継続していった。1999年4月以降、アンケート項目を検討し、同7月、第二次アンケート発送、同9月に回収、ただちに集計と解析を行った。この間、情報の収集については主治医を通じて行い、実名を明らかにしないなど患者のプライバシーの保護には充分注意した。
結果と考察:
1.インフルエンザ脳炎・脳症の疫学  全国各地での発症数は北海道から九州まで同じように報告があり、全国的な広がりがみられた。内容が解析できた202例(男102例、女100例)の中で、インフルエンザの診断の内訳は、ウイルスが分離されるか、抗原(EIAキット)・RCR法で陽性が確認できた症例101例、ウイルス抗体価の有意の上昇で確認できた症例46例、周囲のインフルエンザの流行と臨床症状から診断できた症例39例などであった。その中でA型(H3N2)の感染は130例、B型の感染は17例であった。インフルエンザA型(H3N2香港)による本症の発生は1999年1月-2月に集中していた。すなわち四分の三の症例がウイルス学的にインフルエンザと確定診断できた症例である。感染経路は家族からが41%、保育所・幼稚園・学校で流行中であったのが22%であった。 2.臨床像 年齢別発症数の検討では、1歳をピークに0〜5歳が162例と全体の80.2%を占めた。一方、10〜19歳14例、20歳以上は8例と年長児や成人の発症は稀であった。インフルエンザの発症から神経症状の発現までの期間は、発熱と同日に痙攣や意識障害などの神経症状を示した例は55例、発熱の翌日に神経症状を示した例は103例で、合わせて78.2%がインフルエンザ発症同日か翌日に脳炎・脳症を発症している。基礎疾患のない患者が169例(83.7%)を占めた。最高体温は39-40℃台が最も多かった。主な症状の出現頻度は、意識障害に加え、痙攣79.7%、咳36.1%、嘔吐26.2%、鼻汁19.3%、下痢11.9%等であった。 3.検査所見 検査結果の解析では血小板数の低下、sGOT(AST)、sGPT(ALT)、LDHなどの肝機能値の異常高値、血液凝固系検査の異常を示す例が多くみられ、これらの症例の予後は悪かった。すなわち、血小板数の15万/μ・以下の低下は104例にみられ、特に5万/μ・未満の症例の致命率は83.8%と高かった。また、AST、ALT、LDHの高値を示した例の予後も悪くAST1,000 IU/L以上の症例の致命率は73.8%であり、ALT、LDHも同様の傾向を示した。重症例にはDICを伴うことが多かったが、凝固系検査ではプロトロンビン時間の延長(70%未満又は15秒以上)は58例にみられ、致命率は60.3%とやはり高かった。一方、血中アンモニア高値(100/ug/dl以上)は11.4%と頻度は低かった。 髄液検査では細胞増多を認めた例は100/μ・以上5例(2.5%)、10/μ・以上17例(8.4%)と少なく、蛋白増加も100・/dl以上は19例(9.4%)とほぼ正常であった。PCR法で髄液中のインフルエンザゲノムの検出を行った18例中3例(16.7%)がPCR法陽性で、他は陰性であった。 4.病態の検討 インフルエンザに伴う脳症としては、従来Reye症候群が知られている。この他、近年、急性壊死性脳症やHSES(hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome、出血性ショックを伴う脳症症候群)およびこれらのカテゴリーに入らない一般的な急性脳炎・脳症の臨床像を示す病態など、大別して四つが認められる。主治医による病態の分類では、いわゆる広義の脳炎・脳症に含まれるとする例が61%と多く、Reye症候群は5%と少なかった。これは検査結果の中で、Reye症候群に特徴的とされる血糖の低下やアンモニアの増加を示す症例は少なかったことと一致していた。病理学的検討結果も加えるとインフルエンザ脳炎・脳症はいわゆるReye症候群とは異なる病態と考えた方がよいと思われる。 5.予後 本症の予後はきわめて重篶である。すなわち、202例中死亡61例(31%)、日常生活で介護を必要とする重度後遺症18例(9%)、同必要としない軽度後遺症33例(17%)であり、後遺症なく完治した症例は87例(43%)に過ぎなかった。表に示した、この致死率31%という数字は、ウイルス性脳炎・脳症の中でもきわめて高い数字であり、本症の重篤なことを示している。脳炎・脳症の発症から死亡までの日数は0〜2日と短い例が多かった。 6.解熱剤との関連 インフルエンザ脳炎・脳症202例中、以下の項目(性別、年齢、インフルエンザ、発症から脳障害発症までの期間、最高体温、予後、解熱剤の使用の有無とその種類)の記載があった181例(その中の170例が15歳以下の小児)で解熱剤と予後について検討したところ、解熱剤を使用しなかった63例中死亡16例(25.4%)、アセトアミノフェン使用例78例中死亡23例(29.5%)、ジクロフェナクナトリウム使用例25例中死亡13例(52.0%)、メフェナム酸使用例9例中6例(66.7%)、その他の解熱剤使用例22例中5例(22.7%)であった。解熱剤単剤のみ使用された症例の死亡率は、それぞれアセトアミノフェン25.0%、ジクロフェナクナトリウム40%、メフェナム酸40%であった。以上のごとく、インフルエンザ脳炎・脳症で一部の解熱剤を使用された症例で、死亡率の上昇がみられた。この結果には、多くの因子が関与することが予測されたため、性別、年齢、インフルエンザ発症から脳障害発生までの期間、最高体温、複数の解熱剤の影響などを含めたLogistic Modelによる多変量解析を行い(名古屋大学医学部保健学科 榊原教授に依頼)、解熱剤とインフルエンザ脳炎・脳症の死亡について、わずかではあるが、有意な結果を得た。以上の結果から、解熱剤の一部について、インフルエンザ脳炎・脳症の重症化に何らかの関連がある可能性が示唆されたため、この結果を厚生省医薬安全局に報告した。ただし、症例数が少なく、多変量解析における有意差もわずかであることから、今後さらなる調査が必要と思われる。 以上の如く、ウイルス学的に確認された小児を中心としたインフルエンザ脳炎・脳症は全国的に認められ、重篤な病態を示している。また、集中治療の機能を持った設備やスタッフの整った病院においても、有効な治療法を見出せない現状である。このように本症の治療法および予防については未だ確立していない。この大きな理由としてインフルエンザ感染に伴う脳障害の発生するメカニズムが不明なことが挙げられる。今後の研究課題として、海外での本症の発生状況、剖検例の詳細な病理学的解析などについて検討を進めていく必要がある。また、リスクファクターがより明確になるように、プロスペクティブな視点を加えた調査も重要である。今回の報告例の中でインフルエンザワクチンの接種を受けた症例はなかったが、ワクチンのインフルエンザ脳炎・脳症の予防効果は不明であり、この点についても至急明らかにする必要がある。
結論:
インフルエンザ脳炎・脳症は小児を中心に全国的に発生している。今回、202例の解析を行ったが、実数はこの数を上まわると考えられる。本症の致命率(死亡率)は31%と極めて高く、また多くの症例がインフルエンザ発症後間もなく神経症状を示し、死亡していた。 検査結果から、血小板の減少、肝機能値の上昇、血液凝固検査の異常などが予後不良の危険因子として明らかになった。また、病態として従来のReye症候群とは異なる病態が大部分を占めることも示唆された。今後、有効な治療法、予防法の確立に向け、早急に対策を立てる必要がある。
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